黒雲が垂れ込めている。
左舷に白波をたてて疾走する駆逐艦の黒いシルエットが見える。
我々の後方6キロには、連合艦隊が世界に誇る巨大戦艦“大和”が続いているのだ。
ブリッジの端から、大津は誇らしい気持ちで対潜監視を続けていた。
1945年4月1日、アメリカ軍は大軍を持って沖縄に上陸してきた。
大本営は全力を挙げてこれを迎え撃つべく、航空機による特攻作戦を開始した。
これに合わせて、艦隊による水上特攻作戦「天一号」が発動された。
世界最大の戦艦“大和”を核として、巡洋艦“矢矧”、駆逐艦8隻をもって沖縄の上陸地点に突入し、敵艦隊と輸送船団を撃破しようとしたのである。
しかし、航空機の援護のない水上艦艇のみによる突入は、成功の見込みのない特攻だった。
この作戦に、大津の乗る駆逐艦“雪風”も加わっていた。
寺内艦長の訓示から、この攻撃が生還を期しがたいものであることは感じていた。
しかし、予備士官として1月に雪風に乗艦して以来、おぼえるべきこと、やるべきことが山のようにあった。
一日一日の仕事をこなすのが精一杯であり、出撃が決まったとき、むしろ“ホッ”とした気持ちだった。
次から次へと後ろに流れていく黒い海面を見ていると、この一年間が走馬燈のように脳裏によみがえってくる。
学業半ばでの学徒動員があり、海軍予備学生としての基礎訓練が始まった。
激しい訓練とビンタにより、命令に無条件に従う身体と頭が作られた。
そして、航海学校での術科教育を経て、“雪風”の航海士として乗艦したのだった。
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