4.ダムがほしい!
3年がたち、中西らとエチオピア当局による灌漑農業改善プロジェクトは終了した。
灌漑水路には水が流れ、対象地域は一面のテフ畑になった。
中西はカウンターパートのギルマ君と、目の前に広がる緑の大地を見ながら、話をする。
「この景色がエチオピア全土に広がるとよいですね。」
「そのためには、灌漑設備用の資金が足りません。」
「それより、まず、水が足りないのです。」
「エチオピアの雨季は6月から9月末までで、大量の雨が降ります。」
「その水をため池にため、乾季に使っているのですが、全然足りません。」
「雨季に大量に降った雨水はナイル河に流れてしまい、スーダンとエジプトの流域を潤しています。」
「なんとか、エチオピアの出口に大きなダムを作り、貯水し、それを農業用水などに使いたいのです。」
「それに、ダムで発電すれば、その電力をエチオピア国内だけでなく、外国に売ることもできるのです。」
「ところが、ナイル河下流国のエジプトとスーダンが、昔の条約を盾に、ダム建設を許さないのです。」
「もちろん、エチオピア側の技術力や資金力不足もあります。」
「しかし、何より、アフリカの多くの国が植民地だった百年も前の条約を盾に、水を供給している最上流部の国の利益を阻害することは許されません。」
参考図:「水をめぐる争い」、アクアスフィア水教育研究所 WEB