日本カナダ文学会・The Canadian Literary Society of Japan

日本カナダ文学会は、日本におけるカナダ文学の研究および普及を目的とする学術団体です。

NEWSLETTER 74

2020-09-30 | Newsletter
NEWSLETTER
 
THE CANADIAN LITERARY SOCIETY OF JAPAN
L’association japonaise de la littérature canadienne
Number 74
Autumn, 2020

 

会長挨拶

日本カナダ文学会会長 佐藤 アヤ子

 風のなかに秋の気配を感じるようになりました。
 会員の皆様にはご健勝のこととお喜び申し上げます。NEWSLETTER 74 号をお届けします。

 収束がみえないコロナ禍、日ごとに増える感染者数、連日続いた今夏の酷暑、九州地方を中心に 甚大な被害をもたらした豪雨と台風。世界に目を向ければ、再び感染者が増えている事実。難民キ ャンプやスラム街での感染者と死者の増加に心が痛みます。アメリカの西海岸各州では森林火災が 広がっています。このようなニュースが流れるたびに、この地球はどうなってしまったとのかと思 う毎日です。地球温暖化による気候変動が、感染症拡大や熱中症による死亡など世界的な人間の健 康問題につながっているともいわれています。森林火災と気候変動の因果関係も指摘されています。感染症拡大や森林火災の背景に気候変動を含む環境破壊があるならば、世界中で大きな行動変 容をおこなうことが必要です。

 新型コロナウイルスが世界的に広がってきた今年の 3 月、マーガレット・アトウッドさんはラジ オインタビューにこう答えています。「現在進行中の新型コロナウイルス感染拡大に目を向ける と、これは世界が見てきた最悪の出来事では決してありません。〈リセットボタン〉の機会を与え てくれているのです。これまでのやり方を見直して、違ったやり方を考えるべきかもしれません」 と。

 前期授業が遠隔授業となった大学も多いと思います。感染者が多い地域では、後期授業も遠隔と 対面授業を併設していると思います。日本カナダ文学会も致し方なく今年度の年次研究大会を中止 としました。大会中止は、1982 年に設立された日本カナダ文学会の長い歴史のなかでも初めての ことです。コロナ禍は多くのことに計り知れない影響を及ぼしています。

 しかしこのコロナ禍のなかにあって、負の出来事ばかりではありません。会員の方々がカナダ文 学に関する評論集を上梓されたり、カナダ文学作品の翻訳書を出版社が相次いで出版するなど、カ ナダ文学に関する注目度も高まってきています。うれしいですね。

 災難が相次ぐなか、会員の皆様の一層のご健康とご活躍をお祈り申し上げます。

 

COVID-19 とカナダ――日加入国規制おぼえがき――

荒木 陽子会員

 2020 年の初めごろには、今頃は収束しているだろうと楽観視していた新型コロナウイルス (COVID-19)の流行が止まらない。ここでは記憶がまだ新しいうちに、カナダと日本の出入国を めぐるコロナウイルスの影響を、個人的経験をもとに書き留めておきたい。

 会員各位はお住まいの地域や各々が置かれた状況によって、多様な「コロナ体験」をされている と思う。そのなかで私のコロナ体験を決定づけているのは、今年 6 月の出産だろう。なぜ私の個人 的な経験が「コロナとカナダ」というテーマと関わってくるのか。それはカナダ国籍の夫が育児休 業をとって、出産に立ち会い、その後しばらく日本に居住する予定になっていたからだ。筆者は今 年の夏は恒例のカナダ自宅への帰宅はせずにゆっくり日本で過ごし、7 歳になった娘を初めて地元 の祭りの巨大な仏壇のごとき山車に乗せてやろうと計画していた。この計画をコロナウイルスが直 撃したのだ。

 結局のところラジオがマーガレット・アトウッド女史のデイトン文学平和賞の受賞を伝える 2020 年 9 月 14 日現在、筆者は例年通りカナダにいる。というのは当初中国、EU 中心で北米はア メリカ合衆国どまりだった日本への入国規制が、感染拡大のため 4 月 3 日付でカナダにまで広が り、6 月 1 日に日本到着の予定だった夫が入国できなくなったからだ。そこで、「ワンオペ」でふ たりのこどもの相手をする修行に耐えられなくなった私は、職場復帰し前期残り授業を「懐かしの 対面授業で」消化した後、早めの夏休みをいただき 8 月半ばにカナダに入国した。

 ここで簡単に日加の入国規制の現状を比較してみたい。カナダは日本より一足早く、3月 18 日 付けで永住者や一部の長期居住者を除く外国籍者の入国規制を開始して、現時点で少なくとも 9 月 30 日までこの方針が続く。ただ、直近の家族についてはこの条件からはずれて、6 月 8 日付けでカ ナダに入国できるようになってはいる。9 月からやっと外務省が定めた「特段の事情」がない家族 が入国できるようになった日本より「ほんのすこしだけ」人道的といえるかもしれない。ちなみに この「特段の事情」には子の出生は入らない。

 常時と比較し出入国も異様だった。まず帰国時に公共交通機関が使えないため、生まれて初めて 自家用ポンコツで成田へ移動した。生後 2 か月の乳児と、騒ぎたくて仕方ない小学二年生と一緒に となるとこのプロセスも泊りがけになる。感染が拡大している南関東を避けるため、福島まわりで 空港につく。すると、出国エリアに人がおらず、航空会社カウンターにはスーパーのレジ同様透明 プラスチックの幕が垂れ下がっていた。また噂通りゲートでは搭乗前に検温された。実は夕日の当たる窓際で騒いでいたため、体温が 38.5 度に達していた娘は 15 分ほど空調の下で地上係員に扇い でもらい、体温が下がった時点でやっと搭乗を許可された。

 普段愛用している米国系航空会社のニューヨーク経由便が使えない。頼みの綱のエアカナダも東 海岸行きに便利だった羽田→トロント便や成田→モントリオール便が運休したままで、関東からは 成田→バンクーバー便しか運航されていない。機内で求められる小さな入国・関税用フォームが今 回は数倍大きくなっており、連絡用にいつもは書かせられない 24 時間コンタクト可能な電話番号 やメールアドレスまで記入を求められた。マスクや消毒ジェルが配られる一方で、全員同じ冷たい 機内食に耐えた後、やっとのことで到着したバンクーバー空港の入国審査はいつもの長蛇の列が皆 無で、気味が悪かった。カナダ入国の際は日本入国のために外国人が求められる PCR 検査は不要 だが、全員が 2 週間の自宅待機である。

 こうしてやっとカナダにたどり着いたものの、国内線は州間の安易な移動を妨げるためか、移動 規制で乗客が減少しているためか、ハリファックスへの直行便が運休中だ。そのため移動はトロン ト経由となり、ハリファックス到着は、さらに日付をまたいで 19 日深夜(日本は 19 日昼)になっ た。家を出たのは日本時間の 8 月 17 日夕方であるから、この時点で 2 日がかりである。子連れで 明らかに移動に苦労していた私を助けてくれた、留学先に戻るという日本人高校生に感謝を申し上 げたい。

 ハリファックス到着後も異例だった。いつもなら大した混雑もなく到着後まっすぐ駐車場にむか い車で自宅に帰るのだが、ここでついに日本からご無沙汰していた長蛇の列に遭遇する。荷物を受 け取った後、州外、特に大西洋州トラベル・バブル外からの移動者は入国時同様に、州政府の役人 に滞在先・連絡先を申告することを求められるからだ。この手続きを経て、家に帰ったころには既 に夜はかなり更けていた。

 さて、日々州政府担当者から自宅待機と体調をチェックされた 2 週間の自宅待機はやっと終わっ たが、筆者は近所を散歩したり裏庭で蚊に刺されながらぼーっとする以外は何もできないまま、あ と 2 日でカナダを出国する。夫は今朝、外務省が外国籍を持つ日本人の家族が入国する際にビザと 私の戸籍とともに求める、出国前 72 時間以内に受けた PCR 検査の証明書を入手するために出かけ た。在モントリオール日本領事館によれば、実はまだノバスコシア州内で証明書を発行してもらい 日本に入国したカナダ人はいないようだ。カナダではもっとも感染が拡大したモントリオールで は、プライベートクリニックで私用であっても比較的簡単に検査が受けられる。しかし、ここ大西洋州「最大の都市」ハリファックスでは公立の病院や検査施設で症状のある人と一緒に並んで検査 を受けたのち、発行された検査結果を医師のところに持ち込み、日本政府の求める証明書に記入し てもらわねばならないのだ。果たして 2 日後の早朝の出発までにすべての手続きが済み、夫をつれ て家族 4 人で帰国し、みんなで今度は日本で自宅待機できるのか。現時点で結果は未定である。

 

「新型コロナと私」

 

「新型コロナと私 -共存をどう乗り切るか-」

(池村 彰子会員)

 新型コロナの脅威を前に、私は2月に長女を出産し、引きこもり生活。コロナは、アトウッドが 描いた近未来のように、少子化や、地球環境の変化、病原菌や海洋生物(スポンジ)による人類滅 亡の危機を浮き彫りにしている。夫はテレワークになり、夫婦揃って育児に専念。オンラインで世 界と繋がる便利さを感じつつ、オフラインの大切さも実感。秋学期から職場復帰で対面授業も始ま る。コロナとの共存社会、工夫を重ねて乗り切っていきたい。

 

「A・マイエのこと」

(大矢 タカヤス会員)

教壇にも研究室にも無縁なので、日々の生活はほとんど変わりません。ただ、恒例の秋のヴェネ ツィア、ブルゴーニュ旅行は無期延期です。ところで、昨年末、フランスの友人から A.マイエが新 しい本を出したと知らされ、年初に久々に彼女に手紙を書きましたが、宛先人不明で(自分の名の ついた通りに住んでいたのに!)戻ってきました。出版社経由で出し直しましたが、今まで梨の 礫、ちょっと心配です。

 

「皆様、いかがお過ごしですか?」

(岸野 英美会員)

勤務先の高専では、前期は全て遠隔授業、9、10 月は対面で集中講義・実験実習、11 月から同じ く対面で後期授業スタートです。元気に通学する学生を見るとこちらも嬉しくなりますが、なんと 今冬はコロナに加えてラニーニャ現象発生で大雪が降るとか...。何事ももうしばらく落ち着きそう にないですね。先々の心配もありますが、今は秋。美味しいものも出回り始めました。日々、小さ な楽しみや、幸せを見つけてこの未曽有の状況を乗り越えていけたらと思います。

 

「マーガレット・アトウッド原作のドラマに感化されて」

(佐々木 菜緒会員)

生活様式がオンライン化されていくなかで、私には Netflix との新しい生活が生まれた。ご存知 の方も多いと思うが、『またの名はグレイス』を見ることができる。私は昨年の秋から『侍女の物 語』を WOWOW で見ていたこともあって、ここ半年、博士論文を書きながらマーガレット・アトウッド原作のドラマを見て過ごした。そして、今は佐藤アヤ子先生が邦訳された原作を読んで、ア トウッドの世界の魅力に引き込まれている。

 

「ある救命救急医のことばが重く響く」


(佐藤 アヤ子会長)

 毎日運ばれてくる新型コロナウイルス感染患者の治療にあたる救命救急医の言葉が忘れられな い。「自分は見えないゴールに向かって走るランナーのようだ。でも、止まることはできない。ただ走り続けるだけ」と、医師はカメラに向かって語る。決定的な治療法もワクチンもない現在、感 染の危険も顧みず、只々使命感をもって任務にあたる医師や看護師など医療従事者に感謝と盛大な 拍手を送ります。

 

「新しい日常」

(戸田 由紀子会員)

コロナ禍でするようになったこと、できるようになったこと。人類と感染症関連の書籍を読み漁 った。BBC Global News と NY Times Coronavirus Briefing を毎日確認するようになった。オン ライン会議・授業ができるようになった。登山とカヤックを始めた。山ヒルに初めて血を吸われ た。ワンと鳴くカエル、ヤマカガシ、オコジョ、ツキノワ熊などに遭遇した。日常に感謝すること が多くなった。人生観が変わった。

 

「With COVID-19 ――未知への挑戦――」

(中島 恵子会員)

新型コロナの猛威が全世界を覆うなか、アトウッドが予言した人類の生き残りへのチャレンジが 始まっている。まさにサバイバルの日常を送る私たちに未来はあるのか? 日々の生活雑貨もアマ ゾンで調達、しかし食料品は牛肉缶詰・ビーンズ・コーンスープだけでは過ごせない。野菜・フル ーツ・肉類・卵・魚介類・ミルク、大好きなパンとお菓子を求めてやはり外出。残りの時間はガー デニングとペットのお世話。そしてアトウッド研究、カナダ・・・。

 

「コロナの終わりを願って」

(原田 寛子会員)

「生きている間にこんなことに遭遇するとは」というのが新型コロナウィルスに対する私の一番 の感想でした。すでに知っている歴史的事件や小説の結末とは違い、「終わり」の見えない途上に いることがいかに不安かということを感じています。いつか歴史となり教科書に載るときに、正し く記載されているかを生き証人として確認したいものです。新しい生活・文化に気持ちを柔軟に対 応しつつ、前向きにコロナ終焉の時を待ちながら日々を過ごしています。来年は学会で皆さまにお 会いできますよう願っています。「コロナの終わりを願って」

 

以上、ご寄稿ありがとうございました!

 

<会員による新刊書紹介>

〇 平林美都子著 『女同士の絆:レズビアン文学の行方』(彩流社、2020年4月) 2,500 円+税 ISBN978-4-7791-2675-8 C0098

〇 『英語圏小説と老い』 イギリス読書研究会編(開文社、2020年3月)2,750円 ISBN 978-4-87571-099-86

柴田 千秋著 第六章 「マーガレット・アトウッド作品における「老い」の意味―『キャッツ・アイ』、『昏き目の暗殺者』を中心に」

原田 寛子著 第九章「老いを転覆させる―マーガレット・ドラブル『昏い水』における終わらない生」

〇 出口 菜摘訳 『サークル・ゲーム』マーガレット・アトウッド著 (彩流社、2020 年 5 月) 2,200 円+税 ISBN978-4-7791-2683-3 C0098

 

事務局からのお知らせ

2020 年度の学会費のお済みでない方は、下記の口座までお納めください。なお、2019 年度 以前の学会費がお済みでない方は合わせてお振込み頂けましたら幸いです。振込手数料につき ましては、恐れ入りますがご負担ください。

(振込先)
郵便振替口座: 00990-9-183161 日本カナダ文学会 銀行口座: 三菱 UFJ 銀行 茨木西支店(087) 普通 4517257

日本カナダ文学会代表 室 淳子 正会員 7,000 円 学生会員 3,000 円

 

編集後記

 研究大会が来年以降に持ち越され、秋号配信は無理かもしれないと案じていましたが、皆さまの ご協力のおかげで、無事 74 号をお送りすることができました。急な依頼にもかかわらず、原稿を お寄せいただいた方々には心より感謝申し上げます。短信ではありましたが、久しぶりにお会いで きたかのような、温かく、そしてあまりに多くの時間を隔てた後のような、妙に懐かしい気持ちに なりました。なお、カナダ作家からは、Hiromi Goto 氏より次回春号にエッセイをお送りいただく 予定です。ところで勤務校では 9 月 21 日から後期がスタートしました。一部、遠隔授業を取り入 れながらも対面式を基本とした態勢をとっています。短大生の学生生活にとって、1 年という空白 はあまりに大きすぎると考えた末の苦渋の選択です。出講先の四年制大学では遠隔を中心に進めて います。前期を振り返ると、いずこも同じで、授業準備、学生とのやりとりに日々追われました。 しかし収穫がなかったわけではありません。60 歳代後半に、こうして授業方法や内容を見直し、 時代のツールを使う工夫が少しでもできたことは大きな意味がありました。また、運動不足解消も 兼ねて、2 年ほど前から耕し始めた家庭菜園(約 90 坪)で、今年はほぼ毎夕 1 時間は農作業がで きました。季候にも恵まれ、トマト、枝豆、キュウリ、カボチャ、サヤエンドウ等々、食べきれな いほどの作物の収穫がありました。コロナ禍にあっても、これからの季節は大根やカブ、人参等を ご近所や外国人技能実習寮生たちと分かち合いながら、秋の恵みに感謝したいと思います。(M)

 いろいろありましたが 9 月 17 日に無事家族そろって入国できました。16 日朝 6 時台の飛行機で 出発だというのに、15 日午前まで夫の PCR 検査の証明書が手に入らない・・・という状況でし た。日本はいよいよ 10 月からビザがある外国人が入国しやすい状況になります。一方でカナダは 隣国アメリカ合衆国との国境封鎖を 10 月後半まで延長しました。勤務校では 6 月から対面で授業 をしているのですが、はたしてこれが続けられるのでしょうか。しばらくするとインフルエンザ・ シーズンもやってきます。皆様もどうぞお元気で。(A)

 本学会ニューズレターは、カナダ文学に関する読書会や出版の案内、活動報告など、本学会会員 のご投稿を反映させていくものです。寄稿をご希望の方はぜひ、事務局までご連絡をお願いいたし ます。本ニューズレターは、公式ウェブサイト(http://www.canadianlit.jp/)と共に、電子配信のみ でお届けしております。よろしくお願い申し上げます。(M & A)

 (追記)今号の編集にあたり、戸田由紀子会員には多大なご協力をいただきました。紙面を借りて、心よりお礼申し上げます。(M & A)

 

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THE CANADIAN LITERARY SOCIETY OF JAPAN
第74号

発行者  日本カナダ文学会
代 表  佐藤アヤ子
編 集  松田寿一&荒木陽子
事務局  名古屋外国語大学 現代国際学部
             室 淳子(副会長)研究室
〒470-0197 愛知県日進市岩崎町竹ノ山57
TEL: 0561(75)2671
EMAIL: muro@nufs.ac.jp
会長連絡先
EMAIL: ayasato@eco.meijigakuin.ac.jp


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