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日本カナダ文学会の活動と紹介

Newsletter 71

2019-04-01 | Newsletter

NEWSLETTER

THE CANADIAN LITERARY SOCIETY OF JAPAN

L'association japonaise de la littérature canadienne

Number 71 (Spring, 2019)

 

 

会長挨拶

日本カナダ文学会会長 佐藤 アヤ子

花の季節となりました。会員の皆様にはますますご活躍のこととお喜び申し上げます。 NEWSLETTER 71 号をお届けします。

ブリティッシュ・コロンビア州関連のニュースで、“satellite family”とか、“speculation tax”と いう文字を最近よく見かけます。〈サテライト家族〉とは、「BC 州に住宅を所有しているが、配偶 者である夫は国籍がある国で仕事をして多大な収入を得ている。そして妻子のみが BC 州に住んで いる」、そのような家族を指すようです。もちろん所得税は稼ぎ手である夫の国に支払っています。 “speculation tax”(投機税)とは、外国人に限らず、BC 州の指定された都市部に二次物件(別荘 も含む)を所有し、その物件を長期間空けている所有者にかかる新税のことです。

なぜこのような新税が生じたのかと言うと、1997 年の香港返還前後から、BC 州、特にバンクー バー周辺地域に〈サテライト家族〉が増えたこと、さらに昨今のバンクーバー周辺の住宅事情をみ ると、海外の投資家による不動産バブルが生じていることが背景にあるようです。バンクーバーの ダウンタウンには、近年高層住宅が沢山建設されています。しかし、夜になると明りの灯っていな い部屋が沢山あることに気づきます。また、家賃が高すぎて、バンクーバーには住めないという若 者たちの声をよく聞きます。BC 州政府が「投機税」を導入したことは、「やっと始めたか」とい う印象を受けますが、外国人投資家が北海道の奥地まで買いあさっているというニュースを聞くた びに、日本政府も BC 州政府を見習った方がよいのではないかと思います。

2019 年度の「日本カナダ文学会年次研究大会」は、白井澄子会員のお力添えを頂き、6 29 日 (土)に白百合女子大学(東京都調布市)で開催されます。カナダ総督文学賞を受賞した Kim Thúy さんと短編小説家のAlexander MacLeodさんが基調講演者として参加します。多くの会員の皆様 のご参加をお願いいたします。

会員の皆様の一層のご活躍をお祈り申し上げます。


2019年度年次大会の日程と会場のご案内


開催日時:2019 6 29 日(土)10:00-18:00 会 場:白百合女子大学(東京都調布市)

<午前の部>
○ 研究発表
1 岸野英美 「揺らぐ家族像と不気味なものたち

Hriomi Goto Hopeful Monsters
○ 研究発表
2 出口菜摘「アトウッド作品における T. S.エリオットの影響」

<午後の部> *総会後 ○ 基調講演

講演者:Kim Thúy(内容未定)
講演者:
Dr. Alexander MacLeod (Saint Mary’s University)
題 目:“ This is what I wanted......this was how I wanted my life to be” : Alice Munro

and the Contemporary Canadian Short Story

○ シンポジウム
テーマ :「カナダの短編小説」
発表者
: 戸田 由紀子、沢田 知香子、松本 朗

戸田由紀子 「マーガレット・アトウッドの Stone Mattress―――老いと死の物語」

沢田知香子 「アレクサンダー・マクラウドの短編錆びゆく土地の霊

松本 朗 「アリス・マンローの短編小説」 

*Alexander MacLeod 氏については、Christopher J. Armstrong 会員より、以下のような紹介文 をいただいております。

For the 37th annual Conference of the Canadian Literary Society of Japan to be held at Shirayuri University, we are delighted to welcome writer and associate professor of English Alexander MacLeod.

Alexander’s short-story collection Light Lifting (2010) was shortlisted for the Frank O'Connor Award, the Giller Prize, and the Commonwealth Prize, and won the Atlantic Book Award. The collection has been translated into Japanese as Renga wo Hakobu (Shinchosha 2016).

Quill and Quire called Light Lifting “a breathtakingly good collection of short fiction that heralds the arrival of a significant new talent,” comparing it to “the work of Alice Munro at her best: rich and deep, merciless and utterly unflinching.” A reviewer in the The Guardian noted that in MacLeod’s stories “there are no epiphanies as such, merely a series of events that swiftly becomes everyday discipline, and significance – if it exists at all – is always imposed retroactively.”

Alexander was born in Inverness, Cape Breton in 1971 and raised in Windsor, Ontario. He holds degrees from the University of Windsor, the University of Notre Dame, and McGill University. He is Associate Professor of English Literature and Atlantic Canadian Studies at Saint Mary’s University in Halifax.

He has published widely on Canadian literature, especially the literature of Atlantic Canada. Alexander will give the conference’s keynote lecture, which is entitled, “This is what I wanted....this was how I wanted my life to be:” Alice Munro and the Contemporary Canadian Short Story.

*現代ケベック文学を代表するベトナム系カナダ人作家 Kim Thúy 氏については、真田桂子会員や 山出裕子氏による著書・論文や翻訳等が出版されておりますので、ウェブ上の資料とともにご参 照下さい。

開催校より

白井 澄子会員

2019 年度のカナダ文学会研究大会は、6 月 29 日(土)に白百合女子大学を会場として開催され ます。大学は京王線の仙川駅(せんがわ駅)から徒歩約 10 分の住宅地にあります。かつては順天 堂の薬草園だったキャンパスには今も大きな木が残り、カナダの森ほどではありませんが、自然を 身近に感じていただけると思います。会場の教室へは、正門を入って、案内板に従い道なりにお進 みください。教室はキャンパス正面の本館地下になります。

なお、大学内・周辺には飲食施設がほとんどありませんが、駅から大学に向かう途中には、パン 屋、コンビニ、スーパーがありますのでご利用ください。

白百合女子大学へのアクセスおよび宿泊情報
アクセス http://www.shirayuri.ac.jp/guide/access/
新宿駅より京王線で「仙川」駅下車。約 20 分。(仙川駅は各駅停車、快􏰁、区間急行のみ停車) 徒歩10分。

宿泊 仙川駅周辺に宿泊施設はありませんので、調布駅か新宿駅周辺での宿泊をお勧めします。調布駅~仙川 駅は京王線で約 10 分。新宿駅~仙川駅は京王線で約 20 分。ご参考までに調布駅と新宿駅周辺のホテル を挙げておきます。

1アーバンホテルツインズ調布 (調布駅より徒歩1分) 東京都調布市布田 1-47-4 Tel. 042-486-3500

2調布クレストンホテル (調布駅向かい パルコ上階) 東京都調布市児島町 1-38-1 Tel. 042-489-5000

3ホテルサンルートプラザ新宿 (新宿駅より徒歩3分) 東京都渋谷区代々木 2-3-1 Tel. 03-3375-3211


<連載:カナダ文学との出会い 第13回>

平林 美都子会員

マーガレット・アトウッドの作品と私 ――母性表象と「語り」の研究へのきっかけ――

私にとってカナダ文学との出会いとは、マーガレット・アトウッド作品との出会いである。少々 大げさに聞こえるかもしれないが、Lady Oracle(1976)は私のその後の二つの大きな研究テーマ のきっかけとなった。

「母性」に対する私の関心は 1989 年に勤務校でゼミ担当をしたときに遡る。学生たちと Images of Women in Literature(Mary Ferguson, ed.)を読んだとき、母娘関係の諸相に関心を持った。 アドリエンヌ・リッチ、マリアンヌ・ハーシュ、リュス・イリガライやジュリア・クリステヴァ、 さらにキム・チャーニンの論文を読み、母娘関係の複雑さや根深い心理的葛藤、摂食障害との関連 も知った。当時の日本ではまだ若い女性の摂食障害は珍しかったが、北米ではすでに社会問題とな っていた。その頃読んだのが『レイディ・オラクル』である。ジョーンの子ども時代の母娘の葛藤 は、幾つもの役を使い分けるその後の綱渡り人生、そして母の亡霊との遭遇に繋がる。まさしくジ ョーンは、クレア・カハーンが「ゴシック・ミラー」で述べた「死んでいながら死んでいない母の 実体のない存在」(Claire Kahane, “The Gothic Mirror,” 336)に立ち向かっていくことになるので ある。母性とゴシックが結びついたのはこのときであり、この成果は『表象としての母性』(ミネルヴァ、2006)にまとまった。

二つ目の研究テーマ「語り」への関心も『レイディ・オラクル』がきっかけだった。ヴィクトリア朝文学を中心に読んできた私にとって、真偽がわからないジョーンの語り方に最初は面食らった。しかしこれがカナダ文学作品への、さらにはカナダの歴史や文化全般への関心の発端となった。1993 年はカールトン大学、1994 年はカルガリ―大学で開催されたカナダ学会へ連続して参加した。5 月から 6 月の前期の授業の真っただ中での開催だったが、当時は授業回数も半期 12~3 回こなせば良いおおらかな時代だったのだ。「語り」に関する研究テーマはポスト・モダニズム、ポスト・コロニアリズム、翻訳論、ジェンダー批評などの批評理論への関心へと広がっていき、『「辺境」カナダの文学』(彩流社、1999)や「『「語り」は騙る』(彩流社、2014)の出版へと繋がっていった。 

1990 年代後半、カナダ文学にまさしくはまっていた頃、カナダ文学会で故藤本陽子さんの発言 を聞く機会があった。「移民の国カナダとその特徴」、「現代カナダ文学の潮流」に関する話だった が、広い知識と深い理解に裏打ちされた明快な論旨に圧倒された。なんとも情けない話ではあるが、 カナダ文学で藤本さんにはとうてい太刀打ちできないと感じた瞬間だった。

2000 年からの一年間、イギリスでの在外研修期間中はカナダ文学を封印したはずであったが、 The Blind Assassin(2000)が書店に平積みされているのを見るとやはり買ってしまった。そして 読者を翻弄するような独特の「語り」の世界を堪能した。その後の Oryx and Crake(2003)では 人􏰀の鶏の描写を、MaddAddam(2013)ではゼブの父の溶解した描写をゾクゾクしながら読んだ ものだ。アトウッド作品は今なお私を魅了してくれる。

(ひらばやし みとこ)


トレンブレー夫妻新潟滞在を振り返って

荒木 陽子会員

平成 30 6 月のトニー・トレンブレー教授の年次研究大会への招聘、そして名古屋地区での滞 在時には、皆様の多大なご協力いただき、まことにありがとうございました。学会に先駆けて、私 こと荒木はトレンブレー教授とパートナーのエレン・ローズ教授(ニューブランズウィック大学) を新潟にお迎えしました。私がご一緒したのは主に成田・東京経由の新潟入りから、お二人を車で 名古屋に送り届けるまでの一週間弱でした。

お二人には近年フジロックで北米人の間で有名になった苗場や世界遺産登録に向けて頑張り続 ける佐渡島ではなく、政令指定都市というだけで実は何もない新潟市に滞在していただき、講演等 をお願いした日に至っては、田んぼの中を走るバイパスの脇にポツンとある私の所属大学敬和学園 大学のある新発田市にお越しいただきました。日本人会員でも、聞いたことのない地名でしょう。 シバタと読みます。

しかし、振り返れば「今は何もない」というところに、私たちは共通点を見出し、共感しました。 トレンブレー教授はご自身も、故郷ニューブランズウィック州北部、ケベック州境にほど近いダルハウジー(地元の人は、フランス語風にhを発音しないのでダルージーと呼びますが・・・)の林 業・製紙業の衰退をドキュメンタリー・フィルムに収められましたが、新発田市では地元の写真家 吉原悠博氏の制作された、彼のご家族が代々所有される写真館の歴史――翻って彼のご先祖様が 代々ファインダーを通して残してきた新発田の残像をドキュメンタリー化したフィルム――をシ ェアしました。味のある古い洋館で見たかつて新発田市近郊では、治水の結果消えてしまった桜並 木をたたえる加治川を使って近隣の山から切り出した木材を下流に運びだしており、町は人でにぎ わっていました。かつてのニューブランズウィック州の、セントジョン川を中心とする水系を使っ た木材の運搬と同じです。

資源、そして産業が衰退した新潟県北部からは、ニューブランズウィック州北部同様、人口流出 が続いています。トレンブレー教授が私たちの学生向けの講演で、グローバル経済に地方が正面か ら立ち向かって勝利することは難しいかもしれないが、それでも私たちは私たちの地方の記憶を文 化という形で残すことで、そうした大きな力に抵抗することはできると語っておられたことを、頭 にとどめておきたいと思います。


<学会費のご案内>

事務局からのお知らせ

2018 年度以前の学会費がお済みでない方は、早急に下記の口座までお振込み頂けまし たら幸いです。2019 年度の学会費につきましては、大会案内をお送りする際に郵便振 込用紙を同封いたしますので、ご利用ください。

振込先:
郵便振替口座: 00990-9-183161 日本カナダ文学会
銀行口座
: 三菱東京 UFJ 銀行 茨木西支店(087) 普通 4517257 日本カナダ文学会代表 室 淳子

正会員 7,000 円、学生会員 3,000 円

 

編集後記

○ 6月の年次大会にはKim Thúy氏とAlexander MacLeod氏の講演が予定されています。荒木会 員もふれていますが、昨年はセント・トマス大学(ニューブランズウィック州)からトニー・ト レンブレー教授をお招きしました。MacLeod氏をお迎えする今年度の大会もアトランティック カナダの文学を知るにはとても良い機会になります。とは言え、活躍中の現代作家を二人も外国 から招聘できる贅沢(?)は他学会においても、そうそうないことでしょう。いつもながら関係 各位のご尽力に頭が下がる思いです。今号では平林会員よりAtwood作品との出会いを振り返る エッセイを寄稿いただきました。Atwoodとの出会いと言えば、個人的には平林・久野・カレン 会員共訳による『スザナ・ムーディの日記』(国文社刊)が思い出されます。原詩の雰囲気を見 事に映し出したすばらしい翻訳でした。6月には研究発表、カナダの短編小説をめぐるシンポジ ウムなど、充実したプログラムが組まれています。大きな地震に見舞われた北海道にも、ようや く春の訪れが感じられる季節になりました。皆さんとお会いできることを今から楽しみにしてい ます。(M)

○ 日々慌ただしく、気がつけば改元の時が迫っています。春の空気とともに新しい時代の空気 を、フレッシュな希望を、多くの人が感じられる機会となればいいのですが。大学での日常に目 を戻せば、文学の世界とも疎遠になりがちなワーキングライフですが、年次大会のシンポジウム にお声をかけていただき、せっかくなのでAlexander MacLeod氏のLight Liftingを手に取りま した。力強くて早い川の流れにのるように読み終え、今は自分の思考のストランドをよりあわせ ようとしています。(6月にお話しさせていただくときには「ネタバレ」ありです。)今年の大 会でもカナダ文学ご専門の皆さまとお会いし、多くを学ばせていただきたいと思います。(S)

 




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