脚本『山の神と子ども』

                               7月24日
ためしに脚色してみました。最後に注意事項を記載。
「仮・山の神と子ども 」           脚色:石倉恵子

1 むかし、あるところにおかあさんと息子が住んでいたと。
やがて息子は大きくなったので、お母さんがこう言った。
「おまえももう大きくなった。私の代わりに山へ薪をとりにいってくれ」

2 そうして、息子はお母さんの作った弁当を一つ持って山へいったと。
「今日は木にかけておこう」
息子が弁当を木にかけて仕事をしていると、
「これはうまそうだのう」白いひげのおじいさんが現れて、弁当をみんな食べてしまったと。

3 次の日、今度は弁当を二つもって、また木にかけて仕事をしていると、
「これも、これも、うまそうだのう」おじいさんがまた現れて、二つとも食べてしまったと。

4 次の日、こんど息子は弁当をもたずに山へ行き、薪を取っていると、
「もし」おじいさんが出てきてな、こう言ったと。「お前の弁当を毎日もらってありがたかったの。わしは山の神じゃ。お礼に良いことを教えてやろう。これから天竺にお参りにいくといい。その道々、会う人がお前に頼みごとをするじゃろう。なんでも聞いてやるがいいぞ」

5 息子はまず、庄屋の家に行ったって。
「私は天竺にお参りにいきます。どうか米と味噌を貸してください」
すると庄屋はこう言ったと。
「実はな、家の娘が病気で何年も寝込んでいるんじゃ。どうすれば直るか聞いて来ておくれ。ならば米と味噌をかしてやろう」「はい、わかりました」

6  息子は天竺目指して歩いていったが、やがて途中で日が暮れたので、一軒の金持ちの家の前で頼んだと。
「私は天竺にお参りにいきます。どうか一晩とめてください」
するとそこの主人が言ったって。
「実はな、家にはモクレンの木があってな。毎年花が咲いていいお金になっていたが、今年はどうしたわけか、一番花も二番花も咲かずにいる。どうか花が咲くようにたのんできておくれ。ならば一晩泊めてやろう」「はい、わかりました」息子は一晩泊まると、また歩いていったと。

7 すると、橋のない大きな川があってな、向こう岸にはなんと、醜い女が行ったり来たりしていたんだと。「おーい、おーい。お前さん。どうやって川を渡ったか教えてくれ」
すると女は答えて言ったって。
「わしはこの世のものでない。陸に千年、海に千年、川に千年住んでおる。どうかわしが天に昇れるよう願ってきておくれ。ならば川を渡してやろう」「はい、わかりました」

8  こうして息子は醜い女に川を渡してもらって、またずんずん歩いていったって。
やがて、天竺の立派なお寺に着くと、なんとそこにいたのは、あの白いひげのおじいさんだったそうな。

9  「息子よ。お前は幾晩かかってここに来た」こう聞くので、「ゆうべ一晩だけです」息子はそう答えたって。
「そうか、それで途中、何事もなかったか」
「いえ、庄屋さんの家では、娘さんが長病気で、その治し方を聞いてくるよう言われました。金持ちの家では、モクレンの花の一番花と二番花が咲くようにしてくれと頼むよう言われました。大川を渡るときは醜い女から天に上げてくれと頼むよう言われました。」
そうするとおじいさんは、こう言ったって。

10 「そうかそうか。それでは答えを教えてやろう。庄屋の娘はな、雇い人の男衆をみんな集めて娘が杯をさした人を婿にすれば治る。金持ちの家ではな、木の下に埋めてある金がめを掘り出せばモクレンの花は咲く。醜い女にはな、その女が欲張って真珠の玉を二つ持っているのを、そのうち一つを誰かにやれば天に昇ることができる。わかったかな」「はい、わかりました。あっ、おじいさん」

11 おじいさんはあっという間におおきな樫の木になってしまったと。そうして息子は寺に参ってもと来た道を帰って行ったと。

12 やがて、川のところにきたらあの女がたっていたと。
「天竺にいったら、どういわれた」
「お前さんが持っている玉二つのうち、一つをだれかにやれば、天にのぼられる」
「それなら一つはおまえにやる」
そういって真珠の玉を一つくれたって。

13 こんど、息子は金持ちのうちに来てこう言ったと。
「モクレンの木の下にある金がめを掘り出せば、花が咲くそうです」
早速掘ったところが、金がめが二つでてきたと。
「金がめのひとつはおまえにやる」
そういって、金持ちは 金がめひとつくれたって。

14 こんど、息子は庄屋さんのうちに来てこう言ったと。
「娘さんは、雇い人の男の中に好きな男がいるそうです。娘さんの病気は、みんな集めて、杯をさしてみれば分かると聞きました。」
さっそく、男衆を集めてみたけれど、いっこうに酒を注ごうとしないので、庄屋さんが

15  「お前も、娘の前に座ってみれ」
こういうので、息子が娘の前に座ったところが、娘が杯をさして酒をなみなみとついでくれたって。
「それじゃ、お前、家の婿になってくれ」

16  こうして息子は、そこの婿になって、お母さんもひきとって、幸せにくらしたと。
いきがぽーんとさけた。


参考文献:『あったてんがの』長岡市史双書NO29.水沢謙一の昔話の世界( 長岡市発行)「山の神と子ども」を脚色
       『決定版・日本の民話事典』日本民話の会(講談社α文庫)
これでゆっくり語って10分程度になるでしょうか
グリム童話「金のひげ」「悪魔の三本のあごひげ」と大変よく似ています。
                                   

注意
① 昔話は本質のみを語り、余計な情緒を語りません。極端にずんずんと話をすすめます。耳で聞いて分かりやすいようにそうすることが多いのですが、それでは楽しめないという様子でしたら、ご自由に語られればいいかと思います。
② 三回の繰り返しを重んじ、三回目に重きがあることが多いです
③ 昔話は似た形をくり返します。くり返すときは、同じ言葉で語ります。
④ 色は原色を好みますので、彩色ははっきりとした色で書かれたほうが昔話理論に合います
⑤ 紙芝居は右から左に物語が進みますので、前半は息子を画面右側に左を向いて描きます。
おじいさんは左側に右を向いて描きます。
  旅に出た後も、息子は右側の左向き。庄屋・金持ち・醜い女は左側の右向きです。
⑥ おじいさんに教えてもらった後、家に帰ります。この配置が難しいところです。帰り道で逆方向なので、今度は息子を左、醜い女などを右に描く、と思いそうですが、よく考えてください。
  紙芝居の紙を抜くときに左方向に抜くので、息子が後ろに下がって動くように見えてしまいます。これを防ぐために、こんどは息子を画面右側に正面を向いて小さく描いたらどうでしょう。
  対する醜い女は画面左側に右を向いて大きくかきます。
  これで、向こう側から手前に向って息子が進んで帰ってくるように見えます。

⑦ 絵を描くときに、ついごてごてと書き込んでしまい、登場人物がよくわからなくなってしまうこともあります。これを防ぐために、マンガのように構図に工夫を凝らし、視点の高さを変え、余白の美を重んじ、人物や関係のあるものだけをはっきりと書きます。これは「昔話は様式的に物事が動く」という昔話理論にもよくあてはまります。
画家が隅々まで書き込む、そんな絵を楽しむ場合ももちろんありますが、足りない分を自分の好みの想像で補いながら楽しむ場合もあります。
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