脚本 『くいしんぼう』全3巻

県内には弥三郎ばさ伝説がたくさんあります。そのなかから3つ選び、一つの話にし、脚色を加えました。全部つづけてやると13分。ひとつづつやるとそれぞれが5分くらいです。
ちなみに、主人公の「五助」は 下越の弥三郎ばさ伝説のなかの一つから、弥三郎ばさの左腕をきりおとした若侍の名前。「ヤス」は中越の伝説で、周囲の差別にあい乳をもらえず命をなくした赤ん坊の名前からとりました。それぞれ、お話の中でよみがえってほしい、と思いました。
その伝説には、鬼ばさが改心してお寺に寄進し寺の火事には空高く飛んで消えたという「万年蝋」も登場します。
ぼたもちを食って満足した甘党の鬼ばさは、上越の伝説から。
それらをみんな含めて創作していきました。
あとで参考文献を追記しました。

全部通しては、10月21日(土)午前の黒埼図書館祭りでやる予定。
3部作は 10月14日(土)午前は古町の市民活動フェスタ、午後は みなとぴあのボランティアさん企画行事でやる予定。

以下、脚本

1 くいしんぼう              石倉恵子 脚本・絵
 第一巻 「ヤス、さらわれる」の巻

2 昔々あるところに、五助とヤスという兄妹(きょうだい)がいた。二人はおばあさんと仲良くくらしていた。ところが、このあたりには鬼ばさが三人もいて、空を飛んでは子どもをさらっていた。ある日のこと。

3 「兄ちゃんたすけて」「おおいヤス、こら、妹をどこにつれていくんだ」
「さあーてな、おらたちみんな、ひもじくてな、なんか食いたくてたまらん。うまいもんもってきたら返してやってもいいぞ。子どもよりうまいもんだぞ、国中でいちばんうまいもんだぞ」
こういって鬼ばさはヤスをさらっていってしまった。


4 「おじちゃん、ヤスを助けてくれ。うまいもんってなんだ。おしえてくれ。」
「さーてな、わかんねえな。」「だいたい鬼ばさにかなうわけないんだ、あきらめればいい」「いやだ。おら いくんだ」


5「こまったもんだな」「しかたねえな。だいたいあそこのうちは 貧乏だし、そこの子どもの一人や二人、いなくなってもしかたないさ」「そうだな」

「ヤス、お兄ちゃん、きっと助けてやるぞ。」
するとそのとき。
「五助、五助」「だれだ、おまえか、今なんか言ったの。」「そうだ私だ、ろうそくだ、五助、早くさがしにいけ、それからな、私を持っていけ。」「うん、わかったよ。」


6 さて、五助が一番最初に行ったのは、里の町だ。
「ヤス、どこだ、 ヤス」すると

7「こら、五助、うまいもんもってきたか」里の鬼ばさがとびだしてきた。
「わーっ。ヤスを返せ。」「いやなこった。さあ、うまいもんだせ。ださなきゃお前を食っちゃうぞ」

8 「五助、五助、しっかり立て。」「こわいよ、ろうそく、助けてよ」「どれ、五助、私をふいてみろ。くいしんぼうと3度となえてふいてみろ。」「うん」

9「くいしんぼ、くいしんぼ、くいしんぼ ふっ ふっ ふう」

「ちり、ちり、ちりちりちりちり」赤い炎が小豆になり、あんこになりぼたもちになり、おにばさの口にパクリ。


10 「あぐ。あぐあぐ。こうりゃうまいうまい。こどもよりうまい。こどもなんかもうくうのやめだ。おまえ、ここをとおっていいぞ。」
こうして五助は里の町をはなれ、ヤスをさがして歩いていった。さあ、はたしてヤスはどこにさらわれたのでしょう。つづきは、次回、おたのしみに。


1 くいしんぼう 第二巻「鬼ばさ 征伐(せいばつ)の巻」
 
子どもをさらって食うという鬼ばさにさらわれた娘ヤス。
 ヤスを助けに、兄の五助はろうそくをもって旅の途中だ。里の町では
 くいしんぼうの里のばさに ぼたもちを投げてのがれてきた。
 さあ、はたしてヤスはどの町にいるでしょうか。くいしんぼう第2巻のはじまりはじまり。

11 五助は今度、山の町に来た。
「ヤス、どこだ。ヤス。」すると

12 「ひゅーひゅー、きたかー ごーすーけー。」「だれだ、」

13 「五助、うまいもんもってきたか」「お前だれだ、ヤスを返せ。」
「ひゅひゅひゅひゅ
おれは山の鬼ばさだ。うまいもんなければ、おまえを取って食うぞ。」
「五助、五助。わたしだ、ろうそくだ、わたしをふりまわせ。」「うん

14 ・くいしんぼ、くいしんぼ、くいしんぼ」 ぐるぐるぐるぐる。ぷつぷつぷつっ。ぷわんぷわんぷわん。つーつーつー。
蝋が飛び出し豆になり、あったかさに糸をひいていった。
 ざわざわざわざわ。風がふいてきた。ふつふつふつふつ。田んぼの米がめしになっていった。
15 つーつーつー、ぺとぺとぺと。ほかほかほか。いっしょに茶碗にぽとり。

16 「うーん、うまいうまい、こんなうまいもん食ったことない。
そうさなあ、ヤスのいるとこ教えよう。もぐもぐ。海の町の大きな杉のところにいるぞ」

17 五助は海の町にきた。「ヤスー、どこだー。あ、あそこだな。おーいおーい」

18「おーい、おーい。あっ おまえはだれだ。」

19「はっはっはっ わしは海の鬼ばさだ。五助、よく来たな。どれ、うまいもんもってきたか、ヤスはここだぞお、村の子どももここだぞう。」

20「五助、五助」「うん、わかってる。くいしんぼ くいしんぼ くいしんぼ」

21 「たーっ、」すぱっ

22 ひゅるるるる ひゅるるるる ひゅるるるる

23 スパッ 「ギャッ」

24 スパッ 「にいちゃん」

25 スパッ スパッ スパッ
「五助」「やったあ 助かった」「おれもはらへったあ」 「みんな、早く帰れよ」
 こうしてヤスと五助は家に帰ることになった。さて、その家でまちかまえていたものは?次回をおたのしみに、くいしんぼう第二巻はこれでおしまい。

1 くいしんぼう 第三巻 「吹雪の鬼ばさの巻」
 
鬼ばさにさらわれたヤス。兄の五助は魔法のろうそくからうまいもんをだして鬼ばさからヤスをとりかえした。喜び勇んで家に帰るふたり。ところが・・・・。
紙芝居くいしんぼう最終回「吹雪の鬼ばさ」はじまりはじまり。


26 タッタッタッ 「ヤス、良かったな・・。ばあちゃん、ヤスを取り返してきたよ」
 ばあちゃん・・・。

27 「おお、五助。かえってきたか。ヤスはいたか。里の町にいたか」「いや、いたのは里の鬼ばさだ。里のばさはぼたもち食って腹いっぱいだよ」「そうか、山のまちにいたか」「いや、いたのは山の鬼ばさだ。山のばさは納豆飯をうまいうまいって食ったよ。」「ほう、そうか。じゃあ海の町にいたか。」「いや、いたのは海の鬼ばさだ。海のばさは 魚で腕切ったよ」
「ほう・・、魚で・・腕・・切ったとな。そうか・・」

28「こんな風にか」「うわっ、お前はうみのばさ」「まだわしは、うまいもん食ってないぞ。はやくよこせ。」
「あっ、にいちゃん、ろうそくが」


29「それっ、取ったよ、兄ちゃん・

30「おにばさ、今度は あたしが相手だ。くいしんぼ くいしんぼ・・」

31「くいしんぼ・それっ」

32 ひゅー・・・「あっ、ろうそくが」

33 「まて、うまいもん、まて。」「こっちこい、くいしんぼう こっちこい、くいしんぼう こっちこい。」 ひゅーひゅー 「まてっ、うまいもんまてえ」 ひゅー 「鬼ばさ、うまいもんは外だぞ。」

34 ひゅー 「こっちだぞ」「くも、ちょっとのせろ。もっとちかくによれ、よし、どっこいしょ。まて、いまいくぞ」

35 「うまいもんまて、まてーまてー  」
それからというもの、この日、12月8日はいつもひどい吹雪になるんだと。それで大荒れの雪の日を「八日吹き」と、この辺りの人は言うんだそうだ。

36 そうしてな、その吹雪にのって、里のばさはぼたもち、山のばさは納豆、うみのばさは魚をもってな、空の上でうまいもん自慢をしているんだそうだ。そうしてそれがな、お歳暮になったそうだ。だけどな、いつまた おにばさが子どもをさらいにくるかわからん。こんげなひどい吹雪の晩は、子どもはいい子になって はようねれや。これで、はなしはおしまい。いちごさけた。

         参考文献
『雪の伝説』鈴木直/著 (目黒書店)
『権現堂の弥三郎ばさ』青山幸子/文、富永政美智/装・画(広神村観光協会)
『瞽女の語る昔話』岩瀬博/編・著 (三弥井書店)



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