亀の啓示

18禁漫画イラスト小説多数、大人のラブコメです。

とにかくイチャイチャハロウィン小説版⑧

2017-12-17 10:36:27 | とにかくイチャイチャハロウィン小説版
「嫌がるご婦人にしつこく絡むなんて。」

高級なカフェの一角。
紳士ってやつはあくまで
いやらしいくらいに
無駄な高級感を大事にしたがる。









朝、迎えの車が来るまえに
美雪の部屋を訪れた賞平。
自分だって研究プロジェクトの
スポンサーを接待しなくてはならない
気の重いパーティーには
いつも頭を悩ませている。
女性から男性へアプローチすることは
ほとんどない場所なのだが
たまに。ごくたまに。
男色家が何とも言えない表情で
舌舐めずりをしながら
こちらを見ていることがあり
賞平は気を引き締めるようになった。

「今日は、美雪をお願いしますわ。」

美雪は一人暮らしと言っていたが
背後から美雪とは違う
落ち着いた話し口の女性の声がした。

「グッモーニン。」

賞平が挨拶しながら振り返ると
そこにはコウモリしかいない。

「あ、彼女は私のパートナーの
エリザベス。言葉が美しいでしょ。」

美雪が誇らしい様子でエリザベスを
紹介した。エリザベスはチャーミングな
ポーズで賞平を覗きこむ。

「素敵な方ね。美雪の言ってた通り。」

「え、エリザベスったら!」

美雪はジタバタと手を宙に泳がせて
足も膝から下で可愛らしいステップを
踏むように慌てている。

素敵、か。
賞平は考える。
もしかすると、自分にも望みはあるのか。

ええと。こんなシチュエーションで
今口説くなんてのは、ありだろうか。
まだ正式にお断りの出来ていない
お相手の車が着いたときに
男に抱かれてベッドから出られないなんて
とんだあばずれである。
美雪にそんな評判が立つのは
彼女の人格もそこねるし
何よりビジネスに大ダメージを受ける。

賞平は肩を抱こうかと思ったが
やめておこうと思い直した。
いや、肩くらいはエスコートする延長で
済ませられるものではあるが。
肩に触れたら、全部触れたくなる。

美雪の家の前に着けた車の運転手は
賞平を見て怪訝そうな顔をしたが
乗車拒否まではしなかった。
車が向かったのはこてこてと趣味の悪い
豪奢な建物のカフェであった。








「君は?」

男は顎で挑発する。
どこぞの伯爵だという話だったが
眉唾だなと賞平は思った。

「彼女とは使用言語が違うようなんで。
俺が通訳として同行したわけでして。」

「失礼な奴だな。」

伯爵は賞平の物言いが気に入らなかったと
見えて、露骨に不機嫌な顔をする。
美雪は怯えて眉を下げるが
賞平はテーブルの下で彼女の手を握る。

大丈夫だ。君は俺が守るから。
賞平が美雪を見つめて微笑む。
美雪は頬を染めてうつむく。
先程の怯えた表情は消えている。

「美雪さん。今度僕の別荘に行かないか。」

「あたくし、あなたとおつき合いする
つもりはございませんわ!」

「そんな下らない男といたら、君の
価値まで下がってしまうぞ。」

この男には

恋に落ちる

ってことがどんなことか
よくわからないのね。
美雪は伯爵を哀れみながら
でもこれ以上は時間の無駄だと
腰を上げた。

「待ちたまえ!!」

この期に及んでなお、威圧的な声で
美雪をすくませようとする男に
賞平が怒りを抑えつつ反撃する。

「レディを脅してしつこく付きまとうなんざ
ろくな死に方しませんよ。」

賞平は美雪の腰を抱き寄せ
エスコートしながらカフェを出た。

賞平も頭に血が上っていた。
美雪の腰がピクリと動くと
今更ながら慌てて手を離した。

「し、失礼。こんな…」

「いえ。だ、大丈夫、です、わ…」

美雪は顔が真っ赤で、苦しそうに
熱い息を吐いて喘いでいる。

「どうしました?」

賞平は気を失い倒れた美雪を抱き止めた。

「み!美雪さんっ!!」

















「大失態…」

あれから賞平が美雪を抱いて
送ってくれたのだが
あのカフェから自分の部屋まで
ほぼ5kmの道程をかなりのスピードで
翼を軋ませるほど急いで飛んでくれたのだ。
美雪もヴァンパイアの血が入っている。
それがどれほど大変なことかはわかる。

要するに、自分は
彼に優しくされて。
嬉しくて舞い上がって。
興奮して血が頭に上り。
ひっくり返ったというわけで。

賞平は自分にとても
よくしてくれる。
スマートにエスコートしてくれて
自分を困らせるしつこい男から
守ってくれた。
こんな醜態をさらした自分を
懸命に介抱してくれて
家まで送ってくれた。

でも。

彼が自分を特別な女性として
見てくれているのか
美雪には自信がなかったのだ。

「美雪。ホットココアよ。」

エリザベスが枕元に飲み物を運んでくれる。

賞平から連絡を受けた亮も
すっ飛んで来てくれた。
そのわりに、心配そうな様子はなく
少々呆れた、といった顔である。

「美雪。あいつはさ。普通より
ややプレイボーイなとこあって
手も早い。それは認めるよ?」

「わかってる。あんたの言いたいことは。」

亮が何を言わんとしているのか
美雪にはわかっている。
長いつき合いだし、今までどんなに
恋愛に縁がなくウブで不器用な女だったか
この弟のような悪友には全てバレている。
いい加減、そんな小娘のようでは。
そういうことだろう。

「賞平くんに教えても良いか?
お前が小学生並みのヴァージンだって。」

「だめっ!!」

「だって、あいつのスピードで攻められたら
お前はパンクしちまうよ?」

「だって…こんな良い年した混血魔女が
ウブなヴァージンだなんて!恥ずかしくて
どの面下げて会えるって言うのよッ!」


「何!そのむちゃくそ可愛いの!!」

「キャーッ!!」

亮とは違う声がした。
美雪はとっくに賞平は帰ったものと
思い込んでいたのだが
実は続きのフロアのソファーに
座っていて話は丸聞こえだったのである。
賞平は鼻血を出し、興奮した様子で
美雪を見ている。
ヴァージン。嘘だろ?
俺が腰に手を回して抱き寄せただけで
あんなに赤くなってたの?
んもう!何だよそれ!可愛いすぎか!!

「美雪!結婚を前提につき合ってくれ!」

「え?!っえ、ええ!」

「一目惚れだったんだ!本当は
こうやってすぐに口説きたかったんだよ。」

「はあ、あ、ああん……」

美雪はまたしても、倒れた。




とにかくイチャイチャハロウィン小説版⑦

2017-12-16 09:38:23 | とにかくイチャイチャハロウィン小説版
「もう、大変だったわ!!」

美雪は仕事柄
よくパーティーに招かれるのだが
魔界のパーティーというものは
紳士淑女のお相手探しの意味合いが強い。
パーティーのお開きには必ず男性から
気に入った女性にデートの申し込みをする。
女性は余程のことがない限りは断らない。
ここで断るのはかなり非常識である。
だが美雪はパーティーに来る紳士の類いは
家柄をひけらかす鼻持ちならない男ばかりで
こんなやつらと特別な関係になろうなんざ
これっぽっちも思えないのだ。
で、一応デートまではする。
案の定話は全く噛み合わず
相手が何を見ているかと言えば
美雪の美貌やスタイルの良い身体である。
社交界に出しても申し分ない容姿をもつ
美雪はパーティーでこんな輩を釣り上げて
しまうのだった。
別れ際、交際はお断りすると言っても
うだうだと粘られ、話をすり替えられる。
良家にお嫁に行くのが女の幸せだ。
そう信じて疑わぬ特殊な人種が
溢れかえるパーティーにもビジネスとして
出向かねばならない。美雪は閉口していた。

「で、今日の方はきちんと振れたの?」

エリザベスは美雪にホットレモネードを
差し出すと、困ったわねと肩を竦めた。

「逃げたのよ。また来週迎えの車を
寄越すから。その一点張り。」

「プレゼントは?」

「フェラガモとシャネルよ。」

「美雪はエルメスの方が好きなのにね。」

美雪とエリザベスはお腹を抱えて笑う。
男って、馬鹿ね。

「エリザベスは次のお相手はどうする?」

「来シーズンも予定入ってるの?」

「写真、見る?イケメン揃いよ?」

美雪はベッドサイドからお見合い写真を
取り出した。色々な雄コウモリの
写真が何枚も出てくる。

そうだ。エリザベスは繁殖を
仕事にしている雌コウモリ。
コウモリブリーダーである美雪の
ビジネスパートナーであり
一緒に育ってきた幼なじみである。
亮のアルファとベータも
エリザベスの子供だ。
アルファとベータの弟妹
ガンマとデルタは美雪がペットとして
引き取り、エリザベスと一緒に
暮らしているのである。
エリザベスはお相手のコウモリと
一夜を共にして、子供を生むのが仕事。
繁殖の期間を、美雪はハネムーンと呼び
エリザベスには
仮初めではあるものの恋をする蜜月
と思うように育ててきた。
エリザベスはお相手を誘いメロメロに
してからムードを大切に交尾をする。
ベビーが生まれてからの大変な時期を
雄が積極的にフォローしにきてくれるのは
珍しいことなのだが、エリザベスには
かなりの確率で、産後もお相手が
訪ねてくる。ベビーの世話をするために。

「あら。ジョンとアントニーだわ。」

ジョンはアルファたちのパパ。
アントニーはエリザベスの初めての
お相手だった雄である。

「アントニーは、これで種付けからは
引退するそうだわ。」

エリザベスは美雪の言葉を聞いて
切なそうに頬を染めた。

「アントニーに、会いたいわ。」

「オッケー。話、進めるわ。」

美雪が写真を片付けて
キーボードを打ち始めた。
仕事中の美雪の顔は
先ほどのしつこいお相手のことなど
忘れたかのようで頼もしい限りだ。

「次のデートでは正式にお断り
するんでしょう?」

エリザベスの何気なくかけた言葉に
美雪は意外にダメージを食らったらしい。

「それねぇ。」

パーティーで交際を申し込まれ
それを女性から断るとき。
身元のしっかりした立会人を交えて
お断りをするのが慣例なのだが
それは要するに、なし崩し的に
既成事実を作らせないように
女性側の身内もしくは本当の想い人などの
男性を伴ってしっかり縁を切るという
なかなかに面倒くさいことなのだ。
今までは遠縁の身内という設定で
亮に来てもらっていたのだが
それを美雪は渋っている。

「なぜ、亮じゃだめなの?」

エリザベスは不思議そうだ。

「だって。アイツにはもうプロポーズまで
してるかわいこちゃんがいるんだから。」

「ああ。美月ちゃんね。」

「あたしが亮とショッピングしていた
だけでもうボロ泣きするくらいの
やきもちやきなんだって!」

「うふふふ」

女二人、また一頻り笑った。

「じゃあ、亮のお友達とか。
サクラとして雇ったら?」

「そうねえ。」









「別に気にしなくていいのに。」

亮は何てことない顔をする。
ったく、ニブいわねえ。
美雪は無頓着な亮に呆れて言葉もない風に
ため息をついた。

「もう、やきもちも可愛くて。
体で仲直りするから大丈夫だよ?」

亮は無頓着なのではなく
美月に妬かせたいなどと
余裕をぶっこいているのだ。

「とにかく。あんたには頼まないから。
誰か適当な男の子いないかしら。」

亮は、美雪がその気になれば
悪魔でも何でも召喚して
しつこい伯爵やら先生やら
追い返すことが出来るのを
わかってはいるのだが。
何分ビジネスの延長で絡む問題なので
彼女にそんな奥の手を使わせる前に
言い寄る男を追い払えたら
それに越したことはないのだ。

「だいたい年格好が釣り合った彼女なしの
友達を紹介してやるよ。」

「それいい。頼んだわ亮。」

美雪は誤解の心配のない
彼女なし、というところが気に入った。







「初めまして。坂元賞平といいます。
中央科学博物館で研究員をしてます。」

「村瀬美雪です。コウモリブリーダー
を生業としてますの。今回は面倒なお願いを
してしまって、ごめんなさい。」

亮は賞平を美雪に紹介した。
堅い挨拶から始まったものの
二人の間にはパーティーで出会う
紳士たちとのそれと比べれば
よほど暖かな、そして艶やかな空気を
感じることが出来た。

「彼女もいなくて暇なんで。
いつでも呼びつけてもらって大丈夫です。」

賞平は美雪をすごく気に入っている。
亮にだけは分かる。
この男、シャキッと良い奴を気取りつつ
今すぐにでもベッドであんなことこんなこと
首筋にも優しく牙を立てたいと
すっげーいムラムラしちゃってる。

「助かりますわ。」

美雪は実はウブであまり男慣れしていない。
幾多の紳士を振り続けてるんだが
あれは別問題だ。
ときめきを感じず冷静な対応が出来ている。
皮肉なものだが男として見ていない証拠だ。

美雪は賞平に対して。
大変胸を踊らせていた。
平静を装いながら、もう目と目を合わせて
会話をするだけで一杯一杯だった。

亮はこの二人が結ばれるのは
時間の問題だと思う。
美雪が想定外の跳ねっ返りを見せなければ
あっという間に。
逆にそれが唯一の、そして最大の
懸案事項だったのだ。

とにかくイチャイチャハロウィン小説版⑥

2017-12-09 20:29:32 | とにかくイチャイチャハロウィン小説版
「ちょっと早く着いちゃったなあ。」

亮との約束は午後からだった。
一緒にお茶を飲んでゆっくりして
夜まで静かに過ごす予定だった。
ディナーはどこで何を食べようか
臨時収入があったから、好きなもの
ご馳走するよと、亮は気前のいいことを
言っていたっけ。
でも美月は、街でいい食材が
安くなっていれば仕入れていき
一緒に料理して。ずっと二人きりで
夜を楽しみたいとも思っていた。
お昼前から美月は魔界に入り
マーケットをはしごしていたのだった。

ドレスやアクセサリーのブランドショップが
軒を連ねる通りを横切って、市場を覗こうと
していたときだった。

「おい。もう行くぞ。」

確かに亮の声が聞こえた。
美月はうれしく声の方を探したが
次の瞬間、魔法に掛かったように
立ち尽くした。

「まだよ。んもう、せっかちな男は
出世しないわよ?」

「出世なんてしませんから。」

「情けないわね。これにするわ!
キャッシャーに手配して。」

亮は女性をエスコートしている。
小柄で細身、でも胸と腰に揺れる
魅惑的なボリュームがある。
長くてふわりと巻いたブロンドが
女も羨むリズムで肩で踊る。
ご機嫌でバッグと靴を選んでいて
見れば亮は、幾つもの紙袋や
きらびやかに包まれた箱を抱えている。

「ありがと。助かったわ。」

女性の手が亮の二の腕を滑る。
白くたおやかで、指が細く長い。
美月には職業柄出来ないネイルが光る。
ラインストーンが品よく散りばめられている。

「で、これを全部運ぶんだろ?」

「お願いね。クロネコちゃん。」

「俺は配送業に転職した覚えはないよ。」

「やってくれるくせに。
だって明日のパーティーで着るんだから。
間に合わないわ。」

「分かってるよ。」

二人はつき合いの長い様子をうかがわせる。
ずっと前からこんな風に一緒にいたように。

「亮のことは、何にも知らないよ。」

美月は亮に、自分の知らない別の生活が
ずっと前からあったのではないかと思った。
プロポーズもされたばかりだ。
確かに愛し合っている実感もある。
それでも、美月の心は大きく揺さぶられて
しまったのである。









気づけば美月はカフェで
パンケーキと
チーズケーキと
ショートケーキと
チョコレートパフェと
ストロベリーワッフルと
シュークリームと
シトラスフルーツタルトと
モンブランと
アールグレイシフォンケーキと
ミルクレープを平らげ
珈琲をお代わりしていた。

お腹が減ると気持ちが惨めになる。
甘いものでお腹を満たし、幸せな
気持ちになれば冷静に分析出来るかと
思ったのだが。
美月は悲しくて惨めな気持ちの上に
怒りがこみ上げてきてしまう。
怒る元気が出てしまったのだ。

だってこれは。
あたしを騙してたってことでしょ?
プロポーズまでしておいて。
騙していなかったとしたら
さっきのは、浮気だよね?

「すみません!プリンアラモード
ピーチサンデーひとつ!!」

美月は金魚鉢みたいなグラスに
プリンとピーチをメインに
アイスクリームもふんだんに盛り付けられた
普通は4~5人でシェアするメニューを
オーダーし、あっという間に平らげた。






美月は、約束の時間に亮の家に現れた。


亮は何事もないように
いつものようにうれしそうに
美月を迎えた。

「あれ?美月。」

美月は確かに自分が膨れっ面だったのは
自覚もあったし、亮に会ったらすぐに
問いただそうと怒りを最高潮に
維持していた。

「それは。フグ?」

でもフグにはなっていないつもり
だったので、会話が完全にすれ違って
少し気がそがれた。
その瞬間悲しみが津波になって押し寄せる。

「ぶふあっ」

フグ、いや膨れていた頬っぺたが
急に空気を抜かれて大きな音を立てる。

亮から見たら、単なる可愛い百面相で
笑いながら美月を抱きしめた。

「どうしたんだい?」

「どおしたもこおしたもないおっ!!」

美月はまだ空気のもたつく口の中で
嗚咽の波が押し寄せそうになるのを
必死に抑えこんでいた。
抱きしめられると、亮の体の暖かさと
いつもの優しい愛撫や激しい動きを思いだし
今度は淋しさが押し寄せた。

「いやあ!離れちゃいやだよ!」

「美月。」

亮にはこの美月の感情の動きが当然ながら
理解できなかったのだが、可愛かった。

亮は真っ昼間っから美月をベッドに運んだ。
運ぶならこいつをベッドに運ぶのが
一番だなと亮はだらしなく口元を弛めた。


ベッドの中で美月はずっと
亮にしがみついて言った。

ずっと一緒にいて
あたしを離さないで
お願い


訳もわからず
泣いている美月を
亮は鳴かせ続けた。









「どうしちゃったんだ?」

ようやく美月が鳴き疲れてけだるそうに
ベッドに横たわると、亮はゆっくり
話しかける。
いつもより激しく吸いあった唇は
赤く濡れている。亮はたまらず
また食べるようなキスをした。

「んあんっ」

美月がまた感じ始める。
このまま抱いてしまうと
また返事が聞けないままになる。
でも亮はもう一度美月を抱いた。







「あの女の人は?」

何度抱いたか分からなくなった。
行為の無限のループにはまりこんで
時間の感覚も鈍ったのか
とっくに深い時間になっていた。

少しずつ普通の感覚に戻るものの
体はベッドに吸い付くように重い。

「女の人?」

「今日ね。いつものマーケットに
昼前からいたんだよ。あたし。」

「そうだったんだ。ごめんな、予定が」

亮はようやく思い当たったようで
笑い出した。

「美月ってば!それであんなに?」

げらげらと笑いの止まらない亮に
美月は抱きついて拳で胸を打つ。

「あの人はなんなのッ?!答えてよッ!」

「あれは、俺の恩師の娘さんなんだ。
ガキのころからのつきあいだけど
アイツは姉貴みたいなもんかな。」

美月は当然ながら納得はしていない。

「ヴァンパイアとの混血で
魔女なんだよ。子どものころからの
有名なコウモリブリーダーなんだ。
アルファとベータもあいつから
譲り受けたんだ。」

彼女は亮の幼馴染みで
ヴァンパイアの血が入った魔女で
コウモリブリーダーである。

美月の質問には余すことなく答えた
亮だったのだが、これだけが彼女の望む
答えではないことを彼も分かっている。

「美雪っていうんだけどね。」

「綺麗な人だよね。」

「美月の方が、俺には綺麗だよ?」

「スタイルよくて」

「美月の方が、俺の好みだよ。」

「上品で、お洒落で。」

「お前の笑顔に敵うものはない。」

「あたしは。亮のことなんにも」

「これからの俺は美月のためだけに在る。
お前だけだよ。当たり前じゃないか。」

「大好き。」

「愛してる。お前だけだ。」

「あたしも愛してる。亮だけ。」







また、いつの間にか朝になっていた。
亮は午後から仕事だったが、美月は
学校も休みである。ゆっくりと朝を
一緒に過ごすことは、また夜とは違う
満足感がある。

「今日は打ち合わせだけだから。
お茶の時間には帰ってくる。」

「スコーン焼いて待ってる。」

「行ってくる。」

「ん。いってらっしゃい。」

美月は亮を親に会わせる算段を考え始める。
魔界では、親に結婚の許しを乞うなんて
観念はない。もちろん血筋を大事にする
種族もあり、そんな縁組みは初めから
管理されていることもあるらしい。
それでも他の大多数の魔物たちは
自由に恋愛をし、自由に婚姻を結ぶ。
婚姻という制度も確立されているが
幸せな家庭はすべてが制度に縛られて
いるわけではなく、自由だ。
人間の婚姻では家族ごと繋がりをもつが
そこら辺が理解に苦しむらしい。

朝食の後片付けをしていると
昨夜は構ってやれなかった
コウモリ兄弟が控えめに
キューキューと甘えた声を出している。
こんなとき、美月は自分に甘えてくれる
コウモリたちを可愛く思う。
彼らが自分を亮の恋人と認めてくれて
いるように思えるし、出会って間もない
しかも人間である自分に懐いてくれるのも
ありがたいと思うからである。

相変わらず自分の胸の谷間や太ももの間に
顔を突っ込んでくるアルファとベータを
優しく撫でていると、呼び鈴が鳴った。

美月は留守を守っているときにも
あくまで頼まれて留守番しているだけ
というスタンスを保つ。
対応するのは荷物を受けとるくらい。
誰か訪ねてきても、言伝てを聞くくらいに
とどめることにしている。

「はい、どちらさまでしょう。」

ドアをあけると、昨日亮と一緒にいた
女性が立っている。
美月は息を飲んだ。
もしかして。亮の言うことはみんな嘘で。
この彼女は当たり前のように
亮を誘いに家に来たのかもしれない。

「あら?いやだ、亮ったら
冗談じゃなかったのね!!」

美雪は大きな口を開けて
あらいけない、と手を口元に
持ってきて恥ずかしげに包んだ。

「だって!会って十日もしないうちに
プロポーズしたなんて言うんだもの!」

「本当です。彼は真剣に」

「あらごめんなさい、いけないって
いうんじゃないんだけど。うふふ。」

美雪は本当に苦しいくらいに笑う。

「あいつ、昔から慎重派で。
考えられなくて、こんなこと。うふふふ。」

「昔から?」

「あ、あたしあいつの幼馴染みでね
五歳くらいからよく遊んでやってるのよ。」

美月はいけないと思いながらも
つい敵意が顔に出る。
眼差しがキツくなり、口角が下がる。
分かっているのに、どうにも出来ない。

「なにか誤解していない?」

美雪も笑顔が消える。

美月は怯んで肩をすくめた。
この人、魔女だって言ってたな。
こんな人と喧嘩して勝てるのかな。
肉体的な力でなら利き手を封じられても
勝てるだろう。相手は肉体的には只の女だ。

「あいつが出会って十日もしないうちに
プロポーズまでする、あたしには分かるわ
それがどれほどのことなのか!」

「……。」

「一生に一度の運命の出会いだわ。
誰にも邪魔できない。」

「え?」

美月は予想していた展開と違う方へ
話が進んでいることに我を忘れて驚いた。

「アルファとベータは?
あの子達もきっとあなたにメロメロね?」

「あ、ああ。懐いてくれてます。」

「アルファ!ベータ!」

美雪は美月の肩越しに、奥を覗くように
声をかけた。二匹の羽音がする。

「ア、ミユキイラッシャイイラッシャイ」

「マタ、トオルニニモツモチサセル?」

「シチュウヒキマワシヒキマワシ♪」

アルファとベータは嬉しそうに
美雪の回りを飛び回る。
美雪は人差し指を宙にかざし、指の腹を
チコチコと上下に動かした。
アルファとベータは触れられてもいないのに
いつも美月がイイコイイコしたときの
うっとりした顔つきを見せた。

「ブリーダーなんかやってるとね。
コウモリ5~6匹一時に撫でなきゃ
いけないのよ。今のあたしが使う
魔法なんてこの程度のもの。」

「二人とも美雪さんの胸の谷間とかにも
入り込んだりしますか?」

美月はもし、コウモリブリーダーが
全部のコウモリに甘えられたら
大変なことになるなと思った。

「ああ。雄も雌も暖かいとこが
好きだから、初めは来るわね。
だけどすぐ来なくなっちゃうの。」

美雪の谷間はコウモリたちに不評だ。
美月は首をかしげた。
気持ち良さそうなのに。

「あなたは谷間に入れてあげるの?」

「なんか、喜んでくれるから。」

美月の胸や太ももの間に挟まり
気持ち良さげにしている二匹を
美月は心穏やかに見つめる。

「あなた、人間よね?コウモリ
抵抗ないの?」

美雪は不思議そうに美月を見た。

「うちの近所にもアブラコウモリとか
よく見かけるし、あまり好きではないけど
この子たちは可愛いですね。」

美月の胸の谷間に入ったアルファは
気持ち良さそうに胸に頬擦りしている。
太ももの間に収まったベータは
キューキュー喜びながら股間に
にじりよる。

「………」

美雪には分かった。
この子たち、少し発情してるわ。
陰茎が伸びて露出するのも時間の問題だ。
これは後で亮に進言しておこうと
美雪は美月には話さないでおいた。

美月からはとてもしあわせな
女のフェロモンが出ているのだろう。
コウモリの雄たちにもいい匂いだと
感じられるらしい。

「なんだか安心したわ。
あなたが亮の奥さんなら大丈夫ね。」

美雪は満足そうに帰っていった。












近況 年賀状について

2017-12-02 13:43:23 | ラクガキ
年賀状のことでございます。

今回、コミティアでお買い上げいただいた方
へのおまけとして、年賀状をお配りしました。
通販も同様におまけとして
封入する予定でおります。

では、私が
おまけとして差し上げた年賀状で
同じ方に同じ年賀状で新年のご挨拶を
するのか!というところで
これ、かなり悩んだのですが
今回通販のお申し込みが極端に少ないこと
イベントに来てくださったお友達が
またすごく少なかったこと
これは描けるな、と思ったので
手描きの年賀状をお出しすることに
いたしました。


去年はこのハガキ大のイラストが
描けなくなる病に冒されていて
縮小コピーしてトレスして清書する
面倒な描き方をしていましたが
今年は大丈夫でした(; ・`ω・´)



調子に乗ってこんなラフを描いたあと。


反省して描き直し。



こんなんで、彩色に入りました。






どれがどなたに届くかはお楽しみということで。

他の方々には、こっちの年賀状で
新年のご挨拶をさせていただくつもりで
おります。よろしくお願いいたします。