亀の啓示

18禁漫画イラスト小説多数、大人のラブコメです。

とにかくイチャイチャハロウィン小説版⑦

2017-12-16 09:38:23 | とにかくイチャイチャハロウィン小説版
「もう、大変だったわ!!」

美雪は仕事柄
よくパーティーに招かれるのだが
魔界のパーティーというものは
紳士淑女のお相手探しの意味合いが強い。
パーティーのお開きには必ず男性から
気に入った女性にデートの申し込みをする。
女性は余程のことがない限りは断らない。
ここで断るのはかなり非常識である。
だが美雪はパーティーに来る紳士の類いは
家柄をひけらかす鼻持ちならない男ばかりで
こんなやつらと特別な関係になろうなんざ
これっぽっちも思えないのだ。
で、一応デートまではする。
案の定話は全く噛み合わず
相手が何を見ているかと言えば
美雪の美貌やスタイルの良い身体である。
社交界に出しても申し分ない容姿をもつ
美雪はパーティーでこんな輩を釣り上げて
しまうのだった。
別れ際、交際はお断りすると言っても
うだうだと粘られ、話をすり替えられる。
良家にお嫁に行くのが女の幸せだ。
そう信じて疑わぬ特殊な人種が
溢れかえるパーティーにもビジネスとして
出向かねばならない。美雪は閉口していた。

「で、今日の方はきちんと振れたの?」

エリザベスは美雪にホットレモネードを
差し出すと、困ったわねと肩を竦めた。

「逃げたのよ。また来週迎えの車を
寄越すから。その一点張り。」

「プレゼントは?」

「フェラガモとシャネルよ。」

「美雪はエルメスの方が好きなのにね。」

美雪とエリザベスはお腹を抱えて笑う。
男って、馬鹿ね。

「エリザベスは次のお相手はどうする?」

「来シーズンも予定入ってるの?」

「写真、見る?イケメン揃いよ?」

美雪はベッドサイドからお見合い写真を
取り出した。色々な雄コウモリの
写真が何枚も出てくる。

そうだ。エリザベスは繁殖を
仕事にしている雌コウモリ。
コウモリブリーダーである美雪の
ビジネスパートナーであり
一緒に育ってきた幼なじみである。
亮のアルファとベータも
エリザベスの子供だ。
アルファとベータの弟妹
ガンマとデルタは美雪がペットとして
引き取り、エリザベスと一緒に
暮らしているのである。
エリザベスはお相手のコウモリと
一夜を共にして、子供を生むのが仕事。
繁殖の期間を、美雪はハネムーンと呼び
エリザベスには
仮初めではあるものの恋をする蜜月
と思うように育ててきた。
エリザベスはお相手を誘いメロメロに
してからムードを大切に交尾をする。
ベビーが生まれてからの大変な時期を
雄が積極的にフォローしにきてくれるのは
珍しいことなのだが、エリザベスには
かなりの確率で、産後もお相手が
訪ねてくる。ベビーの世話をするために。

「あら。ジョンとアントニーだわ。」

ジョンはアルファたちのパパ。
アントニーはエリザベスの初めての
お相手だった雄である。

「アントニーは、これで種付けからは
引退するそうだわ。」

エリザベスは美雪の言葉を聞いて
切なそうに頬を染めた。

「アントニーに、会いたいわ。」

「オッケー。話、進めるわ。」

美雪が写真を片付けて
キーボードを打ち始めた。
仕事中の美雪の顔は
先ほどのしつこいお相手のことなど
忘れたかのようで頼もしい限りだ。

「次のデートでは正式にお断り
するんでしょう?」

エリザベスの何気なくかけた言葉に
美雪は意外にダメージを食らったらしい。

「それねぇ。」

パーティーで交際を申し込まれ
それを女性から断るとき。
身元のしっかりした立会人を交えて
お断りをするのが慣例なのだが
それは要するに、なし崩し的に
既成事実を作らせないように
女性側の身内もしくは本当の想い人などの
男性を伴ってしっかり縁を切るという
なかなかに面倒くさいことなのだ。
今までは遠縁の身内という設定で
亮に来てもらっていたのだが
それを美雪は渋っている。

「なぜ、亮じゃだめなの?」

エリザベスは不思議そうだ。

「だって。アイツにはもうプロポーズまで
してるかわいこちゃんがいるんだから。」

「ああ。美月ちゃんね。」

「あたしが亮とショッピングしていた
だけでもうボロ泣きするくらいの
やきもちやきなんだって!」

「うふふふ」

女二人、また一頻り笑った。

「じゃあ、亮のお友達とか。
サクラとして雇ったら?」

「そうねえ。」









「別に気にしなくていいのに。」

亮は何てことない顔をする。
ったく、ニブいわねえ。
美雪は無頓着な亮に呆れて言葉もない風に
ため息をついた。

「もう、やきもちも可愛くて。
体で仲直りするから大丈夫だよ?」

亮は無頓着なのではなく
美月に妬かせたいなどと
余裕をぶっこいているのだ。

「とにかく。あんたには頼まないから。
誰か適当な男の子いないかしら。」

亮は、美雪がその気になれば
悪魔でも何でも召喚して
しつこい伯爵やら先生やら
追い返すことが出来るのを
わかってはいるのだが。
何分ビジネスの延長で絡む問題なので
彼女にそんな奥の手を使わせる前に
言い寄る男を追い払えたら
それに越したことはないのだ。

「だいたい年格好が釣り合った彼女なしの
友達を紹介してやるよ。」

「それいい。頼んだわ亮。」

美雪は誤解の心配のない
彼女なし、というところが気に入った。







「初めまして。坂元賞平といいます。
中央科学博物館で研究員をしてます。」

「村瀬美雪です。コウモリブリーダー
を生業としてますの。今回は面倒なお願いを
してしまって、ごめんなさい。」

亮は賞平を美雪に紹介した。
堅い挨拶から始まったものの
二人の間にはパーティーで出会う
紳士たちとのそれと比べれば
よほど暖かな、そして艶やかな空気を
感じることが出来た。

「彼女もいなくて暇なんで。
いつでも呼びつけてもらって大丈夫です。」

賞平は美雪をすごく気に入っている。
亮にだけは分かる。
この男、シャキッと良い奴を気取りつつ
今すぐにでもベッドであんなことこんなこと
首筋にも優しく牙を立てたいと
すっげーいムラムラしちゃってる。

「助かりますわ。」

美雪は実はウブであまり男慣れしていない。
幾多の紳士を振り続けてるんだが
あれは別問題だ。
ときめきを感じず冷静な対応が出来ている。
皮肉なものだが男として見ていない証拠だ。

美雪は賞平に対して。
大変胸を踊らせていた。
平静を装いながら、もう目と目を合わせて
会話をするだけで一杯一杯だった。

亮はこの二人が結ばれるのは
時間の問題だと思う。
美雪が想定外の跳ねっ返りを見せなければ
あっという間に。
逆にそれが唯一の、そして最大の
懸案事項だったのだ。