隠れ家-かけらの世界-

今日感じたこと、出会った人のこと、好きなこと、忘れたくないこと…。気ままに残していけたらいい。

久々の That’s 芝居!~「海をゆく者」

2009年12月06日 13時07分46秒 | ライブリポート(演劇など)
海をゆく者」  2009年12月4日 (金) at パルコ劇場

作   コナー・マクファーソン
訳   小田島恒志
演出  栗山民也
出演  小日向文世/吉田鋼太郎/淺野和之/大谷亮介/平田満


■That’s 芝居!
 私が言うのもなんですが、「久しぶりに『芝居!』を観た」という感じ。
 オープニングの2秒後から一気に引き込まれ、声を上げて笑い、驚きで身体を硬直させ、深いセリフが胸にしみ入り、役者の動きから片時も目を離せない…、そういう別世界の時間をいただいた気分。
 舞台はチケットも高いし、いろいろ観たいものもあるから、再演があっても再び…という気になるのは私の場合ホントに限られているけれど、これは数少ない「再演のときはまた観たい!」と思わせてくれるであろう芝居。「Last Show 」とか「悪魔の唄」とか待っているんだけど、なかなか再演の声は聞こえてこないなあ。今でも語るとちょっと興奮しちゃうんだけど。
 おっと話を戻して…。


■酔った中年の男たちのクリスマスだぞ
五人の男が過ごすクリスマスの話。
 最近目が不自由になったその家の主リチャード、その世話をするために帰ってきた弟のシャーギー、友人のアーヴァン、ニッキー、そのニッキーが連れてきた紳士ミスター・ロックハート。
 3時間近い芝居の間、五人はほぼ酒を飲み続けて酔っている、大声で会話を交わし続けている、カードをしている。
 長い台詞も軽いジョークもすごく練られていて、違和感なくこちらの耳に入ってくる。新作の翻訳劇だけれど、訳(小田島恒志)の妙味なのか、演出(栗山民也)の冴えなのか、すでにスタンダードの安定感と、そしてそれとはある意味真逆の跳ねるようなエネルギーがある。これでおもしろくないわけがない。
 ストーリーもよくできている。伏線もじょうずに挟まれていて、あとで「ああ、そうだったのか」と思える楽しみを残しておいてくれる。私が気づかなかった伏線もあったかもしれない。
 紳士に見えたミスター・ロックハートは実は人間の身体を借りた悪魔で、シャーキーとは25年前の因縁の間柄だったり、実はシャーキーがかつてはどうしようもない暴れん坊だったり、アーヴィンにも思い出したくない過去があったり…、そういうことが次々にあからさまになっていく過程で、5人の人となりや事情がみごとに浮かび上がり、それぞれの「人間」がきちんと描かれていく。ちゃんと生きている、という感じ。そこがとにかくいい。
 丁々発止の会話のやりとり、舞台全部をうまく使い切っている役者たちの動き、そのときメインの会話を交わしているほうを見ていても、はじで妙な気に掛かる動きをしている人もいて、そっちも気になる。だから、一回見ただけでは見逃しちゃったおもしろさがたくさんあるような気がしてしまう。
 最後まで息もつけぬほどに入り込めた芝居は、本当に久しぶりだった!


■中年俳優たちに勝手に脱帽っす
 実は悪魔の「紳士ミスター・ロックハート」を演じる小日向文世。柔らかくて穏やかな中の狂気って言うんですか? そういうのを演じたら天下一品。今回もそうなんだけど、このミスター・ロックハートはポーカーだけじゃなくお酒も弱いみたいで、登場したときから「軽く千鳥足」ってとこがなんだかおかしい。だけど、舞台の端の椅子に座って因縁のシャーキーをにらみつけるときの眼光の鋭さ、悪魔になったときの声のドス、そのあたりにロックハートの慇懃無礼さとの対極のバランスがあって、さすがだな、と。それと、悪魔として「地獄で生きる」ことの辛さをシャーキーに語るところ、ここがすごかった。その描写の台詞自体がいいんだけど、小日向さんの高い声で響かされると、ああ、絶対にそんなところに行きたくないよって気分にさせられる。天国じゃなくてもいいけど、地獄はマジで願い下げです…。
 豪放磊落で明るくて人間と酒が好きで生活破綻者っぽいけど実は優しい人だから友人も集まってくる、そんな兄を演じるのは吉田鋼太郎。この人が出てくると俄然舞台がしまる。いつもすごいなって思う。最近じゃ「SISTERS」のときか。あのときは反吐が出るほどヤなやつ」(私に撮ってね)だったけれど、今回は「そばにはいてほしくないけど(笑)憎めない男」と超魅力的に破壊的に見せてくれる。ド迫力でイチイチ目を見張らせてくれる。このスケール感とかわいらしさを違和感なく見せてくれるっていうだけでスゴイ(ばっかりだな、ボキャ不足に自己嫌悪)。
 そして、ある意味このドラマの要である弟シャーキーの平田満(つかこうへい下での演劇活動を含めたこの人の履歴を説明した適確なウェブサイトが見つからないのですが)。この人のすごさを、そして「ああ、舞台の人なんだ~」を改めて感じた。テレビの2時間ドラマでの妙な浮きかげんとは異なり(ご本人がどう思っているか、とか、世間の評価がどうか、ということは無視して、あくまで私の感想です)、陳腐ですが「水を得たサカナ」状態。「こんにちは 母さん」 「竜馬の妻とその夫と愛人」での平田満もよかったしなあ。
 (「こんにちは 母さん」は2007年にNHKで、舞台と同じ加藤治子+平田満のコンビで放映されたんですね。今知りました。好評だったようですが、舞台もよかったんですよ。「竜馬の妻とその夫と愛人」はスターたちの映画が有名ですが、もともとは三谷幸喜の芝居です。ここでの平田のせつない演技で泣いた記憶あり)
 シャーキーの実像があきらかになり、もともと人生に疲れていた彼にとどめの一撃がおろされたあと、意外な結末で彼は解放される。その間の表情の変化も繊細に演じる。みんなが去ったあと、階段の上の窓からさしこむ朝日を浴びてささずむ穏やかな表情が、このドラマの主題なのかなとも思う。
 最近では「相棒」の捜査一課トリオの一人としてお茶の間にもおなじみな大谷亮介。「歌わせたい男たち」での校長の悲哀が懐かしい。今回の登場人物の中ではいちばんわかりやすい人物?ニッキーを演じる。最後まで、ちょっといい加減な根っからの明るさで私たちを安心させてくれる。やっぱり舞台では若い!
 いつも味のある脇をしめている淺野和之演じるアイヴァン。気が弱くてとぼけているけど、彼の「メガネ」がドラマの最重要な役割を担っている。この人物の味が舞台の心地よいエッセンスとなっている。うまい人だよなあ。


 というわけで、なんだかうまく書けないのが悔しいのですが、本当におもしろい勢いのある、だけど胸の奥に深く響く、上質のお芝居でした。
 今回は先行で最前列をゲットしたのですが(ときどきそういうことあり)、最前列はどうかな、と思いますね。迫力はステキなんだけど、ステージ全体を観るには、せめて前から3列目? 5列目?(なんてぜいたくなことを)
 ツレは男性ですが、小日向さんが舞台の先端に腰を下ろしてしばらくそこに座っていたときには、目が合うんじゃないか、と思ってドキドキしたって(笑)。小日向さんの色気もあるし…。

 ちなみに「海をゆく者」は、きっと「私たち人間」のこと。劇中で一度だけ、誰の台詞か忘れたけれど。
 人生は、どこに流れていくのかわからない、と。

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