長尾景虎の戯言

読んだり聞いたりして面白かった物語やお噺等についてや感じたこと等を、その折々の気分で口調を変えて語っています。

若竹七海著【猫島ハウスの騒動】

2010-10-11 14:26:20 | 本と雑誌

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本書は「ヴィラ・マグノリアの殺人」「古書店アゼリアの死体」に続く、コージーミステリーシリーズである。
神奈川県の葉崎半島(実際にそんな所はない)の西に位置する通称猫島は、一周五百メートルたらずの小さな島。
本当の島名である砂渡島の通り、干潮時には海がひいて半島本土までの砂の道ができるが、橋がないので、満潮時には船で渡らねばならない。
戦争中に真水の出る井戸が掘られるまでは、夜間は猫しかいない無人島だった。
猫島の土地は猫島神社のもので、電気が通るようになって、先代の宮司が三百年値上げしないという条件で土地を安く貸し出し、人がいつくようになった。
現在では猫島神社の宮司、土産物屋やコンビニ、民宿兼食堂、葉崎市営の保養所等、定住者は三十人を超えている。
ただし猫の数はその倍以上。
有名カメラマンにより撮られた、猫島の猫たちの写真が猫専門誌に掲載されて以来、この島は有名観光地になった。
猫マニアというか愛猫家というか、つまりこのブログ記事をせっせこ書いている山内美陶鈴のような猫バカの輩が、ぞろぞろ押し寄せて来ることになった。
この猫島のメインストリート沿いにあって、島のほぼ中央に<洋風民宿・猫島ハウス>は位置する。
そこの娘杉浦響子は、夏休みを迎え、一階の土産物部門と軽食スタンドを担当し、家業の手伝に励む多忙な毎日であった。
民宿の娘といったが、響子の両親は彼女が五歳の時海難事故で他界しており、猫島ハウスのオーナーである祖母松子により育てられたのである。
祖母に休んでもらおうと働いているのだが、そこは十七歳の乙女のこと、陽のさんさんふり注ぐ夏休みに、薄暗い土産物屋に閉じ込められ、いささかうんざりしていた。
本当は同級生でボーイフレンドでもあった、菅野虎鉄に手伝ってもらうはずだったのだが、どうやら一ヶ月前の修学旅行で、ふたりの間に何やらあったようだ。
その菅野虎鉄の方はナンパに勤しんでいて、ナイフの突き立った、猫のはく製らしきものを見つけてしまう。
何を慌てたか虎鉄は、死体があると通報してしまう。
猫島夏期臨時派出所の巡査七瀬晃は、まったくやる気がなく、しょっちゅう持ち場を離れては、島のどこかで油を売っている始末で、その時も派出所を空けていた。
留守番の警察官がいるにはいた。丸顔で目つきの悪いドラ猫のDCだ。
派出所にいついてしまい、マスコミ受けを狙った葉崎警察署長から、臨時派出所勤務員の資格を与えられ、星章付きの紺色の首輪をしているマスコット猫である。
この警察官では役には立たちそうにない。
妻のお供で猫島に遊びに来ていた、葉崎警察署捜査課の駒持時久警部補が、たまたま派出所へ陣中見舞い立ち寄ってそのことを聞き、代わりにやって来た。
黒澤明の「天国と地獄」のDVDを観た妻の趣味で、しわだらけの麻のスーツに黒の革靴、白い開襟シャツでパナマハットをかぶり、ベルトに扇子をさす、葉崎の浜辺ではあまり見かけないファッションの駒持は、猫アレルギーだった。
ところが意外にも駒持は虎鉄を引き連れ島を歩き、くしゃみと戦いながらも真剣に捜査するのである。
捜査しているうちに、ナイフ猫ははく製ではなく、三田村成子の店<The Cats & The Books>で売った、ぬいぐるみであったことが判明した。
十個仕入れて全部売り切れ、中にはいっぺんに三個も買った男がいた。
髪をぺったぺったになでつけ、シャツのボタンを四つも開けて、細いぴっちりした黒ズボンをはき、エナメルの靴の、駒持とは正反対のラテン系ファッションの男だったらしい。
ナイフの方は、どうやら葉崎東銀座商店街にある、<ポール・オースター>で扱うバタフライナイフのようであった。
駒持は猫のぬいぐるみから別のものを嗅ぎ取り、署に戻って生活安全課の二村喜美子警部補に調べを依頼する。
案の定覚醒剤反応が出た。駒持は覚醒剤アレルギーでもあった。
二村警部補はパソコンを叩き、ニコラス・ケイジをまぬけにしたような、馬面の男の顔を画面に出した。
そのラテン風のファッションとは相反する名前の、桑原茂平という男だった。
以来男はアルベルト茂平と呼ばれることとなる。
覚せい剤取締法違反で二度の前科があり、今春福島刑務所を出所したばかりであった。
「猫とナイフ」事件の三日後、マリンバイクで海上を暴走している男に、人間が降ってきて衝突する奇怪な海難事故?が猫島で発生。
降ってきた方も、衝突された方も結局死亡した。
ただし降ってきた男は、かのアルベルト茂平だった。
駒持はガスマスクを装着し、ダースベーダー風の呼吸を漏らしながら、七瀬巡査を従え猫島での捜査にあたる。
何故かポリス猫のDCも、悠然とその捜査活動に加わった。
一方検視の結果アルベルト茂平の胸に、スタンガンの痕が発見され、殺害の可能性が濃くなる。
覚醒剤密売に絡む殺人事件として捜査が進行する中、猫島で新たに腐乱死体が発見される。
ところで菅野虎鉄の祖父母は、猫島で<民宿すがの>を営んでいたが、父親は継がす公務員になり、祖父母のふたりが死ぬとその民宿を売って、葉崎駅近くの建て売りを買ってしまっていた。
不動産屋を通じて<民宿すがの跡>を買ったのが、イラストレーターの原アカネであった。
アカネは猫島ハウスに長期滞在しながら、たったひとりで民宿跡の建物を、自分仕様に改修する作業を続けていたのだ。
アカネは猫島ハウスの二階のリビングで、白黒ブチのマスコット猫マグウイッチと遊ぶ、かのアルベルト茂平を目撃してもいた。
いらない古材や畳などを積み上げていたら、猫のトイレと化してしまった。
ゴミ置き場ともなったそこに、ゴミに埋まるように死体は打ち捨てられていた。
アカネになついてしまったクリーム猫のヴァニラが、猫の恩返しよろしく、死体の指を彼女の前に運んできたのだ。
そして更に思いもよらなかった、十八年前におきた事件が浮上する。
現金輸送車が襲われ、運転手と警備員と付き添いの銀行員ふたりが、ライフルで狙撃殺害された上、三億円が強奪された凶悪事件である。
偶然現場近くにいて銃声を聞いてかけつけた警官により、逃げ出す三人の男が目撃された。
二日後に犯人のうちふたりが車に乗っているところを発見され、警察とカーチェスの挙句、タンクローリーに激突し、札束もろとも犯人たちは炎上死した。
二週間後に共犯者として自首した杉浦幸次郎は、猫島ハウスのオーナー杉浦松子の死んだ夫の弟であり、響子にとっては大叔父にあたる。
猫島神社の綿貫芳治宮司にとっては従兄弟にあたる。
杉浦幸次郎は無期懲役で福島刑務所に服役していたが、響子が修学旅行中に病死していた。
あの時の三億円は実は燃えずに、杉浦幸次郎によってこの猫島のどこかに隠されたとの、とんでもない噂が流布する。
アルベルト茂平は服役中に、杉浦幸次郎から何かを聞き出していたようだ。
そんな大混乱の猫島に追い討ちをかけるように、大型台風が猛スピードで迫って来ていた・・・。
軽妙なタッチで若竹ワールドが展開されるが、この作家のこととて油断はならぬ、最後にはオチが待っている。
それに猫がいっぱい登場し、猫大好き人間にとっては実に楽しい。
猫島神社に捨てられ、綿貫宮司の孫森下美砂になついたペルシャ猫のメル。
神社裏のほこら付近を縄張りとする、猫島一凶暴で二番目に大きな猫の片目のシルヴァー。
猫島一大きな烏猫ウェブスターは、1メートルを優に超え、黒豹と見紛うほどでかいが、性格は穏和。
他にもいっぱい出て猫だらけだが、特にポリス猫DCはなかなかの曲者で、すっかりファンになってしまった。
DCとは<DARN CAT>のことだろうか?コンチクショウ猫とかクソ猫とか困った猫とでも意味するのか?
ディズニー映画を見たっていうと、歳がばれるってか?


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