長尾景虎の戯言

読んだり聞いたりして面白かった物語やお噺等についてや感じたこと等を、その折々の気分で口調を変えて語っています。

東直己著【抹殺】

2019-05-18 16:33:38 | 本と雑誌

車椅子のスナイパー宮崎一晃登場!彼の車椅子には特殊な仕掛けが施されている。
彼はゆっくりと全身が麻痺していく、難病シュタインブルク=ブレ症候群が徐々にだが進行している、四十四歳であと十年で寝た切りになるだろうと予想されている、少壮の画家である。
彼の病態は緩徐進行性、三期。現在安定。常時車椅子だが、数歩であれば、伝え歩きも可能。車椅子から、椅子、あるいは洋式便器への乗り換えは、自分で可能。飲食物の禁忌なし、精神・感情的な障碍はなし。注射、投薬、痰吸引、姿勢操作、などの介護は不要である。まぁ、上半身は辛うじて動けるが、下半身は萎えているという所か?
埼玉県薪谷市に自宅兼アトリエを構えている。
その介護人兼愛人として雇われているのが、24歳の垣本篤子で大変な美貌である、しかし一晃の裏の稼業を知らない。
その裏稼業を取り仕切るのが、生臭坊主・黒田龍犀、曹洞宗の坊さんで、社会福祉法人〈真心の会〉の理事長をしており、その〈真心の会〉は、広々とした冨士見丘陵の土地を所有し、特別養護老人ホーム〈杜の家〉をはじめ、デイ・ケアセンター〈和みの家〉や、母子保護施設〈やすらぎの園〉、傷病ホームレスの緊急保護を行う〈杜のクリニック〉などを運営している。
通常は〈杜の会〉の理事長室を根城にしている。
その龍犀自身只者ではないが、何故か外務省大臣官房儀典局営繕係という機関とつながっているのだった…。
一晃と篤子の関係は、単なる月150万円で雇った介護人兼愛人としてのつながりだけではなくなりそうな雰囲気になりつつあるが、だがそこにはお互い葛藤があった…。
一晃は、自分が寝た切りになる前に、金を充分蓄えておかねばらない立場で、寝たっ切りになると篤子は解雇にして自由にしてやろうと考えている。
三十代になっても、その美貌は衰えないだろう、普通の幸せを掴んで欲しい…。しかし篤子はそれに納得するのだろうか?
表題を含む全八篇の連作短編集で、異色のハードボイルド・ロマンである。
『阻止』
林東運(りんとううん)が北海道支笏湖畔の〈支笏湖ロイヤルホテル新館 望月亭〉に潜伏していることは、すでに八月の半ばには、一部に知られていた。
遠藤連立政権成立直後に突然、林が企業恐喝と脱税で逮捕されたこと自体、いささか不自然なものだったが、その後の保釈請求却下から、再度の申請、地裁判事の交通事故死、直後の迅速な保釈許可、一億五千万円という保釈金の金額、それを即座に支払った謎、そして拘置所から出た直後の失踪まで、一連の経緯も錯綜を極めていた。
そして、支笏湖付近では物騒なことが頻発していた。
宮崎一晃は篤子と共に、支笏湖に向かう、今回の標的は…。
『抹殺』
黒田龍犀のもとに依頼してきたのは、初老の男で、娘がインチキ宗教に入信した挙句死んでしまった、その仇を討って欲しい。
それに、教祖玄田道常を普通に殺すのではなく、最も下等な類の状況で、葬ってもらいたいとのこと。
その話を受けた宮崎一晃は、篤子を伴って動き出す…。
『別れ話』
平松登美子は、京都の中京区河原町蛸薬師東入ルの路地の込み入ったところに、小さな部屋を借りた。
実は国交省政務次官、竹本恒夫の愛人だったが、別れて逃げてきたのだった。
しかし竹本にとって登美子は、世間に知らてはいけないことを知る、危険な存在だったのであった。
ところで今回の宮崎一晃のミッションは…。
『敵討ち』
武徳君遺骨事件、被告の森江珠江は最高裁でも無罪となった。
しかし、珠江が武徳君を殺害した犯人であることは、誰もが分かる状況なのだが、如何せん検察には確たる証拠というカードがなかったのである。
武徳君の両親が私財を投じて、敵討ちに出ようとしている。
世間は同情的で、この敵討ちには応援している状況であった。
しかしそれでは国家として、父親が失敗しようが成功しようが、英雄扱いされ、立場がない。
完全阻止に動いていた。
さて宮崎一晃は、ここではどんなミッションになるのか…。
『氷柱(つらら』
一時は絶頂を極めた〈アライブ・グループ〉総帥は小山裄永(ゆきなが)、グールプの証券部門の投資会社が、偽計取引で検挙された。次いで証券取引法違反で立件する、と通告された。
まさか、と思ううちにも地検特捜部の動きは急で、おそらく相当以前から要所要所を押さえていたらしい。
あっという間に、グールプ内の主立った会社はおろか、秘密の情報拠点、資金集積システムの要所などを急襲され、重要書類やデータがあっさりと地検に落ちた。資金も動かせなくなった。
そのグループ所属の海埜(うんの)が香港へ行って、向うの口座の保全に全力尽くす、と出て行った切り行方をくらました。
海埜は香港なんぞに向かわず、札幌で潜伏していたのだった…。
さて今回の宮崎一晃のミッションは…。
『奇跡』
ノーベル医学賞受賞者でもある田西一蔵東大医学部名誉教授から、プリンス・カートと称するイカサママジシャンのマジックを世間に暴露して欲しいとの依頼が黒田龍犀のもとに。
田西教授は日本アマチュアマジシャン協会の名誉会長でもある。
宮崎一晃はいったいどうやってこのミッションを成功させるのか…。
『極刑』
門間興産会長・門間重十郎、門間グループの総帥である。
その孫である門間穐好(あきよし)が、凄惨な拷問を受け殺された。
その主謀者は畦倉洋輔(あぜくらようすけ)だということを突き止めていた。
畦倉は元暴走族グループ・播州連合の幹部だったが、グループはその後解散し、後見をしていた広域指定暴力団・内田会傘下のシティ・サービス(サラ金)の専務になっている。
「最も苦しい、最大の苦痛を与える、そういう形で、処理してもらいたい…」
依頼を受けた黒田龍犀と宮崎一晃は、動き出す…。
『私怨』
営繕係の係長らしき人物が、ホームレスに変装して黒田龍犀に接触してきた。
「私の私怨を晴らしたい」
母親に赤ん坊の頃捨てられた、
その母親は調べてみて分かったことだが、白仁製薬の社長の家の生まれで、現在女社長になっている。
その女を射殺してくれ…。