長尾景虎の戯言

読んだり聞いたりして面白かった物語やお噺等についてや感じたこと等を、その折々の気分で口調を変えて語っています。

浅田次郎著【天子蒙塵第四巻】

2019-05-01 20:02:15 | 本と雑誌


「龍玉(ロンユイ)」にまつわる伝説は最終章へ。
放浪の時は終わった。
天子たちはそれぞれに輝きを取り戻さんとする。
満州ではラストエンペラー・溥儀(プーイー)が皇帝に復位しょうとしている。
しかしながら満州帝国は、日本の関東軍の傀儡国家でしかない。
そして、決して大清帝国の復辟なんぞではなく、満州が共和制から王政に変わるだけのことである。
執政・愛新覚羅(アイシンギョロ)溥儀は、宣統帝(シュアントンデイー)として復位すのではなく、満州帝国初代皇帝・康徳帝として即位する。
溥儀は大変な凶相であり天命(龍玉)もない、しかし前の大総管太監(ダアツオンクワンタイチェン)李春雲(リチュンユン)は、自らの経験で、天命がなくともその凶相も、自ずから振り払い、自ずが中に天命あり、そして自ずの力で凶を乗り越えれば、必ずや万歳爺(マンソイイエ)としての資質は目覚めますと言うのであった。
かつて状元(チュアンユアン)であった梁文秀(リアンウエンシュウ)は、「官史任命権を皇帝陛下が完全に掌握なされることを企望いたしまする」と進言していた。
つまり自らの努力で乗り越えよという諭しであった。
そんななか、新京(シンジン)憲兵隊将校(酒井豊大尉)が女(池上美子)をさらって脱走する事件が発生。
欧州から帰還した張学良(チャンシュエリャン)は、上海に襲い来る刺客たちをことごとく返り討ちにしていた。
その立役者に、拳銃の名手陳一豆(チェンイードウ)大佐の存在があった。
彼の持つモーゼルは張作霖(チャンヅアリン)の形見である、親子二代に渡って黒衣を務めているのだった。
但し、上海の闇の大立者、桂月笙(トウユエション)の後ろ盾もあった。
その張学良に、思わぬ人物・共産軍の周恩来(ジョウエンライ)が訪ねて来た、いわく「中国の内戦を止めひとつにする人間は、蒋介石(ジャンジェシイ)でも毛沢東(マオヅオトン)でもない、ただ一人、張学良だけだ!」と。
一方、日本では満州事変の中心人物で、東亜連盟を構想する石原莞爾(かんじ)が関東軍内でその存在感を増しつつあり、日中戦争突入を前に、日本と中国の思惑が複雑に絡み合う。
かつて、東北王(トンペイワン)張作霖の軍事顧問をし、今は陸大で支那語を教えている吉永大佐は、石原を評して「軍人ではなく宗教家だ。末法の世の果てに前代未聞の大闘諍(だいとうじょう)が起こるという日蓮の予言を信じて、勝手に世界最終戦に至る論理をでっち上げた。天才でもなければ英雄でもない。みずからを天才と信じ、みずからを英雄たらんとする。皮肉屋で臍曲がりの宗教家に過ぎん。」と切り捨てた。
満州に生きる道を見いだそうとする少年、田宮修と木築正太、修は満州映画のスターを目指し、正太は馬占山(マーチャンシャン)の許へと旅立つ。二人の運命は。
そして二人の天子(愛新覚羅溥儀と張学良)は再び歴史の表舞台へと飛び出してゆく。
かつての東北軍の将軍だった、龍玉を預かる李春雷(リチュンレイ)は、いったいこの天命の具体を誰に託すのか…。
令和最初の記事として、昭和史の謎に迫る!!
表紙を飾る、黄色の刺繍は皇帝だけが着ることの許される、大清帝国の皇帝の皇帝たる威厳を顕す龍袍(ロンパオ)に描かれた物である。