生まれてから死ぬまでの記録

人生とは、生まれてから死ぬまでの間のこと

ニッポニアニッポン~日本文学に哀悼の意を表す

2005-10-13 23:30:42 | 読書の記録
「ニッポニアニッポン」を読みました。新潮文庫、阿部和重著、362円です。

面白くなかった本の感想は書かないようにしてますが、日本文学に哀悼の意を
こめて書かせていただきます。

もうねぇ、なんて言えばいいんだろう?
悲しい、悲しいよ。
読みながら、「これ、講談社ホワイトハート文庫じゃないよな?」と
背表紙を何度か確認してしまうくらいの薄っぺらさですよ。
本の厚さじゃなくて、その内容と表現が!
こんなのが、第125回芥川賞、2002年の第15回三島賞の候補になったとは・・・。
こういう小説を「面白いですよ」と評するのか。そうか、そうか、そうか。

どういう小説かというと、文庫の裏表紙のダイジェストをそのまま引用すると、

「17歳の鴇谷春生は、自らの名に「鴇(とき)」の文字があることから
トキへのシンパシーを感じている。俺の人生に大逆転劇を起こす!
ネットで武装し、暗い部屋を飛び出して、国の特別天然記念物トキをめぐる
革命計画のシナリオを手に、春生は佐渡トキ保護センターを目指した」

というものでして、漫画だったら、このプロットを編集に持ち込んだ時点で没
だと思うんですが、文学はGOサインがでるんですねー。
で、書かれた内容たるや、講談社ホワイトハート文庫ですよ。
こんなこと書いたら、十二国記に失礼かな? じゃあ、コバルト文庫辺りで。
とにかく、ジュニア文庫なみの薄っぺらさなんですよ
なんせ、片思いの彼女は高校教師との不倫・失恋で自殺してしまうんですよー
で、旅先で彼女そっくりの女の子に出会ったりするんですよー
もう、ヒューヒューですよ。それはさておき


主人公の狂気が全く伝わらない。解説曰く「形式的に書いている」らしいけど、
それって単に主人公の内面に踏み込む力がないんじゃないの?という気が
しないでもないけど、それは解説者に敬意を表しておいて置く。
内面に踏み込まないのなら、ストーリにめくるめく面白さがあるか、
ストーリーテリング性があるか、というとこれもない。
現代日本の問題点を鋭くえぐりだしてるかというと、それもない。
やたらとネットを使ってるけど、そのリアリティもない。
ネットって、猥雑じゃないですか。その猥雑さが全然伝わってこない。
ラストで、ネットの掲示板で「しょぼいネタ書くな!ガキ!」と罵られる、
という描写がでてくるんですが、これなんかも、全然お行儀のいい罵りですよね。
現実はもっとエグイじゃないですか。全然その辺りも描けていない。
小説の中盤あたりで、自分が童貞であることへの呪詛のようなものが描かれて
ますけど、それとて、ネット掲示板でのエロでバカな書き込みにはかなわない。
なんせ敵(掲示板)は、「ちんぽシュッシュ!ちんぽシュッシュ!」なんて
アスキーアートがあったりするわけですから。
この小説は2001年に書かれたものですが、当時2ちゃんねるはあったし、
すでにネットはそのように猥雑でしたよ。それが全然描けてないし、その
インパクトに太刀打ちできてる表現がないんですよねぇ。
形式的に描いているせい? 
でもさ、形式的なら形式的な面白さがあってしかるべきじゃないですか?
でも、そういう面白さもないねんなぁ。ただただ薄っぺらいだけなんです

てか、この作者、インディビジュアルブロジェクションでもそうだったんですが、
現実の猥雑さに全然追いつけてない。
インディ~の時は舞台が渋谷でして、渋谷も猥雑な街ですよ。
文学があえて地名を指定して舞台を設定するなら、必然性があってしかるべきだし、
その土地の雰囲気が伝わないと意味ないじゃーん と思うのですが、
渋谷の雰囲気が全く伝わらない、全く意味無く渋谷が舞台の小説でした
インディ~の時はハードボイルドだったらしいからそういったものは控えられたのかな?
いろんな言い訳ができるもんだ。

現実が猥雑だからといって、その現実を描く小説が猥雑である必要はないかも
しれないけど、じゃあ、この小説、何が書きたかったんだろう?
本当に分からない
すべてにおいて中途半端すぎる。エンターテイメントとしても、文学としても。
本当にコバルト文庫レベルですよ。
歌舞伎で、役柄を一通りソツなくこなしてはいるけど、感情移入できない、
楽しめない演技を「肚(ハラ)が薄い」と言うんですが、まさにそれ。
肚の薄い小説。まあ、安部公房・中上健次亡き後の現代日本文学は
大体こんなんですけど。

これを「面白い」といった人と私とは、文学に求めてるものがまるで違うんだ。
と、思わざるを得ない。
これを薦めてくれた人が文学に何を求めてるのか皆目検討がつかないんですが、
私は文学に「めくるめく何か」もしくは、単純にサプライズを求めてる人なんだ。
だから、この手の「あー、はいはい」てな小説は、全然面白いと思わない。

この阿部和重って人は「シンセミア」って小説が一番のお勧めらしいけど、
ハードカバーで上下巻なんで、図書館に行かないと読めないけど、
期待はエベレスト頂上の酸素なみに薄い。
何を期待すればいいんでしょうか?(途方に暮れる