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知的財産研究室

弁護士高橋淳のブロクです。最高裁HPに掲載される最新判例等の知財に関する話題を取り上げます。

機能性著作物に関する一考察(1)

2011-03-15 19:48:16 | 著作権

機能性著作物に関する一考察

 

第1 はじめに

近時、類似商品の製造販売等に関する相談を受ける機会が多数あった。相談の内容は大きく二つに分けることができる。第1のパターンは、「ライバル会社が自社のヒット製品の類似品を安価で製造販売しているので、これを抑えたい」というものであり、第2のパターンは、「ライバル会社から、「貴社製品は自社製品の類似品であるから、その製造販売の差止めを求める」という警告書が来たが、どう対応すべきか」というものである。

類似商品の製造販売に対する法規制としては、特許法、実用新案法、意匠法及び不正競争防止法があるが、意外に気づきにくいのは、著作権法による規制が及ぶ可能性があることである。

著作権法の規制が及ぶパターンも大きく二つに分けることができる。第1のパターンは、製品に付随する取扱説明書、パッケージ及び宣伝広告資料などが類似する場合である。製品が類似するのであれば、それに付随する取扱説明書等も多くの場合類似するであろうことは容易に想像できる。第2のパターンは、製品自体ないしその一部に著作物性が肯定できる場合である。

ここで、製品としていわゆる実用品を想定する限り、第2のパターンの場合には、以下のような問題点があると思われる。

①      実用品のような一定の機能を有する作品(以下「機能作品」という)に著作物が肯定できるか、肯定できるとしてその要件は何か。

②      著作物性が肯定される機能作品(以下「機能性著作物」という)における著作権(複製権・翻案権)侵害の判断基準・判断手法等(主張立証責任の振り分けを含む)はどうあるべきか。

③      機能性著作物について、著作権法による規制と不正競争防止法2条1項3号(形態模倣の禁止)による規制はどのような関係に立つか

④      これらの規制と民法の一般不法行為規定による規制はどのような関係に立つか。

 

本稿では、以上の問題点を含む事案について原告の請求をいずれも棄却した判例である東京地方裁判所平成15年1月28日判決(以下「Pim-face事件判決」という)を題材として、主として、上記①及び②の問題点について若干の考察を行うこととする。

 

第2 Pim-face事件判決の概要

1 事案の概要

(1)当事者

原告:株式会社アイフェイス

被告:有限会社ビットギャング(以下「被告ビットギャング」という)及び株式会社メディアプロジェクトニジュウイチ

(2)原告製品の販売

原告は、平成12年12月から、「Pim-face ver2.0」の名称を有するスケジュール管理ソフト(以下「原告製品」という)を販売していた。

(3)原告製品の特徴

原告製品は、「PIM(Personal Information  Management)」と呼ばれるスケジュール管理ソフト(以下「PIMソフト」という。)の一種であるが、ユーザーの選択により「フェイス」というプログラムの背景画像を変更することができることなどが特徴である。

(4)被告ビットギャングの行為

 被告ビットギャングは、判決文の別紙物件目録1ないし2記載のソフトウェア(以下「被告製品1」及び「被告製品2」という)及び同ソフトウェアを収納した記録媒体(以下併せて「被告製品」という)を制作し、販売している。

(5)問題点

Pim-face事件判決の争点のうち、本稿の目的との関係で主として問題となる点は、以下の2つである。

①      著作権侵害の成否

②      被告製品は原告製品の形態を模倣したものであるかどうか

 

2 判旨

Pim-face事件判決は、上記の問題点について以下のとおり判示した。

(1)著作権侵害の成否

同判決は、まず、前提として以下のように述べる。

著作物の複製又は翻案が認められるためには、原告製品の表現上の創作性を有する部分が被告製品と実質的に同一であるか又は被告製品から原告製品の表現上の創作性を有する部分の表現上の本質的な特徴を直接感得することができなければならないと解される。弁論の全趣旨によると、原告製品は、PIMソフトといわれるものの一種であり、その基本的な機能は、個人のスケジュール管理、アドレス帳及び日記の3つに集約されるものと認められる。しかし、個人のスケジュール管理、アドレス帳、日記といったものについては、それぞれその機能に由来する必然的な制約が存在するものであるし、また、コンピュータの利用が行われるようになる前から、紙製の手帳、アドレス帳、日記帳といったものが存在していたのであるから、このような紙製の手帳等に用いられている書式や構成は、原告製品よりはるか前から既に知られていたものである。さらに、証拠(乙1)と弁論の全趣旨によると、他に多くのPIMソフトが存在するものと認められるから、これらのPIMソフトにおいて知られているありふれた書式や構成というものが存在すると考えられる。そうすると、原告製品の表示画面については、各表示画面における書式の項目の選択やその並べ方、各表示画面の選択・配列などの点において、作成者の知的活動が介在し、作成者の個性が創作的に表現される余地があるが、作成者の思想・感情を創作的に表現する範囲は、上記の理由により限定されているものというべきであるから、被告製品が原告製品の複製又は翻案であるかどうかを判断するに当たっては、以上のような点を十分考慮する必要があるものというべきである。

 

次に、同判決は、原告製品と被告製品との対比を行うに際し、以下のとおり述べる。

証拠(甲7、10、14ないし18、甲19の1ないし3、検甲1、検乙3)と弁論の全趣旨に基づき、原告製品と被告製品1について、個々の表示画面及び画面の選択・配列を対比して、両者の間の共通点を抽出し、これらの共通点が創作性を有するものであって、被告製品1が原告製品の表現上の創作性を有する部分と実質的に同一であるか又は被告製品から原告製品の表現上の創作性を有する部分の表現上の本質的な特徴を直接感得することができるかどうか、すなわち、複製又は翻案であるかどうかを、以下、検討する。

 

続いて、同判決は、週表示画面、アドレス帳画面、及び製品全体につき、原告製品と被告製品とを詳細に対比した上で、被告製品の表示画面は、原告製品の週表示画面を複製又は翻案したものということはできないと判断している。

 

(2)形態模倣の有無

同判決は、形態模倣の判断基準について、以下のように述べる。

不正競争防止法2条1項3号にいう不正競争行為に当たるためには、被告製品と原告製品の形態が同一又は実質的に同一であることを要する。そして、形態が同一又は実質的に同一であるかどうかを判断するに当たっては、当該商品と同種の商品が通常有する形態を除外した上、製品全体を比較して判断すべきであるということができる。

 

続いて、同判決は、原告製品と被告製品との詳細な対比を行い、被告製品は原告製品の模倣とはいえないとする。


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