3 均等侵害
文言侵害が成立しない場合であっても、判例法理において、均等侵害が肯定される場合があることが認められている。
3-1 判例法理
特許請求の範囲に記載された構成中に他人が製造等をする製品(以下「対象製品」)と異なる部分(以下「相違部分」)が存する場合であっても、
(ア) 相違部分が特許発明の本質的部分ではなく
(イ) 相違部分を対象製品におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏するものであって
(ウ) このように置き換えることに、当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」)が、対象製品の製造等の時点において容易に想到することができたものであり
(エ) 対象製品が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから右出願時に容易に推考できたものではなく
(オ) 対象製品が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないとき
は、右対象製品は、特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するとされる(ボールスプライン判決)。以下、上記(ア)ないし(オ)の要件を「第1要件」などという)
3-3-2 各要件の判断順序
各要件の判断順序は論理的に決まるものではない。第1要件から順番に検討する裁判例がある一方、均等侵害の5要件の中でもっとも客観的に判断可能である第2要件から検討する裁判例もある。この問題は、いずれが正しいというものでなく、事案の特徴に応じて使い分けることになろう[1]。
3-3 各要件の判断手法
3-3-1 第2要件
第2要件は、置換可能性の要件であり、対象製品が特許発明と同一の作用効果を奏するか否かを端的に判断すれば良い。
3-3-2 第1要件
第1要件は、本質的部分の同一性の要件である。その判断手法には争いがあるが、裁判例の主流は、先行技術と対比した上で、特許発明特有の作用効果の基礎づけとなる解決手段(これが「本質的部分」である)を抽出し、被告製品が、その解決原理と同一の原理を採用しているか否かにより判断するというものである。ここでは、「本質的部分」の認定に際し、先行技術と特許発明の対比が決め手になることに留意されたい。
3-3-3 第3要件
第3要件は、置換容易性の要件である。この要件は、基準時が対象製品の製造等の時であることが特徴である。
3-3-4 第4要件
第4要件は、容易推考性の要件である。この要件が抗弁か否かは争いがあるが、公知技術等[2]の抗弁と考えるのが分かりやすいであろう。
3-3-5 第5要件
第5要件は意識的除外等[3]の特段の事情の要件である。ここでは次の点が論点である。すなわち、対象製品等の康成を出願時に特許請求の範囲に容易に含めることができたにもかかわらず含めなかった場合に特段の事情の要件を充足すると考えるか否かである。この点、このようないわば過失の場合にも特段の事情の充足を肯定する見解もあるが、知財高裁は、「特許侵害を主張されている対象製品に係る構成が、特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたというには、特許権者が、出願手続において、当該対象製品に係る構成が特許請求の範囲に含まれないことを自認し、あるいは補正や訂正により当該構成を特許請求の範囲から除外するなど、当該対象製品に係る構成を明確に認識し、これを特許請求の範囲から除外したと外形的に評価し得る行動がとられていることを要すると解すべきであり、特許出願当時の公知技術等に照らし、当該対象製品に係る構成を容易に想到し得たにもかかわらず、そのような構成を特許請求の範囲に含めなかったというだけでは、当該対象製品に係る構成を特許請求の範囲から意識的に除外したということはできないというべきである」[4]と述べて、この場合には、特段の事情はないと判断している。
[1] 例えば、第5要件を充足しないことが明らかな事案においては第5要件から検討することもあり得る。
[2] 「等」は、この抗弁が、対象製品等が公知技術と同一の場合に限らないことを示すためのものである。
[3] 「等」があることに留意。ボールスプライン判例は、「意識的除外」の場合に限定しているものではない。
[4] 平成18年9月25日知財高裁判決
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