1 平成25年3月14日判決言渡
2 本件は、拒絶査定不服審判不成立審決の取消しを求めるものです。
3 本件の争点は容易想到性です。
4
4-1 本判決は、原告の「刊行物1発明の解決課題は,外見上通常の白カビチーズと見分けのつかない白カビチーズを得ることであるところ,補正発明のように食品類をポーションカットによる切断面に露出させると,刊行物1発明の解決課題を解決できなくなるので,甲1には,刊行物1発明をポーションタイプとすることについての阻害要因がある」との主張に対し、「 一度に食べきることができないカマンベールチーズを,一回で食する量にポーションカットし,各ポーションを個包装して市販することが,白カビチーズ製品の技術分野の本件出願時における慣用技術であること自体は原告も争っていない」ことを前提として、「食品類を内包した白カビチーズについての技術であって,一度に食べきれない量の白カビチーズを開示する刊行物1に接した当業者であれば,その白カビチーズについて,利便性を有する上記の慣用技術の適用可能性を検討するものである。すなわち,食品類を内包した白カビチーズ製品という従来にはない技術が刊行物1において完成した後には,当該技術に接した当業者は,この技術の改良を試みるものであり,その際に,上記の慣用技術を用いて,刊行物1の白カビチーズ製品の改良を目指すものということができる。原告の主張は,前記取消事由1で排斥した刊行物1の認定誤りを前提とし,チーズの外観という刊行物1の記載に過度にとらわれる主張であるし,上記の当業者の認識にかんがみれば,当業者の通常の創作力を無視したものであり,これを採用することはできない」と判断しました。
4-2 本判決は、さらに、 原告の「刊行物1発明は,食品類を内包させることにより,チーズを加熱した際に,流動化したチーズや食品が切断面から流出したり漏れたりしないという作用効果を奏するものであるところ,刊行物1発明において熟成途中でポーションカットを行えば,上記作用効果を奏することができないので,たとえ,刊行物2~4にポーションカットに関する技術が開示されていたとしても,当業者は,刊行物1発明において熟成途中でポーションカットを行い,風味物質を露出させることは容易に想到しえない」との主張に対し 「刊行物3(甲3)及び4(甲4)には,発酵途中のカマンベールチーズをポーションカットし,特定の包装材を使用して,包装材をチーズの切断面に密着するようにして個包装し,さらに発酵を継続させた後に加熱殺菌することにより,加熱殺菌時にチーズが切断面から漏れ出さないという技術が開示されていることが認められる」と述べた上で、「刊行物1発明に対して,ポーションカット及び各ポーションの個包装という慣用技術の適用可能性を検討する場合に,刊行物3及び4に示された技術を採用することにより,熟成途中の白カビチーズをポーションカットした場合であっても,加熱殺菌時にチーズが切断面から漏れ出さないようにすることが可能であることを当業者は予測できるというべきである。原告はこの点に関し種々主張するが, 上記説示に照らし,原告の主張は採用することができない」と判断しました。
5 本判決からは、公知文献に記載又は示唆がない場合であっても、「慣用技術の適用可能性を検討すること」が当業者の通常の創作力の範囲内のものであるとの一般論を導くことができます。言い換えれば、一般的に、ある技術に接した当業者は,慣用技術を用いてその技術の改良を試みるものであるといえるのです。本判決は、特許無効を主張する際における主張立証のポイントを示唆するものとして意義があるものといえます。
以上
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