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知的財産研究室

弁護士高橋淳のブロクです。最高裁HPに掲載される最新判例等の知財に関する話題を取り上げます。

酸味マスキング審取

2013-01-12 08:26:21 | 最新知財裁判例

1 平成24年(行ケ)第10057号 審決取消請求事件
2 本件は,特許無効審判請求を認容した審決の取消訴訟です。
3 争点は,進歩性の有無です。

4-1
本判決は、「本件出願時,アスパルテームは,酸味の強い調味料又は食品の酸味を味全体のバランスを崩すことなく緩和すること,ステビア甘味料は, 醸造酢の酸味を緩和し,良好な味質を付与すること,サッカリンはクエン酸の刺激的な酸味をあまり感じさせなくする効果を有すること,サッカリンはレモネードの酸味を抑制すること,チクロはレモネードの酸味を抑制すること,トレハロースは, 梅干し,レモン汁及びアスコルビン酸(ビタミンC)の酸味を減少させること,トレハロースを食酢(醸造酢)に添加した場合には,食酢そのものに添加すると酸味が増強されるが,食酢に醤油や砂糖が添加されていた場合には,酸味がマスキングされること,ネオヘスペリジンジヒドロカルコンはレモネードの酸味を増強することを認めることができる。すなわち,甘味料がアスパルテーム,ステビア,サッカリン及びチクロの場合には,酸味をマスキングする効果を有し,トレハロースの場合は,酸味を呈するものによって,酸味をマスキングするか,増強するかは異なり, ネオヘスペリジンジヒドロカルコンの場合は,酸味を増強するものである。 また,サッカリン,チクロ,アセスルファムK,シュクラロース,ズルチン,ステビア甘味料,グリチルリチン,ソーマチン,モネリン,アスパルテーム,アリテーム,ネオヘスペリジンジヒドロカルコンは高甘味度甘味料に属するものであること,アスパルテーム,ステビア,サッカリン,チクロ及びアセスルファムKが1980年代後半の全世界における主な高甘味度甘味料であったことが認められる。 そうすると,高甘味度甘味料として代表的な物質であったアスパルテーム,ステビア及びサッカリンについては,酸味を呈する食品や調味料でその酸味をマスキングする例が公知であった一方,高甘味度甘味料であるネオヘスペリジンジヒドロカルコンの場合は,酸味を呈する食品で,その酸味を増強する例が公知であったことを認めることができる」と認定した上、相違点に関し、「味は食品にとって非常に重要な要素であり,各種人工甘味料の味に関する特性を調べることは至極当たり前のことであるといえ,前記したように高度甘味料であるアスパルテーム, ステビア,サッカリンが酢酸等の酸味を緩和するということが知られていたのであるから,甲3発明において,ショ糖に代えて,周知の高度甘味料であるスクラロースを採用し,その際に酸味に対してマスキングが起きることを確かめ,スクラロースの濃度を0.012~0.015重量%という範囲に適宜決定することで,本件訂正発明のごとくすることは,当業者が容易になし得たことといえる」と判断しました。

4-2
本判決は、原告の「甘味料といっても極めて多数の種類があり,それぞれに固有の分子構造を有し,その酸に対する作用効果も様々であり,全く予想ができない」との主張に対し、「各種甘味料の中でも高甘味度甘味料として代表的な物質であったアスパルテーム,ステビア及びサッカリンで,酸味を呈する食品や調味料の酸味をマスキングする例が知られていた。そうすると,当業者が,他の高甘味度甘味料についても酸味マスキング作用の可能性を認識し,高甘味度甘味料として当業者において周知であったスクラロースについても,これを酸味を呈する製品に添加することにより,当該製品の酸味がマスクキングできると考えて,その作用効果を確認しようとすることは容易に想到することができたというべきである」と判断し、また、原告の「甘味料が酸味をマスキングする作用機序は解明されておらず,甘味料が酸味をマスキングするか否かは不明である点など」の主張に対し,「代表的な複数の高甘味度甘味料において酸味マスキング作用を有する例が知られていたのであるから,高甘味度甘味料に属するネオヘスペリジンジヒドロカルコンがマスキング作用とは反対の増強作用を有する例が公知であったり,酸味マスクの作用機序が不明であったとしても,高甘味度甘味料が酸味を呈する製品の酸味をマスキングできる可能性を当業者は認識するというべきである」と判断しました。
本判決は、さらに、原告の「本件出願当時,日本ではスクラロースを食品に使用することは認可されておらず,また,わずか6か国においてのみ食品添加物として販売されていたので,当業者であってもスクラロースを容易に入手することはできなかったものであり,また,スクラロースの世界市場におけるシェアはわずか0.047パーセントに過ぎなかったので,当業者が,あえてスクラロースを選択して,酸味マスキング効果を試すことについての動機付けはない」との主張に対し、「そもそもスクラロースなどの高甘味度甘味料は砂糖(ショ糖)の代替甘味料として用いられてきたものであるところ(甲39の別紙2),酸味食物に砂糖を加えると酸味が減少するといったことは経験的によく知られた味の相互作用であるから(甲3の132頁左欄4行~9行,甲12の61頁右欄5行~6行),当業者には,甲3発明の「ショ糖」を高度甘味度甘味料として周知であったスクラロースで代替しようと考える動機付けがあるというべきである。食品添加物として未認可であったことや,甘味料市場におけるシェアが低いことから,多数ある甘味料の中からあえてスクラロースを選択して,酸味マスキング効果を試すことについての動機付けを否定することはできない」と判断しました。

5 本判決は、原告の各種の主張に対して丁寧に反論している点が参考になると思われます。

以上


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