*** june typhoon tokyo ***

フィロソフィーのダンス「ダブル・スタンダード」

 
 次なる高みへの変化と野心もチラつく、メジャー3作目。

 先日、下北沢・mona recordsで行なわれたミアナシメントのライヴ(記事 →「Mia Nascimento / ddm @mona redords」)を観に行った際、開演前にファンと思しき方からフィロソフィーのダンスのシングル「ダブル・スタンダード」を貰った。いわゆる“配布芸”(イヴェントなどでの特典会に参加するため、その特典会参加券がついているCD等を多数購入したファンが、推しの“布教・宣伝・拡散”を兼ねて、他者に無料でCD等を配布すること)に出くわした形だ。個人的にはそのような“積む”(同じ作品を何枚も購入する)行為はせず、一度手にしたCDを売ることも憚られるフィジカル所有癖タイプなので、傍から見て「かなりな出費だろうな」「この手のファンたちが支えているんだな」と単に感じるくらいなのだが、こちらから欲した訳ではないとはいえ、ただ貰ったままでいるのもアレなので(気が引けるので)、配布芸経験記念(笑)にレヴューでもしておこうと思い、記事をエントリーした次第。ただ、貰ったから、記事にしたからといって、絶賛するとは限らないのが拙ブログなので(笑)、そこはご容赦を。

◇◇◇


 “フィロのス”の愛称で知られるフィロソフィーのダンスは、ファンク、ソウル、ディスコのグルーヴに哲学のエッセンス、コミカルで個性的なダンスを組み合わせたアイドル・グループ。“マリチチ”を武器にグラビアでも活躍する奥津マリリ、肉体美アイドルとして注目される腹筋女子の佐藤まりあ、ソウルフルな歌声を持つ144センチのミニマムな日向ハル、自作PC大好きゲーマーアイドルの十束おとはの4名で構成され、“FUNKY BUT CHIC”をコンセプトに、2015年8月に始動。「ダンス・オア・ダンス」までのシングル10枚、『エクセルシオール』までのオリジナル・アルバム3枚を経て、2020年にメジャー・デビューを果たしている。オフィシャルサイトやジャケット・ヴィジュアルを見ると、“Philosophy no Dance”という英語表記となっているのだが、個人的に彼女らの名を初めて知った頃(2016年のシングル「アイム・アフター・タイム」あたり)は“DANCE FOR PHILOSOPHY”と明示していたので、メジャー進出に際して英語表記を変更したのかもしれない。

 さて、本作「ダブル・スタンダード」は、2020年9月の「ドント・ストップ・ザ・ダンス」、2021年4月の「カップラーメン・プログラム」の2枚に続き、この8月にリリースされた3枚目のメジャー・シングル。自身初のアニメ・タイアップ(アニメ『魔法科高校の優等生』エンディング・テーマ)となったタイトル曲「ダブル・スタンダード」をはじめ、「ウェイク・アップ・ダンス」「サマー・イズ・オーバー」、韓国のトラックメイカー/DJによるリミックス「テレフォニズム(Night Tempo Melting Groove Mix)」の4曲が収められている。



 「ダブル・スタンダード」は、最盛期のジャミロクワイやインコグニートを彷彿とさせるアシッド・ジャズを意識したドライヴィンなハウス・トラックを敷いたダンサブルなナンバー。「〈好き〉だとちゃんと伝えて」というフレーズをフックに、恋や愛の明確な答えを欲する満ち足りない愛の葛藤を綴っている。一聴するとドライヴィンなハウスの疾走感がグルーヴを構築するスタイリッシュな作風に思えるが、メロディラインはどことなく歌謡曲~ニューミュージック路線のレトロモダン感(別な言い方をすれば、野暮ったさ)も垣間見える。それは、松原みき「真夜中のドア~stay with me」のイントロをテンポ・アップさせたような冒頭の「All my love for you」のフレーズからも窺える。
  
 フィロソフィーのダンスは4人が代わり替わりヴォーカルを執るスタイルが主のようだが、大別するとソウルフルに“歌える”日向ハルと、キュート&スウィートな3人という彩りに分けられそう。日向がパンチあるヴォーカルなだけに、その歌割の配置によって楽曲の印象もだいぶ異なってくるようだ。上述したコーラス・パートの「〈好き〉だとちゃんと伝えて」のフックも、日向が歌うターンとそれ以外のギャップがなかなか大きい。統一感が取れていないととるか、ヴァリエーションに富んでいるととるかは、聴き手の嗜好にもよるだろう。

 ただ、そこへアシッド・ジャズ、ハウス、歌謡曲といった種の異なるサウンドが目まぐるしく重なってくるゆえ、多少まとまりがないとっ散らかった印象を受けてしまうところはなくもない。ヒャダインこと前山田健一の作詞でも話題となったメジャー・デビュー曲「ドント・ストップ・ザ・ダンス」でもそう感じたのだが、ダン・ハートマン「リライト・マイ・ファイア」のキメ・フレーズを強引に組み込んだりして、キャッチーなポップネスを打ち消してしまう雑然を感じてしまう。作曲は野井洋児。BoA「七色の明日~brand new beat~」やリア・ディゾン「Softly」をはじめ、NEWS、V6のジャニーズ勢、AKB48、NMB48、日向坂46の秋元康プロデュース勢、JUJU、little glee monsterらを手掛けている。



 「ウェイク・アップ・ダンス」は、アニメ・ソングや内田彩や悠木碧といった声優アーティストへの貢献が高いSUPALOVE所属のhisakuniが作曲。それゆえアニソン系に顕著なエレクトロニックなアプローチを施すことが多いようだが、この曲では照りのあるホーン・セクションや土埃のような泥臭さも帯びたロッキンブルースなアレンジも添えながら、ドンドンドドン腹の底から響くビートが這うレヴューショー風のゴージャスなアッパー・ジャズ調に料理している。

 パワフル&ファットな日向のヴォーカルがまさに活きる楽曲ゆえ、より他の3人とのヴォーカルワークとの差を感じてしまいそうだが、セクシーな「聞いて 胸の鼓動」のフレーズよろしく奥津マリリが艶やかなアプローチでオリジナリティを出すほか、派手やかなサウンドも相まって、その差はそれほど気にはならなかった。音源ではフェードアウトで終わっているところが個人的には残念だったが、ホーン・セクションを配したステージではおそらくライヴ映えする楽曲となろう。

 これらに対して、「サマー・イズ・オーバー」は楽曲のインパクトという意味では劣っているかもしれないが、4名のシンクロナイゼーションという点では最も良さを発揮している楽曲といえそう。制作は、札幌出身のシンガー・ソングライターの山崎あおいが詞を、Dream Monster所属でアニメ・ソングを中心に楽曲を提供している佐藤厚仁が曲を担当している。

 「夏のせいなんだ」というフレーズとともに、仄かに切なさを色づけたサマーブリージンなシティポップ作風は、杏里や角松敏生マナーを踏襲したとも言え、甘酸っぱいセンチメンタルが吹き抜けるアーバン・ポップに仕上がっている。上記2曲と異なるのは、王道アイドルな声質の佐藤まりあ、キッチュで電波系チックなタイプの十束おとはのヴォーカルが日向、奥津と遜色なくプロダクションされていて、4名のヴォーカルバランスが良好ということか。たとえば(あまり彼女らの楽曲を知らないのだが)「アイム・アフター・タイム」や2018年の「ヒューリスティック・シティ」あたりにも似たリラックスしたアティテュードが奏功している。



 「テレフォニズム(Night Tempo Melting Groove Mix)」は前作シングル「カップラーメン・プログラム」のカップリング「テレフォニズム」をナイト・テンポがリミックスした楽曲。このリミックス自体はフューチャー・ファンク路線のナイト・テンポらしいリミックスという以外にそれほど特筆すべきするところはないが、フックのデジタル・エフェクト風にあつらえたメロウ&スウィートなコーラス・ワークに齟齬がないようにヴォーカルワークをまとめているのは、「サマー・イズ・オーバー」と同じく好感が持てる。

 ナイト・テンポに依頼した「テレフォニズム(Night Tempo Melting Groove Mix)」をはじめ、その原曲「テレフォニズム」が入っている前作シングル「カップラーメン・プログラム」には、自身初のカヴァーとなる杏里「CAT'S EYE」が収録されていたり、前述した「真夜中のドア」のイントロをおそらく意識した導入から始まる本作タイトル曲「ダブル・スタンダード」やシティポップ全開な「サマー・イズ・オーバー」と、2021年のフィロソフィーのダンスはシティポップ・ブームの潮流に乗ってみるということなのか。そういったモードを採り入れることは構わないと思うが、それを過度に追うあまり、当初から掲げている“ファンク、ソウル、ディスコのグルーヴ”や“FUNKY BUT CHIC”というエッセンスが希薄となってしまうなら、個人的には味気なく退屈に思えてしまう。

 どうやらメジャー・デビュー後は制作陣も変わっているようで、どこか全体的に感じたどっしりと(楽曲的に)落ち着かないという点も含めて、彼女らがメジャーへの扉を開け、楽曲性においても次なるステップアップを模索している過渡期ということなのかもしれない。それゆえ面白そうと感じたものの多くを楽曲に凝縮させ、グループに吸収させようとした結果、やや煩雑性を帯びている仕上がりになったとするなら、それなりの合点もいく。その良し悪しは別として。

 過去を回帰するばかりなのもどうかと思うが、ミュージック・ヴィデオともどもオマージュありきとも解釈されそうなベタなディスコ/ファンク楽曲群「ダンス・ファウンダー」や「イッツ・マイ・ターン」など、思い切りの良さがグループや楽曲の勢いをつけていたのとは対照的に、今は変革の時と捉えているのかもしれない。多角的なベクトルを伸ばすことで音楽的振幅を拡げ、さまざまなジャンルへチャレンジするといった野心に溢れることはやぶさかではないが、根幹をないがしろにして迷走するリスクだけは避けたいところだ。個人的にあまり楽曲や活動経緯を知らないフィロソフィーのダンスの音楽性について、近い将来にいかなる変化や進化を遂げているかを想像することは難しいが、のちに振り返った際に、本シングル「ダブル・スタンダード」はグループのターニングポイントとなった作品の一つに挙げられるのかもしれない。


◇◇◇

■フィロソフィーのダンス「ダブル・スタンダード」
Philosophy no Dance / Double Standard(2021/08/18)
gr8!records
SRCL-11860(通常盤)/ SRCL-11858~11859(初回生産限定盤)/ SRCL-11861~11862(期間生産限定盤)

01 ダブル・スタンダード
02 ウェイク・アップ・ダンス
03 サマー・イズ・オーバー
04 テレフォニズム(Night Tempo Melting Groove Mix)
※CD:全形態共通





◇◇◇










ランキングに参加中。クリックして応援お願いします!

名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「CDレヴュー」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事