*** june typhoon tokyo ***

MF ROBOTS『Break The Wall』


 ソウル&ファンクのリヴァイヴァルではない、2020年代のブリット・ファンクを提示。

 2013年の秋、ザ・ブラン・ニュー・ヘヴィーズに新たなヴォーカリストとして加わったのがドーン・ジョセフ(Dawn Joseph)。翌2014年にジョセフをメイン・ヴォーカルに据えたアルバム『スウィート・フリークス』をリリースするも、その後、ザ・ブラン・ニュー・ヘヴィーズのオリジネイターとしてドラムを担当していたヤン・キンケイド(Jan Kincaid)とジョセフが脱退。ザ・ブラン・ニュー・ヘヴィーズの創設者たるキンケイドはサイモン・バーソロミュー、アンドリュー・レヴィと袂を分かつことになった訳だが、同じくジョセフも引き連れての脱退は、よほど音楽性において意気投合したのだろう。新たなプロジェクトとして始動したのが、MFロボッツだ。2018年にセルフ・タイトル作ともいえる1stアルバム『ミュージック・フォー・ロボッツ』を発表。現在の音楽シーンがいかに一般的(=ロボットみたい)になっているかというアイロニーを忍ばせたバンド名からも、アシッド・ジャズ・シーンを牽引し続けながらも新たな音楽へアンテナを伸ばしてきたキンケイドらしさが窺えるが、その『ミュージック・フォー・ロボッツ』に続く2ndアルバムが、この『ブレイク・ザ・ウォール』となる。

 ドーン・ジョセフは、(あまり馴染まない言い回しで終わってしまったが)一時期瞬間最大風速的に“メアリー・J.ブライジやアリシア・キーズに対するUKからの回答”とメディアで評されたこともあるシンガー・ソングライター。客演はあってもソロとして大成した訳ではなかったが、ザ・ブラン・ニュー・ヘヴィーズへヴォーカリストとして加入してからは、そのパッションとロマンティシズムに溢れたヴォーカルワークで強い印象を与え、MFロボッツのメインヴォーカルとなってからも、その豊かな描出が発揮されている。



 冒頭に据えられたのは、「インタールード(サムホェア・イン・サウス・ロンドン)」と名付けられたチッチッというハイハットにフリーキーな鍵盤が絡むインストゥルメンタル曲。インストから幕を開けるというのは、ザ・ブラン・ニュー・ヘヴィーズでも多くのインストゥルメンタルを演奏してきたキンケイドらしくもあり、そのリズムのまま次の「チェンジ」へと雪崩れ込んでいく。
 洒脱なファンクネスを湛えた「クレイジー・ライフ」を経て、「ゴールド」ではザ・ブラン・ニュー・ヘヴィーズ時代にも見せたキンケイドのメインヴォーカル・パートも。Fantastic Plastic Machine(FPM)がインコグニートを客演に迎えた「リーチング・フォー・ザ・スターズ」あたりを想起させるメロディラインと、ジョセフが醸し出すスタイリッシュなムードが美しい。

 エナジー滾るファンク・グルーヴ「メイク・ミー・ハッピー」は、本作の核となる曲のひとつか。デヴィッド・ボウイやレニー・クラヴィッツなどのバックを務めるゲイル・アン・ドーシーがベースで、米・ロサンゼルスを拠点とするミニマル・ファンク・バンドのヴォルフペック(Vulfpeck)への参加でも知られるコリー・ウォング(Cory Wong)がギターで参加しているのも注目だ。ゲイル・アン・ドーシーは「ザ・ラヴ・イット・テイクス」に、コリー・ウォングは「シャイン」にもそれぞれ参加している。「ザ・ラヴ・イット・テイクス」は華やかで彩り鮮やかなパッションが弾けるファンキー・ダンサーで、ジョセフのヴォーカルも水を得た魚のごとく快活に踊るよう。「シャイン」はファンキーなグルーヴとフックでのファッショナブルなメロディラインのマッチングの妙が楽しめる。次々とヴィヴィッドな色が飛び込んでくるような展開が高揚を呼び起こしてくれる。「グッド・ピープル」では、MFロボッツらしいファンクネスとポップ・センスが合わさったキャッチーなナンバー。腰を揺らせるポジティヴなグルーヴを帯びながらも洒落っ気のあるリズムが耳を惹くところは、何ともフォトジェニックだ。


 なお、主たる楽器隊には、ギターにマーク・ビーニー(Mark Beaney)、ベースにナズ・アダムソン(Naz Adamson)、キーボードにアレックス・モンタキュー(Alex MontaQue)という面々がラインナップ。アレックス・モンタキューは、リアーナやリマール(カジャグーグー)、スモーキー・ロビンソン、アダム・ランバートらとの共演経験があり、英ラッパーのハスキーのプロデュースでも知られている人物のよう。そのほか、ホーン・セクションとしてサックスにベン・トリーチャー(Ben Treacher)、ニック・カーター(Nik Carter)、トランペット&トロンボーンにジャック・バーチウッド(Jack Birchwood)が本作を盛り立てている。

 終盤は、MFロボッツ流2020年代“バースデイソング”となる「バースデイズ」やアッパー・ジャム的な要素もチラつく「ハッピー・ソング」といったファンキーなハッピー・ヴァイブスを2曲揃えたのち、夕暮れの海辺を眺めながら車を走らせるような美しい光景も浮かぶ甘美なメロウ・グルーヴァー「メイク・ザ・コール」でエンディング。ここでもジョセフの情趣深い、スウィートでノスタルジックなヴォーカルが冴えわたっている。

 全体的にはザ・ブラン・ニュー・ヘヴィーズやインコグニートといったアシッド・ジャズ・サウンドを基調にしたブリット・ファンク・サウンドが横溢しているから、ザ・ブラン・ニュー・ヘヴィーズを長く聴いてきたファンにも充分応えられるはず。もちろん、キンケイドは長年ザ・ブラン・ニュー・ヘヴィーズの楽曲を作ってきた人だから、良くも悪くもヘヴィーズと遜色ない作風に溢れているという評価も出来るだろう。とはいえ、MFロボッツではキンケイドがジョセフとともにトータルでプロデュースをしていることもあり、ヘヴィーズの持ち味でもあるヤンチャ感はそれほど感じず、作品を通しての統一感、一体感が高まっている印象だ。それゆえサウンドに大きな振幅はないものの、ジョセフの鮮やかな色彩溢れる情感豊かなヴォーカルが、楽曲の表情を巧みに変化させるのに一役買っている。アシッド・ジャズやジャズ・ファンク・マナーで統一されていはいるが、決してリヴァイヴァルという懐古主義に陥らず、アップデートしたブリット・ファンクを体現している痛快な好盤といえそうだ。



◇◇◇
MF ROBOTS / Break The Wall (2021)

BBECDJ-646 BBE / OCTAVE

01 INTERLUDE(SOMEWHERE IN SOUTH LONDON)
02 CHANGE
03 CRAZY LIFE
04 GOLD
05 GOOD PEOPLE
06 MAKE ME HAPPY
07 SHINE
08 BRAND NEW DAY
09 THE LOVE IT TAKES
10 MOTHER FUNKIN' ROBOTS
11 YOU
12 BIRTHDAYS
13 HAPPY SONG
14 MAKE THE CALL

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