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*** june typhoon tokyo ***

一十三十一 @Billboard Live TOKYO


 一十三十一色のアーバナイズに染め上げた、ロマン煌めく20thファンタジー。

 アーバン・ポップスを歌い紡ぐ“シティポ・クイーン”、一十三十一恒例のビルボードライブ公演が、今年も無事に開催。2022年にデビュー20周年を迎えるということで、タイトルに〈〜20th Fantasy Anniversary〜〉を冠してミッドウィークの夜を魅了した。昨年の春は浜辺美波と岡田将生のW主演のドラマ『タリオ 復讐代行の2人』のサウンドトラック『Talio』を手掛けた“流線形/一十三十一”名義のステージだったため、純粋に一十三十一としては、2020年11月の公演以来となる。バンドメンバーは、バンドマスターの奥田健介をはじめ、南條レオ、小松シゲル、冨田謙、ヤマカミヒトミというお馴染みの顔ぶれ。

 20周年記念ということもあり、普段とは異なるスペシャリティな構成を着想してか、近年は本編ラストやアンコールにて披露することの多いキラー・チューン「恋は思いのまま」で幕開け。先にステージインしたバンドメンバーによる演奏に促されて一十三十一が登場すると、思わせぶりな表情で「こ・い・お・も」と告げてからのスタートで、ライヴタイトルよろしく“ファンタジー”な世界へ一気に包み込んでいった。

 2部制のビルボードライブ公演ゆえ、長時間に及んで多くの作品を数珠つなぎのように披露することは叶わないが、20周年を大まかに網羅するように新旧偏らずに楽曲をセレクト。上述の最新作『Talio』の「悲しいくらいダイヤモンド」「蜃・気・楼」からデビュー曲「煙色の恋人達」まで、一十三十一の変遷を洒脱でラグジュアリーなムードで創り上げていった。



 「悲しいくらいダイヤモンド」というタイトルについて、“YT”ことキーボードの冨田謙から「〈悲しいくらいダイヤモンド〉ってどういう意味?」という“愚問”をされた時のこと。当初「松任谷由実の〈悲しいほどお天気〉と〈ダイアモンドダストが消えぬまに〉のオマージュ」と適当に回答していたものの、改めて考えてみたらそうではないらしい。タイトルについては、実はフィーリングで決めることが多く、あまり深い意味がなかったりするそうなのだが(それをメディアなどが勝手に何のオマージュだのと解釈しているのを見るにつけ、違うのになあ~と思っていたのだとか)、この「悲しいくらいダイヤモンド」については、(英語教師時代の)夏目漱石が教え子に〈I love you〉を「〈月が綺麗ですね〉くらいに訳せ」といった逸話のロジックで言えば、「〈I miss you〉って意味になりますかね」というエピソードにも、一十三十一ならではのロマンティシズムが垣間見られたような気がした。

 本編での大きなトピックは、マイダス・ハッチあたりのファンキー・ポップスにも比肩する「Let It Out」に続いて披露された、2002年3月リリースのデビュー・シングル「煙色の恋人達」だろう。90年代末から兆候がみられた“ジャパニーズR&Bディーヴァブーム”が終わりを告げようとしていた時期に、歌謡曲要素も多かった和製R&Bから抜け出そうとする作品も目立ち始め、たとえば、MONDO GROSSOがbirdをフィーチャーした「LIFE」のように、オリエンタルなパーカッションを駆使したハウスやジャズ要素を組み込んだ形や、ヒップホップ寄りのビートを重視したものへ移行していく過渡期に登場。R&Bとハウスはクラブ・ミュージックとしての相性の良さもあり、この「煙色の恋人達」もJazztronikこと野崎良太のアレンジによる軽快なダンス・トラックと(ポリープ発症後の今とは異なる)ほんのりスモーキーな声質が魅力的だったが、当時の時流としてはやや遅きに失した感もあり、思うようなセールスが得られず……というような印象を持っていた。



 その後、自らのルーツへより特化したようなアーバン・ポップス、シティポップ路線へ移行して、そのシーンの現行勢力の代表格として存在感を発揮するようになるのだから、なかなか感慨深いものもあるのだろう。高校生の時に作った、本来は「不倫 de bossa」という“魅惑的な”タイトルがついていたという「煙色の恋人達」は、大人になった20thアニヴァーサリー・ヴァージョンで披露。オリジナルとは異なる、ジャジィでアダルトなムードを湛えた浸透力の高い作風で、時の移り変わりと歌手としての成長を見せてくれた(それに併せてMCで、10代の頃作った曲は変なものが多かったと回顧しながら、“心はエンゼルパイ~”と歌う「エンゼルパイ」や“仙人じゃない人間でした~”と歌う「仙人じゃなかった」という曲のワンフレーズを披露するサーヴィスも)。

 背後のカーテンが開き、ミッドタウンの夜空をバックにしながら、現在の一十三十一をイメージづける端緒となったいえるメロウ・グルーヴァー「DIVE」で本編のラストへ。媚薬系と呼ばれるヴォーカルには多少疲れも窺えたものの、ソフィスティケートな都会の夜を演出してくれた。



 アンコールは、本公演が実際に水曜ということもあってか、バンドマスターの奥田健介がZEUS名義で一十三十一をフィーチャーした楽曲「それは、ウェンズデー」からスタート。曲紹介にて「それはド平日。それは水曜日。それはそれは、それはそれは~」と繰り返し奥田に煽る一十三十一が、非常に楽しげだったのが印象的だった。
 本公演を締めたのは、一十三十一クラシックスといってもいい「粉雪のシュプール」「ウェザーリポート」という2006年リリースのシングル2曲。長きにわたって共演している盟友たちのバンドメンバーたちだからこそのアンサンブルで、どこか切なさやノスタルジーを感じさせるスウィート・メロウな世界観をしっかりと演出。一十三十一のヴォーカルワーク、バンドのアンサンブル、アーバンなビルボードライブというロケーションがシンクロし、甘美で魅惑的な空間を創出し、共鳴させていった。

 演奏終了後に万雷の拍手を受けるなか、「30周年も、40周年も……80周年もお待ちしてます」と茶目っ気たっぷりに語ってステージアウト。さまざまに難しい状況が続き、本来のあるべき姿でのライヴではなかったが、それでも自身の音楽に触れる空間を生み出せたことには、充実と喜びを感じていたのだろう。歌唱中にみせる、フラミンゴのように片足を跳ね上げて歌う“クセ”がいつもより多かったように思えたのは、そんな歌う喜びの現れだったのかもしれない。 



◇◇◇

<SET LIST>
01 恋は思いのまま (*CD)
02 Flash of Light (*EC)
03 悲しいくらいダイヤモンド (*Ta)
04 蜃・気・楼 (*Ta)
05 プラチナ (*SS)
06 METAMORPHOSE (*Su)
07 Let It Out (*EC)
08 煙色の恋人達 (*36)
09 DIVE (*CD)
≪ENCORE≫
10 それは、ウェンズデー(Original by ZEUS a.k.a.Kensuke Okuda with 一十三十一)
11 粉雪のシュプール (*TC)
12 ウェザーリポート (*TC)

(*36):song from album『360°』
(*SS):song from album『Synchronized Singing』
(*TC):song from album『TOICOLLE』
(*CD):song from album『CITY DIVE』
(*Su):song from album『Surfbank Social Club』
(*EC):song from album『ECSTASY』
(*Ta):song from album『Talio』

<MEMBER>
一十三十一(vo)

奥田健介(g / Band Master / from NONA REEVES)
南條レオ(b,syn)
小松シゲル(ds/ from NONA REEVES)
冨田謙(key)
ヤマカミヒトミ(sax,fl)


◇◇◇

【一十三十一のライヴ観賞記事】
・2014/03/24 一十三十一@Billboard Live TOKYO
・2014/08/31 一十三十一@Billboard Live TOKYO
・2015/10/26 一十三十一@Billboard Live TOKYO
・2016/09/18 一十三十一@billboard Live TOKYO
・2017/08/31 一十三十一@billboard Live TOKYO
・2018/03/02 一十三十一@billboard Live TOKYO
・2019/07/12 一十三十一 @EBiS 303
・2020/02/21 一十三十一 @Billboard Live TOKYO
・2020/11/08 一十三十一 @Billboard Live TOKYO
・2021/04/16 流線形/一十三十一 @Billboard Live TOKYO
・2022/03/02 一十三十一 @Billboard Live TOKYO(本記事)


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