PK逸し、終盤崩れて、ルヴァンカップ敗退。
プレーオフラウンド進出をかけた一発勝負の一戦は、終盤に途中起用の平岡のゴールで湘南が勝利。4月6日のリーグ第9節以来、湘南がホームで勝ち鬨をあげた。一方、FC東京は序盤は優勢に試合を進め、前半22分に右サイドからの長友のクロスが鈴木章斗のハンドを誘ってPKを獲得。先制のチャンスにマルセロ・ヒアンが放ったPKは、ゴール真ん中低めに。足を残した湘南・GK上福元がブロックし、そのこぼれ球にマルセロ・ヒアンが詰めるも、体勢を崩しながら放ったシュートは枠を捉えられず。ビッグチャンスを逃したツケが終盤の被弾を生んでしまう形となった。
前半は、FC東京が優勢に試合を進めた。右サイドの長友のクロスから野澤零温が頭で合わせた場面など、いくつか好機も作る。ただ、前述のPKのシーンを含め、好機をものに出来ないでいると、次第に湘南にも攻撃の形が生まれ始める。
後半、58分に自陣右サイドからのフィードに反応した池田がライン際から鈴木章斗にパスを送る。鈴木章斗の持ち運びが大きくなったところを森重がスライディングしながらクリアしようとするも、そのボールが高に当たってペナルティエリア内の鈴木雄斗の前にこぼれてしまう。すかさず鈴木雄斗がマイナスのラストパスを送り、鈴木章斗が右脚を振るも、これをGK野澤大志ブランドンがブロック。その跳ね返りをペナルティエリア内で収めたルイス・フェリッピが後ろへ流したところへ茨田が駆け込んでシュートを放つも、またしてもGK野澤大志ブランドンがキャッチで防いで、FC東京は難を逃れる。
湘南の攻勢は続き、64分には自陣の岡からのパスを受けた安斎が鈴木雄斗に競られてボールがこぼれると、それを収めた池田がペナルティエリア内へ進出。ゴール前の鈴木章斗を経由して走り込んできた鈴木雄斗がふわりと浮かせたシュートを放つが、これが枠の左へ外れ、湘南もビッグチャンスを逃してしまう。
先制点を挙げて、PK失敗の痛手を引きずりたくないFC東京は、安斎や俵積田がシュートを放つなど湘南陣内へ押し込むと、71分に右サイドからの安斎のFKをファーサイドの木本がヘディング狙うも、GK上福元がセーヴ。そのこぼれ球を森重がシュートするも、湘南が必死にブロック。さらに東慶悟が詰めるも、ゴールマウスの前で湘南の選手が立ちはだかり、どうしてもネットを揺らせない。
すると、82分に湘南は自陣右サイドの池田がDFの裏のスペースへ浮き球ボールを送ると、これを藤井が収めて右サイド奥へ進出。ゴールライン手前で安斎がスライディングでカットしにいくが、ゴールライン上にボールが残ると、すばやく藤井がペナルティエリア中央へマイナスのパスを送り、これを平岡が左脚で蹴り込んで、湘南が貴重な先制点を奪う。平岡は嬉しい今季初ゴールとなった。
後がないFC東京は、ボールを繋ぎながら途中交代で起用された俵積田や遠藤、佐藤恵允などがゴール前へボールを持ち運ぶも、ことごとく湘南のディフェンスに跳ね返されてしまう。アディショナルタイムに入ると、湘南が前線へ放り込んだボールをFC東京・木村が頭で競り落とすが、そのこぼれ球を平岡が拾って、福田とのワンツーパスからペナルティエリアへ進出。平岡は強烈な右脚シュートを放つが、GK野澤大志ブランドンが弾いて、追加点は許さなかった。
だが、流れを押し戻すことは出来ず、FC東京は得点を奪えぬままタイムアップの笛を聞くことに。この瞬間、今季のルヴァンカップの戦いに終止符が打たれることになった。
決定機にゴールを決められないでいると、相手からの一撃で負けてしまうという展開は良くあるものだが、単に決定力の欠如がそのまま結果に結びついたという訳ではないと思える。正直なところ、この勝利が湘南にとって1ヵ月半ぶりのホームでの勝利だったように、決して湘南も好調とは言い難い内容だっただけに、それでも脆さを見せてしまうのが、大きな課題だ。試合終了直後のデータでは、支配率をはじめ、シュート数も湘南の10本に対して19本、パス成功が湘南の240に対して461と上回っていたが、印象としては、自らペースを崩してしまい、流れを受け渡してしまった感が強い。ビルドアップや後方から縦に速く持ち運ぶ場面でも、やはりアタッキングサードあたりで停滞してしまう。
野澤零温はテンポはいいのだが、中盤まで降りてきて縦につけたボールもすぐに後ろへはたいてしまうことが多く、結果的に前への推進力を欠くことに繋がってしまう場面が散見していた。脱け出してシュートを打てるチャンスもパスを選択してしまい、そのパスも精度を欠いて相手に防がれてしまうなど、もっと前へ、ゴールへ向かう姿勢を見せないと、起用される機会にも影響が出かねない。
それ以上に考えなければいけないのは、球離れの遅さ。特に最終ラインから前方へパスなりロングボールを蹴り出そうという時、相手を呼び込んでかわして、剥がした状態でパスなりを送りたいという意図は分かるのだが、タイミングが遅くて、プレスに引っ掛かること多数。この試合では特に岡が顕著で、引き込んでかわしてから持ち運ぼうとするも、その持ち出したボールが自身から遠く離れてしまったところを相手の2列目に詰められて、ゴール前でピンチを招くという事態に。奪われなかったとしても詰められての焦りからパスの精度を欠いて、ミスパスが生じ、相手にとって高い位置からショートカウンターを繰り出せる好機を与えてしまっていた。
これはGK野澤大志ブランドンも同じで、リーグ戦でも足元のミスからピンチを招いていたことが、リーグ戦での波多野への先発交代の一因にもなったかと思うが、この試合でもあわや失点に繋がるというミスをしてしまった。これも相手を引き込み過ぎて自らパスコースの幅を狭めてしまった結果、焦りからミスへ。たしかに、前線がスペースを見つけて動かず、パスの出し先が見つからないということもあるが、それならば、そういった時にはセーフティファーストで何をしておくかという“決めごと”をしておく必要はあるはずだ。そのあたりが徹底されていないゆえ、フィールドプレイヤーは常に後ろを意識した動きを強いられるようになってしまい、次第に後手になる状況を作り出してしまっている。
もちろん、ポジティヴな面がなかった訳ではなくて、PKを獲得するに至ったシーンでは、右サイドから仲川、木本、東慶悟らが狭いエリアでリズム良くワンタッチでパス交換することで湘南の守備を崩し、結果クロスを防ごうと戻ってスライディングした鈴木章斗のハンドを誘発した。また、高や東慶悟などは縦パスを積極的に狙って、受け手のトラップが大きく次に繋がらなかった場面もあったにせよ、ボールを素早く動かして推進力を高め、スペースへ展開する機会を創出していた。とはいえ、狭いスペースでこまごまとパス交換することが多く、そのため相手も自陣へ戻る時間を作ってしまい、囲い込まれてボールロストするという、もどかしい時間が少なくなかったのも事実だ。
チャレンジしようとしている意図は汲むが、本音を言えば、低調だった湘南ゆえそれなりに成功例もあったという印象は拭えない。相手に合わせてしまった訳ではないだろうが、とどのつまり、それなりに成功したこともあり、失点のピンチも相手の精度によって逃れられた部分も少なくなかったという、中途半端な試合になってしまったように感じた。終盤の森重の交代は、怪我明けと体力的な面から致し方ない部分もあるが、このところCBを交代させた結果、失点を喰らっているという状況が続いており、選手起用とそのメッセージがしっかりと全体的に浸透していないことも痛感、再認識させられた一戦となってしまった。
また、怪我の公式なアナウンスがないことが多いので推測するしかないが、怪我で戦列を離れている選手以外でこの試合に絡めなかった選手は、残念ながら今季は戦力としてあまり期待出来ないということだろう。マルセロ・ヒアンがゴールを決め始める良い傾向は出てきたものの、そのマルセロ・ヒアンが止められてしまうと、現状では打開策がかなり限られてしまっているのも痛いところだ。
カップ戦はこれで天皇杯のみとなった。その天皇杯も2016年に準々決勝で川崎に敗れてからは、2017年は長野、2018年は山形、2019年は甲府、2021年は順天堂大学、2022年は長崎、2023年は熊本、そして昨年は千葉と、すべて下位カテゴリに阻まれており、チームの現状を考えると、あまり期待は出来そうにない。ポジティヴに捉えれば、これでリーグ戦に集中出来るという言い方もあろう。特に今季は降格圏に沈む時期もあり、いまもその危機からは逃れられていない。試合ごとに少しずつ良いパフォーマンスが生まれる場面も出てきてはいるが、安定してそのパフォーマンスが出来るまでにはまだ時間がかかりそうだ。とはいえ、降格圏に飲み込まれないために、早めに勝ち点を積み上げねばならない。技術や戦術を劇的に良化させることは難しいが、まずは走り負けない、競り負けない、常に動き回るという能動的なパフォーマンスは可能なはずだ。
中3日で迎える広島は非常に手強く、現時点では実力的にも苦戦を強いられるだろう。それでも、国立という相性の良いスタジアムの力も借りて、勝ち点を積み上げることが重要だ。そのためには、少なくとも動き負けないこと。常にゴールを奪おうと前へ向き、競り負けず、最後はピッチにへたり込むくらいに力を振り絞って得た勝ち点には、きっと混迷から脱け出すためのチームとしての良化と躍進へのヒントが隠されているはずだ。強敵・広島とはいえ臆することなく、挑み続けてもらいたい。
◇◇◇
JリーグYBCルヴァンカップ 1stラウンド 第3回戦
2025年5月21日(水)19:03KO
レモンガススタジアム平塚
入場者数:6,490人
天候:曇 / 気温:24.6℃ / 湿度:67%
主審:福島孝一郎
副審:淺田武士、亀川哲弘
第4の審判員:御厨貴文
湘 南 1(0-0 / 1-0)0 FC東京
【得点】
(湘):平岡大陽(82分)
(東):
〈試合経過〉
40分 警告 湘南 ルイス・フェリッピ
50分 警告 東京 岡 哲平
54分 警告 東京 高 宇洋
63分 交代 東京 野澤零温 → 俵積田晃太 / マルセロ・ヒアン → 佐藤恵允
69分 交代 湘南 奥野耕平 → 平岡大陽 / ルイス・フェリッピ → 福田翔生
72分 交代 東京 東 慶悟 → 小泉 慶 / 仲川輝人 → 遠藤渓太
75分 交代 湘南 茨田陽生 → 藤井智也 / 髙橋直也 → 鈴木淳之介
80分 交代 東京 森重真人 → 木村誠二
82分 得点 湘南 平岡大陽
89分 交代 湘南 鈴木章斗 → 奥埜博亮
◇◇◇
【FC東京メンバー】
〈スターティングメンバー〉
GK 41 野澤大志ブランドン
DF 03 森重真人
DF 04 木本恭生
DF 05 長友佑都
DF 30 岡 哲平
MF 07 安斎颯馬
MF 08 高 宇洋
MF 10 東 慶悟
MF 28 野澤零温
FW 19 マルセロ・ヒアン
FW 39 仲川輝人
〈控えメンバー〉
GK 13 波多野豪
DF 32 土肥幹太
DF 47 木村誠二
DF 99 白井康介
MF 22 遠藤渓太
MF 27 常盤亨太
MF 37 小泉 慶
FW 16 佐藤恵允
FW 33 俵積田晃太
〈監督〉
松橋力蔵
◇◇◇
【FC東京 JリーグYBCルヴァンカップ 2025 試合日程】
〈1stラウンド〉
第1回戦 03月20日(木)14:00〇FC東京 1-0 奈 良(A・ロートF)
第2回戦 04月16日(水)19:00〇FC東京 3-1 大 宮(A・NACK)
第3回戦 05月21日(水)19:00✕FC東京 0-1 湘 南(A・レモンS)
※会場の「デンカS」は「レモンS」の誤植
◇◇◇