
同郷ヴァージニアのディアンジェロ(D'Angelo)に強い影響を受けたテレサは、6歳で歌い始め、アル・グリーン(Al Green)やジョージ・クリントン(George Clinton)、プリンス(Prince)、シャーデー(Sade)などを父親のレコードプレーヤーで聴いていたという。その後、クラシック・ジャズやR&B、ゴスペルなどのトレーニングに明け暮れていたが、英語だけでなくスペイン語、フランス語、ラテン語で歌うトレーニングを行なっていた。1997年(テレサ15歳)には、“After Hours”と呼ばれるバンド・パフォーマンスでライヴ・デビューを果たし、2001年前後からは、Johnel Dink Jacksonとともにソングライティングをこなすようになる。
上述のように、オールドスクール・ソウルをこよなく愛するテレサは、その音楽性--ジル・スコット(Jill Scott)、エリカ・バドゥ(Erykah Badu)、マクスウェル(Maxwell)、ディアンジェロ(D'Angelo)、アンジー・ストーン(Angie Stone)、シャーデー(Sade)、そしてプリンス(Prince)といったアーティストを敬愛して止まない彼女だが--が楽曲の至るところに濃縮されている。
“古き良き”という佇まいをみせる「HOW IT USED TO BE (HIP HOP R&B)」は、ディアンジェロのようなオールドスクールのムードを漂わせたサウンドの上をメアリー・J.ブライジのように闊歩するスタイルが絶妙。Dolomicのプロデュースによる
ミッドで、中盤ではマーヴィン・ゲイ「マーシー・マーシー・ミー」のフレーズも飛び出す、サブタイトル通りに、ヒップホップやR&Bへの愛が詰め込まれた彼女にとっての宝石のような曲だ。
冒頭から“Maxwell, Ms Badu…Prince、Angie Stone、D'Angelo…”と自身の愛するアーティストの名前を連呼する「MY MELODY」は、彼女のリスペクトするアーティストをカミング・アウトしていくという究極の“マイ・メロディ”チューン。ジャジーなリズムを基調とするしっとりとしたプロダクツは、Jared Gossellinによるもの。フックがディレイして重なるアレンジもいい。
P Bleezy制作によるミッド・ソウル「OOH WHEE」は、タイトル・フレーズの趣きある美しいコーラス・パートが秀逸。チクチクと性急に刻まれるビートとゆったりと漂うヴォーカルという性質の異なる音が、意外とマッチしている。
高みへと抜けていくようなハイトーンからはじまる「MY SKAT」は、「BLUE SKY」「RUNNIN BACK」「THE STREETS」と同様にDOX ONEによるプロダクツ。“ドゥドゥドゥ…”というスキャットがキュートで、リラックスした雰囲気が垣間見られる自在性の高いナンバー。
E T Lをフィーチャーした、「GOOD DAYS」はスヌープ・ドッグやバスタ・ライムス作品で知られるNottzがプロデュース。細かく飛び跳ねるドラミング・ビートを施したミッド・ソウルで、なめらかな歌唱を披露している。
終盤では、ヒップホップ寄りの楽曲をしっかり聴かせてくれる。
DOX ONEプロデュース、しわがれた声でクールに煽るBorn Uniqueをフィーチャーした「RUNNING BACK」では、マイナー調トラックに乗り、やや陰りのあるヴァースと高みから降りてきたようなピュアなコーラス&ブリッジでの色彩感の違いが巧み。
ボーナス・トラックとして収録された「THE STREETS」では、DOLOMICをフィーチャー。陰と陽の狭間を映し出したかのようなクールなヒップホップ・ソウルで、ホーン・サウンドを効果的に取り込んだアレンジで、ストリートの土着的な感覚を醸し出している。イントロはメアリー・J.ブライジ「No One Will Do」のそれを模したような雰囲気となっている。
ソウル、ヒップホップへの愛情がこれでもかと注がれた楽曲群に身を委ねるように自然体で披露するヴォーカルは、こちらにもスムース&リラックスなムードをもたらせてくれる。敬愛の念が強すぎて、リスペクトするアーティストの名前を詞に入れ込み過ぎなのでは?という向きもあるが、周囲に流されず主張したいことをピュアに伝える姿勢は好感が持てる。
また、多くのアーティストから影響されたソウルネスが楽曲に顕在しているところが素晴らしい。育っていく過程で音楽を吸収するのによい環境にいたのだろうと思わせる、音楽に対する純真さがナチュラルに表現されている。それは、くすみのない青空へ高らかと抜けるようなヴォーカルを聴けば、感じとることが出来るはずだ。
メジャーではなくとも、しっかりと信念を貫いて活動していってもらいたい。そんなアーティストだ。
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