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*** june typhoon tokyo ***

INCOGNITO @恵比寿The Garden Hall

 3年ぶりの来日、26年ぶりの恵比寿、不変の愛情とグルーヴ。

 結成43年を迎えたジャン=ポール・"ブルーイ”・モーニック率いるアシッド・ジャズ・プロジェクトのインコグニートが、3年ぶりに来日。情熱的でファンキーなグルーヴを振り撒きながら、待ち侘びた日本のファンたちを大いに魅了した。今回の来日は、2019年12月のブルーノート東京公演(記事 →「INCOGNITO@BLUENOTE TOKYO」)以来。翌年のブルーイ率いるバンド・プロジェクト"シトラス・サン”の公演も予定されていたが、コロナ禍の影響でやむなく延期に。親日家のブルーイゆえ、これまではほぼ毎年来日公演を行なっていたインコグニートだから、この3年というブランクは非常に長く感じたのだと思う。パンデミックが完全に過ぎ去った訳ではないが、少しずつ日常が戻りつつあるなかで(ブルーイいわく「チョットダケgetting betterね」)、ようやくファンとともに音楽を愉しめることに高い期待度を感じたのか、今回の来日はインコグニートとしてのブルーノート東京、丸の内のコットンクラブ公演のみならず、〈ブルーノート東京オールスター・ジャズ・オーケストラ directed by エリック・ミヤシロ plays Music of インコグニート with special guest ジャン=ポール ”ブルーイ” モーニック〉というジャズ・オーケストラとブルーイやインコグニート・ヴォーカリストとの共演によるステージをブルーノート東京と群馬・高崎にある高崎芸術劇場大劇場でも行なうことに。12月8・9日にブルーノート東京、ジャズ・オーケストラとの共演で10日にブルーノート東京と11日に高崎、12・13日にコットンクラブと忙しいスケジュールのなかを駆け抜け、その最後を締めくくるのが、14日の恵比寿ザ・ガーデンホール公演となる。

 従来ならば、ブルーノート東京あるいはコットンクラブのステージを予約するのだが、恒例のクリスマスイヴェント〈ルルティモ・バーチョ〉のラインナップとしてインコグニートのステージ〈L'ULTIMO BACIO Anno 22 INCOGNITO Japan Tour 2022 "Return of The Groove"〉が開催されると知り、この公演1本に絞ってチケット争奪戦に挑んだ次第。というのも、26年前の1996年にインコグニートが恵比寿ザ・ガーデンホールでライヴを行なったのだが、それがまさしく12月14日なのだ(ライヴの模様は翌1997年リリースのライヴ・アルバム『Tokyo Live 1996』に収録されている)。26年の時を経て、再び同じ会場でライヴをするという貴重な巡り合わせに、幸運にも立ち会うことが出来た。

 ザ・ガーデンホールのステージに1996年の時にも立ったのは、おそらくブルーイのみで、ヴォーカリスト含め、メンバーもだいぶ変わった。2019年来日時からは、大きなところで、キーボードにお馴染みの"宇宙人”ことマット・クーパーは今回来日せず。代わりに、インコグニートのヴォーカルを務めた"ヤンチャサル”ことトニー・モムレルのバンドに参加し、スナーキー・パピー、ミュージック・ソウルチャイルド、ロバート・グラスパー、レイラ・ハサウェイらと共演する米・シンガー・ソングライターのシャンテ・カンらとの仕事をしている、イタリア人のキッコ・アロッタとなった。小柄ながら陽気で表情豊かなムードメーカーと手練な鍵盤捌きというところはマット・クーパーと似ていて、今回のステージでも時折両手を広げてオーディエンスを煽る姿も見受けられた。


 トランペットは当初"ヨッパライホーンズ”の一人、シド・ゴウルドが予定されていたが、急遽ジョー・モッター(ジョセフ・モッター)に。モッターは日本に8年に居住しているアメリカ人で、"持田城”なる日本のネーミングも。エンディングでブルーイ恒例の"Beyond color, beyond creed, We're One Nation under the groove!”というフレーズで締める際に、ブルーイの横へ呼び出され、ブルーイの後に続き「人種を超えて」「宗教も問わず」「グルーヴの下に一つの国だ」としっかりとした日本語で通訳し、オーディエンスから拍手を浴びていた。

 ヴォーカリストはジョイ・ローズとチェリー・Vは引き続き参加し、ヴァネッサ・ヘインズに代わって、2012年のデビュー・アルバム『デヴィル・イン・ミー』リリース当初に"ポスト・エイミー・ワインハウス”の一人とメディアから評されたナタリー・ダンカンを登用。男性ヴォーカルは起用しなかったが、総勢12名という腕利きたちによるユナイテッドなグルーヴで、フロアを興奮と歓喜で満たしてくれた。

 1996年の公演で披露した楽曲のうち、本公演で演奏したのは、「トーキング・ラウド」「コリブリ」「ドント・ユー・ウォーリー・アバウト・ア・シング」といったインコグニート・クラシックスの3曲のみ。それ以外は26年のうちに生まれたさまざまな楽曲が配されたが、ライヴ定番の「スティル・ア・フレンド・オブ・マイン」や「オールウェイ・ゼア」もなし。だが、数々の傑作を生んできたインコグニートにとって、それは些細な問題にもならない。
 ブルーイがインコグニート結成当初に作ったという、1stアルバム『ジャズ・ファンク』収録のインスト曲「パリジェンヌ・ガール」を皮切りに、ブルーイの音楽的発露となったエポックメイクな年のことを歌った「1975」からはリード・ヴォーカルを替えながら展開し、熱度を高めていく。


 ジョイ・ローズは、フィメール・ヴォーカル3名のなかでは長くインコグニートに帯同してきただけに、貫禄と圧巻のヴォーカルを響かせる。インコグニートのヴォーカルとしてファンが真っ先に思い浮かべるに、"ヴォイス・オブ・インコグニート”ことメイサ・リークがいるけれど、熱量とパッションというところではメイサにも比肩する。クール寄りのメイサに対して、チャーミングかつエネルギッシュな妙でヴォルテージを高め、フロアを沸かせていた。

 チェリー・Vは、エリック・ベネイらのツアー帯同やブランディー、フロエトリー、ミュージック・ソウルチャイルドらのサポートアクトを行ないながら、英R&Bシーンで活躍している。3名のなかでは最もR&Bマナーが強く、個人的に好みのヴォーカルだ。たとえば、エイメリー「1シング」とトニ・トニ・トニ「レッツ・ゲット・ダウン」を融合させたような「ティル・ザ・サン・カムズ・アップ」でも見せているように、ダンサブルなトラックの上でパッション漲るなめらかな褐色のヴォーカルワークを繰り出すなど、グルーヴィ―なアティテュードが良い。

 "ポスト・エイミー・ワインハウス”の呼び声もあったナタリー・ダンカンは、雰囲気を持ったヴォーカルが魅力。ジョイ・ローズのような爆発的な声圧を駆使するタイプではなさそうだが、どこかミステリアスなルックスも相まって、曲の世界観を醸し出す才に長けている感じ。ゴールディが関わったという変拍子のトラックにピアノが絡むミディアム「レット・ゴー・リリース」を聴くとエイミー・ワインハウスっぽさはあまり感じず、声質は異なるが、ジャズミン・サリヴァンあたりのクールネスなトラックに泳ぐようなムードが特筆なところか。「コリブリ」でのスキャットはややバンド・サウンドに押された感じもあったが、後半の「アイ・シー・ザ・サン」での佇まいは、魅惑的なノスタルジーも垣間見えた好アクトだったと思う。


 総勢12名誰もが主役になれる腕を持ち、バンドが脇役にならないというのもインコグニートの強みでもある。それぞれのソロパートもそうだが、特に近年恒例となっているイタリアの伊達男フランチェスコ・メンドリアのドラムとマカオ出身のジョアン・カエタノのパーカッションによる、バトルともツイン・セッションともいえるパートは、今回も健在。バンド・メンバーがステージを去り、2名だけを残して打ち鳴らされる無数の音の数々は、シンプルがゆえに一音ごとに身体を揺るがすパワーがストレートに伝わってくる。おそらく世界最古の楽器は打楽器だろうと言われているが、叩き出す音からさまざまなメッセージを発しようとした原始的、野性的なエナジーと、波状攻撃のように互いに音を次々と重ねていくビートが、人間に本能的に宿している欲望を刺激するようなシナジーとなって現れる、とでも言おうか。ステージを赤く染めた照明の効果も加わって、2人が最後の一打を打ち鳴らして手を振りかざした瞬間には、下から湧き上がってくるかごとく強い熱気がフロアを覆ったのだった。

 ブルーイは東北大震災後もそうだったが(広島・長崎も同様に)、幾度の困難も乗り越えて見事に復興・復活する日本は素晴らしいと常に述べ、その素晴らしい日本を象徴して"ライジング・サン”と称している。(日本だけではないが)パンデミックが過ぎ去り、再び平和な時が訪れることを祈念するという意味でも相応しい「モーニング・サン」をアンコール・ラストの楽曲に用意して、インコグニートの音楽に酔いしれるオーディエンスとともにエキサイティングなステージを完遂した。そして、これまた最後に恒例のBGMでボブ・マーリーの「ワン・ラヴ」が流れるなか、フロアのすべての人が共感・共鳴する瞬間とライヴの興奮の余韻を残して、ショーは幕を閉じた。

 開演前は、26年前と同日同会場でのライヴは、どのようなステージになるのだろうかと思いを巡らせていたが、メンバーが登場し、ブルーイがギターを鳴らした瞬間から、そんな思いはどこかへ吹き飛んでしまった。時にちょっとした笑いを挟みながら、笑顔が絶えず、とめどなく興奮と刺激、歓喜で満ちていくエキサイティングな100分強のステージ。「2023年もここへまた戻ってきたい」と力強く宣言したブルーイの言葉を歓声と拍手で包んだオーディエンスが、興奮冷めやらぬ心情を吐露しながら、夜の恵比寿の街中へそれぞれに消えていく光景が印象的だった。


◇◇◇

<SET LIST>
01 Parisienne Girl
02 1975 (Lead vo. Joy Rose)
03 Above The Night (Lead vo. Natalie Duncan)
04 Only A Matter Of Time (Lead vo. Cherri V)
05 Talkin' Loud (Lead vo. Joy Rose)
06 Shine (Lead vo. Natalie Duncan)
07 I Love What You Do For Me (Lead vo. Cherri V)
08 Colibri (Lead vo. Natalie Duncan)
09 Bass & Keyboard Session
10 Drum & Percussion Session / Supersonic Lord Sumo
11 Step Aside (Lead vo. Joy Rose)
12 I See The Sun (Lead vo. Natalie Duncan)
13 Don't You Worry 'Bout A Thing (Lead vo. Cherri V)
≪ENCORE≫
14 Expresso Madureira
15 Morning Sun (Lead vo. Joy Rose) 
16 One Love(by BGM “Bob Marley & The Wailers” song)


<MEMBER>
Jean-Paul 'Bluey' Maunick(g)
Joy Rose(vo)
Cherri V(vo)
Natalie Duncan(vo)
Joe Motter(tp)
Trevor Mires(tb)
Simon Allen(sax,fl)
Charlie Allen(g)
Francis Hylton(b,Music Director)
Francesco Mendolia(ds)
Joao Caetano(perc)
Chicco Allotta(key)


◇◇◇

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2019/12/12 INCOGNITO@BLUENOTE TOKYO
2022/12/14 INCOGNITO @恵比寿The Garden Hall(本記事)

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