ブルーイからの愛と涙。
昨年11月の公演(その時の記事はこちら)から早々と再来日したブルーイ率いるインコグニートのブルーノート東京公演を観賞。2ndショウ。震災の影響で来日を中止するアーティストが多いなか、実際、当初はゲスト出演するはずだったマリオ・ビオンディは来日をキャンセルしたのだが、ブルーイはミュージシャンとして出来ることをするという信念のもとに来日した。ブルーノート東京公演が始まる前日の3月29日には、新宿ブルックリンパーラーでのDJイヴェント、“Good Music Parlor”にも出演し、精力的に“LOVE&PEACE”を届けてくれている(当初は駆けつける予定だったのだが、残念ながら行けず……)。
“一緒に立て直そう!”これが、ブルーイの第一声だった。親日家、という以前にそもそもが“Beyond colour, beyond creed, we are one nation under the groove!”(肌の色や信条・信仰を越えて、我々はグルーヴのもとで1つなんだ!)という信念の人だから、困難や苦しみを抱えている状況に、いてもたってもいられなくなっているのだろう。 本当に有難い。ブルーイはMCで、今回は特に強いメッセージを投げかけてくれていた。「子供の頃、日本に行きたかったけれど、恐かった。それは、広島(原爆)のことがあったから。でも、実際に来てみたら、その広島も見事に復興していた。日本人は素晴らしい。だから、今度もまたきっと戻れる。広島が見事に復興したように」とも話してくれた。メンバーが一列に並び、恒例の挨拶の前のMCでは、感極まって涙した。ヴァネッサやクリスに背中をさすられながら、また気力を振り絞って語ってくれた。日本人に力と勇気を与えてくれたブルーイやメンバーには、本当に感謝をしたい。直接的なことは出来なければ、ミュージシャンとしての心のケアを……そういう真摯な想いがしっかりと伝わってきた(一方で、日本の政府ときたら……)。
前回公演と異なるのは、何といってもトニー・モムレルがいないこと。シャーデーのツアーのバック・ヴォーカルとリール・ピープル加入によって、おそらくしばらくはヴォーカルとしては戻ってこないだろう。トニーに代わる男性ヴォーカルは、クリス・バリン。リード・ヴォーカルにメイサがカンバックしたアルバム『ビニース・ザ・サーフェス』収録の「レイバー・オブ・ラヴ」でリード・ヴォーカルをとっている“Christopher Ballin”が彼だ。トニーのようなスティーヴィー風のやや掠れた燻しぎみの声とミュージック・ソウルチャイルドを太めにしたような風貌が特徴。持ち歌とあってか、安定した歌唱を披露していた。
そのほかヴォーカルは、ヴァネッサ・ヘインズとロレイン・ケイト-プライスの女性陣。今後はツアーではヴァネッサがメインとなるのだろう。今夜は真っ白なボディ・コンシャスなワンピースで登場。ケリー・サエのような直情的なパワフルさとチャカ・カーンの雰囲気もチラホラ見えるヴォーカルは、ステージを重ねるごとに成長している感じだ。もう一人のロレインは、ヴァネッサとは対照的に可憐さを備えた清涼感のあるヴォーカル。クリスとのデュエットもなかなかのコンビだった。
初登場としてはサックスのジェイミー・アンダーソン。ハットにサングラス、ジャケット姿で背の高い彼は、スパイ映画にでも出てくるような雰囲気のイケメン。ファンキーでキレのいい音を鳴らしていた。クラブ・シーンで活躍する先進的DJ/プロデューサー=ティム・デラックスと仕事もこなしているようだ。
ステージは奥の右端からブルーイ、中央にドラムのピート・レイ・ビギン、その右隣にベースのジュリアン・クランプトン(メンバー紹介ではフィンランド×イングランドということで“フィングリッシュ”とブルーイに言われていた)、そしておなじみのキーボード、マット・クーパー。前列はホーン・セクションの3人。上述のサックスのジェイミー、トランペットのシッド・ゴウルド(酔っ払いホーン隊の中心?…笑)、トロンボーンのアリスター・ホワイト。アリスターはスライドを目いっぱい伸ばしてのソロ・パートが印象的だった。そして、ヴォーカル陣。クリス、ヴァネッサ、ロレイン。楽曲によって立ち位置を変えていく。
ブルーイは、ドラムのピート・レイ・ビギンについて恒例の出身地を交えたメンバー紹介で“OUT OF PLANET”(地球外生命体出身、変態的なドラム・ソロを披露したからか)と言った後、「若手のミュージシャンにも門戸を広げないといけない。そこで小さい時に彼の(可愛い)ドラム・プレイを見た僕は彼を迎えたんだ。そしたら(可愛かったドラム・プレイも)ブルルルル……と凄いことになってた。(笑) そして、彼は有名なバンドのドラムでプレイしたいという夢を持ち続けて努力した結果、今、レベル42(LEVEL42)のドラマーになった。諦めちゃいけない。希望を持ち続ければ必ず叶う」と、メッセージしてくれた。
「ルーツ」に続いては、“LOVE”がタイトルに入った「レイバー・オブ・ラヴ」「グッド・ラヴ」の2曲。この日本の苦境に対して“愛”というタイトルをセレクトしてきたのかもしれない。
「パリジャン・ガール」はまだブルーイがインコグニート結成当初、まだ曲がない時に作られた楽曲とのことで、1979年の1stアルバム『ジャズ・ファンク』に収録されている。ブルーイも結成30年を経て原点に立ち返るという意味と、音楽で伝えることの素晴らしさをもう一度確認するという意味でも、この楽曲を選曲したのかもしれない。
「スティル・ア・フレンド・オブ・マイン」の流れから「コリブリ」へと続いたやおら、ブルーイが演奏をストップ。“エーッ”の観客の声に“ナンデスカ~”ととぼける。そして、「今日は素晴らしい日本人アーティストをゲスト」ということで、ギタリストの近田潔人(こんだきよと、通称“こんちゃん”)とさかいゆうが登場。「コリブリ」のイントロのギター・カッティングをブルーイと近田が、スキャットをさかいゆうと(慌ててヒールを履きながらステージに上がってきた)ヴァネッサが掛け合う。近田の煽りにブルーイも負けじと応戦するセッションは、こういったバンド演奏の醍醐味だ。さかいゆうはヴァネッサにリード・スキャットを譲られながらソロ・パートを披露。“東北に力を!”と連呼して観客を喚起させた。
「オールウェイズ・ゼア」「リーチ・アウト」「エヴリディ」といった人気のヒートアップ・ナンバーでヴォルテージが最高潮となった後、ブルーイのMCから導き出されたのはボブ・マーリィの「ワン・ラヴ」。“ワン・ラ~ヴ”の掛け声にオーディエンスが応えるおなじみの光景だ。だが、今回に限っては、いつも以上に“ONE LOVE”の想いが強かったのではないか。ブルーイやメンバーの日本への愛が確実に届いた瞬間でもあった。
◇◇◇
<SET LIST>
01 ROOTS(Back To A Way Of Life)
02 LABOUR OF LOVE
03 GOOD LOVE
04 PARISIENNE GIRL
05 STILL A FRIEND OF MINE
06 COLIBRI(Guest with Kiyoto Konda&Yu Sakai)
07 LOW DOWN
08 EXPRESSO MAUDUREIRA
09 TALIKN LOUD
10 LIVING AGAINST THE RIVER
11 1975
11 ALWAYS THERE
≪ENCORE≫
12 REACH OUT
13 EVERYDAY
14 OUTRO~ONE LOVE
【BLUENOTE OFFICIAL SET LIST】
2011 3.30 wed.
【1ST】
1.ROOTS
2.LABOUR OF LOVE
3.GOOD LOVE
4.PARISIENNE GIRL
5.COLIBRI
6.LOW DOWN
7.EXPRESSO MAUDUREIRA
8.TALKIN LOUD
9.LIVING AGAINST THE RIVER
10.ALWAYS THERE
11.REACH OUT
12.EVERYDAY
13.JACOB'S LADDER
14.NIGHTS OVER EGYPT
【2ND】
1.ROOTS
2.LABOUR OF LOVE
3.GOOD LOVE
4.PARISIENNE GIRL
5.COLIBRI
6.LOW DOWN
7.EXPRESSO MAUDUREIRA
8.TALKIN LOUD
9.LIVING AGAINST THE RIVER
10.ALWAYS THERE
11.REACH OUT
12.EVERYDAY
13.DON'T YOU WORRY 'BOUT A THING~JACOB'S LADDER
14.NIGHTS OVER EGYPT
<MEMBER>
Jean Paul "Bluey" Maunick(g,vo)
Chris Ballin(vo)
Vanessa Haynes(vo)
Lorraine Cato-Price(vo)
Sid Gauld(tp)
Alistair White(tb)
Jamie Anderson(sax)
Matt Cooper(key)
Julian Crampton(b)
Pete Ray Biggin(ds)
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