*** june typhoon tokyo ***

INCOGNITO@BLUENOTE TOKYO



 進化と躍動を止めない40年。“ファンキー・シップ”の航海はさらなる未来へ。

 ブルーイ率いるアシッド・ジャズ/ジャズ・ファンク・ユニット、インコグニートが今年もやってきた。昨年はアンプ・フィドラーを伴った来日公演の拠点ブルーノートの30周年を祝したステージだったが、2019年はインコグニートの40周年のビッグパーティとしての来日。盛況で知られるツアーだが、今年は例年以上でチケットも早くにソールドアウト。結成40周年記念アルバム『トゥモローズ・ニュー
・ドリーム』を引っ提げ、新旧取り混ぜながら、歓喜を呼ぶ祝祭のステージを展開した。

 「コンニチワ! ココニコレテウレシイデス」というブルーイのお馴染みのMCと「40周年という記念のステージ。盛大なパーティをしよう!」という開会宣言をして、メモリアルなステージが幕開け。冒頭に配されたのは、新作『トゥモローズ・ニュー・ドリーム』から「セイ・ホワッツ・オン・ユア・マインド」。華やかな色彩を添えるアリステア・ホワイト、シド・ゴウルド、ポール・ブースのホーン・セクションが映え、ブルーイとフランシスコ・サレスのカッティングギターが鼓動を高めるトラックは、インストゥルメンタルとはいえキラー・チューンと呼べるファンクネスが横溢。祝祭の扉を開けるには持ってこいのオープナーとなった。


 世界を駆け巡るブルーイは常に新たな逸材を見出し、インコグニートを通じてファンたちに素晴らしいミュージシャンを紹介するが、この40周年を記念したライヴでも初来日という新顔が登場。今ツアーでフロントヴォーカルの一人に加わった英・南ロンドン出身のチェリー・Vは、可憐さを持ちながら艶やかで、べっ甲のような褐色の透明感を感じさせる声色が魅力。イタロディスコやユーロハウスを手掛けた伊プロデューサーのジャンフランコ・ボルトロッティ(“カペラ”でも著名)のプロジェクト“49ers”の録音にゲスト参加し、ソロやセッション・シンガーとして活動したアリーシャ・ウォーレンの娘というが、アリーシャの姉が『ソー・グッド』などのヒットを持つ“UKソウル・クィーン”のミーシャ・パリスと知れば、チェリー・Vの遺伝的資質も納得のところだ。パワフルでエネルギッシュなパッションを湛えながら、ハウス・ミュージックにも寄り添える懐の深さを持つヴァネッサ・ヘインズ、さえずりのようなチャーミングと芳醇を帯び、時に圧巻のスキャットを放つジョイ・ローズのインコグニートお馴染みのフロントヴォーカル陣にあって、チェリー・Vは90年代R&Bなどのスムースなミディアムに最も寄り添えそうで、個人的には好みのヴォーカルだ。若々しい麗しさにチラリと色香を覗かせるスムーズな歌い口は、他のフロントヴォーカル二人とはまた異なる雰囲気を構築していた。

 もう一人のフレッシュマンは、英・ブライトンを拠点とするネオソウル・バンド“ヤクル”のヴォーカル/キーボードを務めるジェイムズ・バークリー。中盤に「シャイン」ではキーボードを弾きながら、「アフター・ザ・ビート・イズ・ゴーン」ではステージ中央でマイク片手に歌うステージを作るなど、ブルーイの惚れ込みようが分かる。既にアシッドジャズのキーパーソンで世界の優れた音楽を発信するキュレーターとしても著名なジャイルス・ピーターソンのサポートを受けているようで、UKソウル・バンドらしい憂いと適度なウェット感を備えたヴォーカルが、フューチャーソウルやソウルポップへの浸透性の高さを窺わせていた。ネオソウルとジャズを往来するような作風や、J・ディラ、ディアンジェロ、ソウルクエリアンズあたりの影響を受けているということからも、ジャズ、ファンク、ヒップホップなど多方面へ訴求する要素がありそう。「シャイン」「アフター・ザ・ビート・イズ・ゴーン」ともに『トゥモローズ・ニュー
・ドリーム』に収録され、前者はアルバム内では小品的インタールードとなっているが、当ステージでは“shine, baby shine”のフックを軸にしたジャジィなインスト作風でやや長めのアレンジ(フランク・マッコムが良くやるパターン…とはいえ、マッコムほど長くはないが)に。後者はインコグニートらしいホーン・セクションと滑らかな鍵盤が快哉を呼ぶ軽快なファンキー・チューンで、ほんのりハスキーでノスタルジックが漂うバークリーのヴォーカルとのマッチングが心地よかった。

 

 メロウなテイストで揺らせる楽曲からファンキー・ダンサーなどキラー・チューンのオンパレードのつづら折りで、それぞれにトピックがあるなかで、特に個人的に耳目を惹いたのはジョイ・ローズがリード・ヴォーカルを執った「スペルバウンド&スピーチレス」(1995年の『100°(ワンハンドレッド・)アンド・ライジング』に収録)。曲目としては目新しくはない常連曲だが、今ツアーのフロントヴォーカル陣においては一番古くからインコグニートに参加した貫禄もあってか、吐息をかけるような小粋さと内なる情炎をひとしきり吐露するパッショネイトに満ちたスキャットでフロアを制圧。前半の「ヘイズ・オブ・サマー」でも妖艶でインパクトのあるスキャットを聴かせてくれたが、「スペルバウンド&スピーチレス」ではそれをあっさりと更新。オーディエンスが息を呑み、直後に喝采を送るのに一瞬の時も要することはなかった。

 スキャットとともにファンキーなグルーヴで踊らせる「コリブリ」以降は、インコグニートのオーセンティック・ナンバーとも呼べる人気曲が目白押し。ブルーイがギタリストになりたいという夢を馳せるも、ベンベンと鳴るプラスティックのギターしか持てなかった若き日に憧れたギタリストの名前を挙げ(そこには布袋寅泰の名も)、「僕はビートルズよりローリングストーンズね!」といって「サティスファクション」のイントロの口真似を挟みながら、それらのマイスターに比肩するくらい胸を打たれたミュージシャンとしてフランシスコ・サレスを登壇させ、サレスの奏でる繊細でしなやかなギターを横にブルーイがアドリブ気味のヴォーカルを披露したり、インコグニート公演では名物の一つとなったイケメンのイタリアン・ドラマーのフランチェスコ・メンドリアと軽快なリズムを創出するパーカショニストのジョアン・カエタノによる長尺のソロ共演「スーパーソニック・ロード・スモー」でヴォルテージをさらに上昇させると、フロントヴォーカル陣以下が戻り、スムース・グルーヴな「1975」へ。クライマックスは分かっていても盛り上がり必至な「オールウェイズ・ゼア」へ。歓声や拍手が鳴り止まないなかで、スティーヴィー・ワンダーの名曲ながらもインコグニート・クラシックスと呼べるまでになった「ドント・ユー・ウォーリー・アバウト・ア・シング」へ。ジョイ・ローズ、ヴァネッサ・ヘインズ、チェリー・Vにジェイムズ・バークリーが加わり、さらにはブルーイもバックヴォーカルで参加と、祝宴の最後を飾るに相応しいヴォーカルラインナップで、興奮渦巻くステージをまとめ上げた。


 クオリティは従来と変わらずに高品質。されど、常に新しい発見を提示してくれるインコグニート。ジャズファンクを下敷きにはしているが、ハッピーなヴァイブスを届けたいという信念に沿っていれば、ジャンルの枠などは問題ではない。「フットボールのスタジアムでは敵味方で対しているけど(笑)、音楽は全てが仲間になり得る素晴らしいコミュニケーション・ツールなんだ!」と冗談を交えながら音楽の素晴らしさを説いたブルーイ。その音楽を支えるバンド・メンバーの力量も辣腕揃いであるとともに、しっかりとブルーイの信念に共感しているから、そこから生まれる音楽やグルーヴには、余計な説明を要しない、自然と心と身体を躍らせるヴァイブスが凝縮されているのだろう。今回はキーボードのマット・クーパーにほど近い最前テーブル席で観賞することが出来たのだが、その“クレイジー”な指捌きと音楽の神が憑依したかのような表情やパフォーマンスに時折釘付けになり、またクーパーの背後で漆黒のボトムを奏でるフランシス・ヒルトンの胸をくすぐるようなベースラインにも対峙出来たりと、個人的にも例年以上に興奮と恍惚が駆け巡った刺激的なステージを実感した。

 40年を経ても、その加速を止めないインコグニート。世界中を渡りながら新たなアイテムを発見しては伝播する音楽航海船“ファンキー・シップ”の旅には、まだまだ思いもよらない刺激と興奮が待ち受けているに違いない。


◇◇◇

<SET LIST>
00 INTRODUCTION
01 Say What's On Your Mind(*TND)
02 Roots(*V)
03 Only A Matter Of Time(*C)(*TND)
04 Haze Of Summer(*J)(*TND)
05 Still The One(*V)(*TND)
06 I Love What You Do For Me(*C)
07 Spellbound & Speechless(*J)
08 Shine(James Berkeley from Yakul)(*TND)
09 After The Beat Is Gone(James Berkeley from Yakul)(*TND)
10 Colibri(*J)
11 THE B&K(Bluey & Francisco Sales)
12 Supersonic Lord Sumo(Drum & Percussions Solo)
13 1975(*J)
14 Always There
≪ENCORE≫
15 Don't You Worry 'Bout A Thing
16 OUTRO(sing along on BGM “One Love” by Bob Marley)

(*V):lead vocal is Vanessa Haynes
(*J):lead vocal is Joy Rose
(*C):lead vocal is Cherri V
(*TND):song from album “Tomorrow's New Dream”

<MEMBER>
Jean-Paul 'Bluey' Maunick(g,vo)
Joy Rose(vo)
Vanessa Haynes(vo)
Cherri V(vo)
Francisco Sales(g)
Francis Hylton(b)
Francesco Mendolia(ds)
Joao Caetano(perc)
Matt Cooper(key)
Sid Gauld(tp)
Alistair White(tb)
Paul Booth(sax,fl)
James Berkeley(vo,key)


◇◇◇

◇◇◇

【INCOGNITOに関連する記事】
2005/12/21 INCOGNITO@BLUENOTE
2007/03/25 INCOGNITO@BLUENOTE
2008/03/03 INCOGNITO@BLUENOTE TOKYO
2008/12/25 INCOGNITO@BLUENOTE TOKYO
2010/01/03 INCOGNITO@BLUENOTE TOKYO
2010/11/21 INCOGNITO@BLUENOTE TOKYO
2011/04/01 INCOGNITO@BLUENOTE TOKYO
2011/08/31 INCOGNITO@BLUENOTE TOKYO
2012/08/09 INCOGNITO@BLUENOTE TOKYO
2013/12/27 INCOGNITO@BLUENOTE TOKYO
2014/08/16 INCOGNITO@BLUENOTE TOKYO
2015/07/09 Bluey presents CITRUS SUN@BLUENOTE TOKYO
2015/12/30 INCOGNITO@BLUENOTE TOKYO
2016/10/08 INCOGNITO@BLUENOTE TOKYO
2017/12/13 INCOGNITO introducing Roberta Gentile@BLUENOTE TOKYO
2018/12/15 INCOGNITO with AMP FIDDLER@BLUENOTE TOKYO
2019/12/12 INCOGNITO@BLUENOTE TOKYO(本記事)

◇◇◇

 


ランキングに参加中。クリックして応援お願いします!

名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「ライヴ」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事