インコグニート@ブルーノート東京、最終公演2ndを観賞してきた。ブルーイを核としたこのユニットは、マイ・フェイヴァリット・アーティストのなかでもトップ・ランカーで、毎年のように来日するが、必ず訪れてしまう。会社を早々に退散し、受付開始時間より1時間以上前に並んで、最前テーブル席をゲット。今回は眼前には“やんちゃサル”ことトニー・モムレルがいる。
フロント・ヴォーカル陣は、イマーニ、ジョイ・ローズ、トニー・モムレルのおなじみメンツに、チャーリー・ロックウッドという若い女性を加えた4人体制。チャーリーは非常に美しい神秘的でオリエンタルな顔立ちをしている。どうやらブルーイの親族らしい。ブルーイのMC中に、ヴォーカル陣&バックが一休み、リラックスしている際に、座禅のような形でステージの段差に腰掛けて精神統一?をしている姿が印象的だった。その最中に、イマーニはセット・リストが書かれてある紙をわざと掴んでクシャッと音を出してチャーリーの邪魔をして、おてんば娘全開だったけれど、チャーリーは全く意に介さず(そこにモソモソッと後ろから“しかたねぇなぁ”とでも言いたげな顔でクシャクシャになった紙を広げて回収したのは、ベースのフランシス・ヒルトン)。今回はブルーノート以外のイヴェントもあり、ブルーノートの1日2公演を含めると1日3回のステージもあったそうで、特にリード・ヴォーカルが多いイマーニはハードだったに違いないとの労いの言葉に、照れるイマーニは実にキュートだった(時折やや声に疲れが感じられたのはそのせいかも)。
その代わり、といってはなんだが、ジョイ・ローズが叫ぶ叫ぶ。特に「ナイツ・オーヴァー・エジプト」での全身の気を振り絞っての血流を逆流させんばかりの熱唱は、ド迫力そのもの。痺れるというのは、このような瞬間にある言葉だ。それを横目に“どうしちゃったのよ?(そのパワフルぶりは?)”みたいな顔でジョイを下から上へと眺めるイマーニ。ヴォーカル同様、ヴァラエティ豊かな表情を持った人だ。
トニーは相変わらずスティーヴィー・ライクな声で安定したヴォーカル・ワークを披露。近年はブルーイのメンバー紹介にて“ヤンチャサル”と言われなくなったが、それはもう単なるやんちゃからヴォーカル・リーダーとしての成長を確信し、完全なる信頼を置いていることからなのかもしれない。
安定という意味では、バック・メンバーについては何一つ曇るところがない。数々の偉大なミュージシャンと共演してきたドラムのリチャード・ベイリー、キーボードのマット・クーパーのサウンド・デザインのさじ加減は素晴らしいの一言以外は見つからないし、ホーン・セクション、サックス&フルートのポール・グリーンウッド、トランペットのシッド・ゴウルド、トロンボーンのトレヴァー・マイルスの3人は、朴訥に立っていたかと思うと突然リズムに合わせて同時に顔や身体を右、左に向けたり、それぞれバラバラに90度ずつ回転しながら踊ってみたりする(しかも自分たちの演奏パート直前まで)。演奏しながら楽器を左右にスウィングするなんて当たり前だ。おちゃらけ具合が楽しいが、もちろんそこには音像を奥行きのある立体なものにする魅惑のアレンジが凝縮している。また、フランシス・ヒルトンのベースもいいグルーヴを奏でていた。決して広くないステージに11人もいるので比較的目立たないのかもしれないが、彼が醸し出すボトムのうねりやビートは強烈。身体をスウィング、シェイクさせるのにしなやかに導いてくれた。
それらを見事にハンドリングしているのがブルーイ。今回は新ネタを仕込んでくるんじゃないかなと思っていたら、案の定あっさり披露してくれた。その言葉は“オッパッピー!”だった。(爆)
構成は、1stが押していたということもあったのか、メドレー・スタイルでの演奏が多かった(当初からそういう構成だったかもしれないが)。ただ、それが奏功したのは確かで、トニー・モムレルのリードの「リーチ・アウト」、ド迫力なジョイ・ローズの「ナイツ・オーヴァー・エジプト」、途中でストップ・モーションになるブレイクを組み込んで喝采を浴びたおなじみ「ドント・ユー・ウォーリー・アバウト・シング」、ノラないわけにはいかない「エヴリディ」の流れはいつも以上に増してヒート・アップしていた。
ここで一旦“シット・ダウン、パーティ・タイムはまだまだ後であるから”と熱が冷めやらない観客を座らせるブルーイ。そして、29年前のインコグニート結成時にポール・ウィリアムスと初めてレコーディングした曲「サマー・ハズ・エンディッド」を、ポール・グリーンウッドのフルートをメインにフィーチャーして演奏。44歳という若さで死去したポール・ウィリアムスに捧げたインストは、フルートが奏でる上品さと熱情によって、心地良いレクイエムになっていた。“彼は死んでも、その魂、彼が創り上げた素晴らしい音楽は残っていくんだ”…それをまさに具現化した瞬間だった。
「インコグニートも29年という記念すべき年になった。来年は30年! いつも以上に大きなバンドで、大きな会場で、たくさんのスポンサーで…(笑)やりたいですネ」と語るブルーイ。「昔、よく聴いたアルバムを見返すと“メイド・イン・ジャパン”と書いてあったり、“Japan"に触発されてきた。いつか日本に行きたいと思っていたけれど、今こうしてそれが実現してとても嬉しい”とも。近年はブルーノート公演がもっぱらだけれども、武道館とはいかなくとも、以前公演したAX(その時は最前列で、隣の知人がヴォーカルのザヴィエルにマイクを向けられていたっけ)やBLITZクラス(新しく出来たJCBホールでもいい)で是非やって欲しいなぁ。どうせ立って踊るんだから、最初からスタンディングでいいでしょ。(笑)
「N.O.T.」では、ブルーイがステージ前に出てきて指で“N・O・T”となぞり、イマーニが耳に手を当てて観客のレスポンスを煽る。どれもそうなんだけど、特にイントロを聴いただけで沸くのは「スティル・ア・フレンド・オブ・マイン」。観客も“アーアーアーアー”のところではみな自然と手の振りが出る。客席を真ん中から左右に分け、セクションA、Bとしてそれぞれにコーラスさせる即席合唱ももちろんアリ。新曲も披露されて、この日のために用意されたといっても過言ではないタイトルがついた「ハッピー・ピープル」は、今後も演奏されそうなゴキゲンなナンバーだった。演奏前にブルーイの演技指導(笑)が入るおなじみのキャッチーな「モーニング・サン」で本編は締め。
この時点で11時15分くらい。でも帰る人はいない。1stが押して22時に10分前のスタートくらいだったから、仕方ないか。でも、今日は平日の月曜ですよ。(苦笑)
すぐにアンコールに応えると、最後は汗がほとばしるほどの「オールウェイズ・ゼア」、ステージに一列にならんでメンバー紹介をしたあと、恒例のフレーズ“ビヨンド・カラー、ビヨンド・クリード、ワン・ネイション、アンダー・ア・グルーヴ”をブルーイが発すると、場内にボブ・マーリィの「ワン・ラヴ」が流れて、観客とともに歌いながらのステージ・アウト。エンタテインメントをさまざまなアプローチから施すも、そのメッセージはブレがなく不変だ。それこそが、多国籍の集団である彼らが共に1つの音楽を創り上げるための信念で、それは音楽だけではなく、世界共通の認識であるのだ。ブルーイの強固な信念がある限り、このユニットの歴史は終わらない。
◇◇◇
<SET LIST>
01 Solar Fire (Instrumental)
02 Thinkin' About Tomorrow (Instrumental)
03 Pieces Of A Dream
04 Without You
05 I Hear Your Name
06 N.O.T.
07 Reach Out
08 Nights Over Egypt
09 Don't You Worry About A Thing
10 Everyday
11 Summer Has Ended
12 Still A Friend Of Mine
13 Happy People
14 Morning Sun
≪ENCORE≫
15 Always There
16 One Love (Original by Bob Marley)
<MEMBER>
Jean Paul "Bluey" Maunick (G,Vo)
Imaani (Vo)
Joy Rose (Vo)
Tony Momrelle (Vo)
Charlie Rookwood (Vo)
Paul Greenwood (fl,sax)
Sid Gauld (tp)
Trevor Mires (tb)
Matt Cooper (Key)
Francis Hylton (B)
Richard Bailey (Ds)
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