*** june typhoon tokyo ***

INCOGNITO@BLUENOTE TOKYO

■ INCOGNITO@BLUENOTE TOKYO

Incognito_transatlantic_rpm_2
 
 常に有機的結合体。

 人気のアシッド・ジャズ・ユニット、ブルーイ率いるインコグニートのブルーノート東京公演最終日の1stショウを観賞。ステージは左奥からギター(ヴォーカル)のブルーイ、中央奥にドラムのピート・レイ・ビギン、その右隣にベースのフランシス・ヒルトン、右端がキーボードのマット・クーパー。前列左からサックスのサイモン・ウィルスクロフト、トランペットのシッド・ゴウルド、トロンボーンのアリステア・ホワイトのホーン隊、中央前にはヴォーカルのトニー・モムレル、ロレイン・ケイト・プライス、ヴァネッサ・ヘインズといった布陣。

 結成30周年の新作スタジオ・アルバム『トランスアトランティック・RPM』の楽曲を含めながら展開する。今回のセット・リストを見ると、導入部からインコグニートの芽はこうやって成長してきたんだと言わんばかりの並びだ。「ルーツ」で“これから僕らのルーツとは何かを歌っていくよ”と端を発し、ブルーイが音楽というものの鮮明に影響を受けたと思われる「1975」で思い出を綴り、若き日のブルーイが感銘を受けたスティーヴィー・ワンダーについては「アズ」で語る。そして、ブルーイを音楽に駆り立てた1975年の翌年にヒットしたボズ・スキャッグスの名曲「ロウダウン」と続いていくのだ。

 成長と言えば、インコグニートというユニットも日々成長と変化を遂げている。一番にはヴォーカリストの変遷がある。ヴォイス・オブ・インコグニートのメイザ・リークは現在でもアルバムやステージに参加するが、毎回という訳ではなくなった。新作ではイマーニが不参加だったが、この公演でも同様。近年はメイザ、イマーニとともにステージを熱く盛り上げてきたジョイ・ローズがいわゆるインコグニート・ファミリーでの女性ヴォーカリストの主軸となっていたが、彼女も来日せず。シンガーは、かれこれ10年はブルーイが信頼を置ける男性ヴォーカリスト、トニー・モムレル(もう一人前の男として認められたからか、ブルーイから“やんちゃサル”と言われなくなって久しい)と、最近年から参加した(クラブ方面ではM-SWIFTなどのフィーチャリング・ヴォーカルとしても知られる)ヴァネッサ・ヘインズ、それと初来日となるロレイン・ケイト・プライス(新作のクレジットで“Lurine Cato”と表記されている人物か)の3人だ。
 トニー・モムレルの安定感は言わずもがなで、数多くのスティーヴィー・フォロワーの一人として呼ばれた彼は、スティーヴィーの「アズ」のメイン・ヴォーカルを任され、ヴァネッサ・ヘインズはジョイ・ローズの熱さにも負けないパワフルな歌唱で迫り、ロレイン・ケイトは品の良いヴォーカル・ワークでそのバランスをとるといった感じだ。
 ただ、ヴォーカリスト編成が4人だったことが多かったことを考えると、ほんの僅かだが物足りない気もしなくもなかった。もちろん、それは質が落ちているなどという語るに足らないことではないのだが。

 バンドに目を向けると、ドラムが名手リチャード・ベイリーからピート・レイ・ビギン(ちょっとだけジャスティン・ティンバーレイク風……笑)へ代わり、揺らぎを抑えたタイトなドラミングが目立ってきた一方で、ベースにフランシス・ヒルトンが配されたことで、以前よりも一層うねりを増したファットなグルーヴが前面に出てきたことは、個人的には嬉しい限り。この日も特にソロ・パートをフィーチャーされている訳ではなかったが、ブイブイと唸るようなボトムでサウンドの底上げに貢献していたのは、紛れもなく彼のベースだったことは間違いないところだ。

 中盤から終盤にかけてはおなじみの楽曲がズラリと揃う。ブルーイをヴォーカルに、いつの間にかフランシス・ヒルトンがキーボードに、マット・クーパーがドラムに、ピート・レイ・ビギンがベースに、そしてトニー・モムレルがカラフルなライトが点滅するマウスピース(?)を装着しながらブルーイが操作していたプログラミング・マシーンに配されたフリースタイル・ジャムや、“ファンクマン”なブルーイが愛して止まないブラジルのファンク・バンド、バンダ・ブラック・リオの「エクスプレッソ・マドゥレイラ」(新作アルバムに収録される前からステージで既に演奏済み)など、MCを含めて楽しげなパフォーマンスも繰り広げられたが、最近は「モーニング・サン」や「N.O.T.」が演奏されることが少なくなってきた。そして、何よりのトピックはスティーヴィーのカヴァー「ドント・ユー・ウォーリー・アバウト・ア・シング」が演奏されなかったことか。これも、1975年からの成長をさらに深め、変化が進化するための一つのステップなのかもしれない。

 本編ラスト「ナイツ・オーヴァー・エジプト」を披露し、恒例の出身地(出自)込みのメンバー紹介の後、ブルーイが続けたのは、“イマジネーションしてください”とのこと。「僕らが拍手を受け、ステージ・アウトしました。さあ、みなさんはどうしますか……(アンコールの)拍手ですね。さあ、ステージには誰もいません。ここからは想像力を働かせてください。みなさんの目の前に見えるのは控え室の光景です(ここで、控え室さながらの光景をメンバー全員がアドリブで見せる)。ん、拍手が少ししか聞こえない?(と手を耳にあてジェスチャーすると観客の拍手もより大きなものに)……あ、みんなアンコールの拍手が聞こえてきたぞ。さあ、ステージに戻ろう!……ってことで、今またステージに来ました(爆)」とアンコール待ちの控え室へのステージ・アウトを省略する配慮。これも流行のエコというヤツなのか。(笑)

 アンコール1曲目の「リーチ・アウト」はホーン隊のダンスが一つの見ものなのだが、なぜかこの日は3人とも直立不動で動かない。時折フェイントを掛けるように首をグッと動かそうとするのだが、やはり直立不動のまま。2番になっても同じなので、その姿についつい目をやる観客も多くなる。と思ったら、2番の途中から急にいつものダンス・ステップを披露しながらの演奏に。焦らされ過ぎたのか、そのダンスが始まった際には、観客からオオーッと声があがったほどだ。このあたりにも常に観客を楽しませたい……という気配りが、ブルーイだけでなくメンバー全員に行き届いていることが解かる。

 清爽に満ち溢れたファンキー・サウンドは、人や音の出入とともにインコグニートに常に有機的な結合を与えている。入れ替わりが常にある中で、高い質の楽曲をライヴでも提供してきたのは、ひとえにブルーイの統率力と技量に関わるところが大きい。UKから“大西洋を横断”しアメリカに上陸、さらに日本を始めアジアへも向かうこのユニットは、さまざまな種子を受け入れ、自ら芽を育んできた。新作アルバムの裏ジャケットにあるように、ドアが開き光が差す方向へ歩みを進めるブルーイと同様、新たな変化への扉は開かれ、インコグニート・サウンドは成長していくのだと思う。その進化は留まるところを知らないのだ。そんな楽しげかつ自分の音楽に真摯に向かい合ったステージは、今後さらに上昇していくはずだ。
 
◇◇◇ 

<SET LIST>
01 Roots
02 1975(*)
03 As(Original by Stevie Wonder)
04 Lowdown(*)
05 Deep Waters
06 Put A Little Lovin' In Your Heart(*)
07 Colibri
08 Still A Friend Of Mine
09 Jam (Bluey Rap)
10 Expresso Madureira(*)
11 Talkin' Loud
12 Nights Over Egypt
≪ENCORE≫
13 Reach Out
14 Everyday
15 OUTRO ~ One Love(Original by Bob Marley)

※(*):『TRANSATLANTIC R.P.M.』収録曲
 

<MEMBER>
Jean Paul "Bluey" Maunick (G,Vo)

Tony Momrelle (Vo)
Vanessa Haynes (Vo)
Lorraine Cato-Price (Vo)
Sid Gauld (Tp)
Alistair White (Tb)
Simon Willescroft (Sax)
Matt Cooper (Key)
Francis Hylton (B)
Pete Ray Biggin (Ds)

◇◇◇

 正式発表ではないが、どうやらいくつかの情報を知るに、インコグニートは来年(2011年)4月にも来日するようだ。半年しないうちにまた来日公演となるが、それも毎回高い集客率を誇る人気公演だからだろう。
 ただし、一部ではヴォーカルのトニー・モムレルが今回限りで一旦インコグニートのステージに帯同しないとの話も。シャーデーのワールド・ツアーに帯同するためとの噂も。それが本当なら、是非シャーデーに日本公演をしてもらって、形を変えた再会を果たしたいものだ。


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