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Chateau Grand Vin日記

◯◯◯プロデューサーJの日常のつれづれ

寿司 中川(高松市御坊町)

2010-03-02 10:34:07 | Weblog
 「あまりの感激に笑うしかない状況であった」

これは、あの、あまから手帖・編集主幹、門上武司氏がその店を評して語った言葉である。
 高松市中心街の丸亀町商店街とライオン通を結ぶ通りに面してたたずむ店舗は外界に対して全く主張しておらず、今まで仕事で毎月のように前を通り過ぎることがあったものの、それが寿司店であることに気付かなかった。店頭にただ小さく「中川」と書かれた表示があるのみである。
 店内は明るく、とても清潔感がある。三十代半ばのまだ若い店主、中川紀雄さんはあたたかい笑顔で迎えて下さった。

 まず初めに、美しく背の高い陶製の器に小振りなつまみ(肴)が乗せられる。瀬戸内でとれた新鮮な刺身は臭味が全くない上、歯応えがよく旨味もある。相当に上質なものであることが伺える。
 
 次はその刺身を使って寿司が握られる。差し出された店主の手のひらから直接受け取る。こうすることにより、(握りたてで)最も良い状態の寿司は、人肌のぬくもりに保たれたシャリが冷めることなく即座に私の口中へと運ばれるのである。また、人の手から人の手へと渡ることで何ともいえない「心のつながり」「温かみ」を感じることもできる。

 その後は再び、つまみ(肴)、そして、その魚を使った握り→つまみ→握り→つまみ→握りと繰り返されていく。 

 その際に供される日本酒についても触れなければならない。香川には丸尾本店(香川県仲多度郡琴平町榎井93)の「悦凱陣(よろこびがいじん)」という銘酒が存在する。冷やで飲んでも燗にしても美味い酒である。当店の冷蔵庫にはおびただしい種類の悦凱陣が眠っており、出される各つまみや握りに対し最も適した種類の悦凱陣が最も適切な温度で合わせられるという訳である。 
 
 全体を通して感じたことであるが、「一つ一つのつまみや握りの大きさと温度」 「その味付け(醤油は少なく塩 又は ぽん酢やすだち)」 「供される順序」 「マリアージュされる悦凱陣の種類と温度」に至るまで、いい意味で全て中川紀雄さんの緻密な計算により成り立っていて、その完成度はまさに寿司という範疇を超えた「寿司懐石(もしくは悦凱陣懐石)」と呼ぶにふさわしいものであった。

 コースの終盤に用意された悦凱陣は常温で長期間熟成されたもの。色は茶褐色で紹興酒の様な甘味を持ち、西洋料理における貴腐ワインの役割を果たす。

 最後に出されたデザートのアイスクリームを半分食べた時点で、その器に悦凱陣が注がれる。デザートから「日本酒カクテル」へと変化する。

 こうして二時間に及ぶ「中川劇場」は終幕をむかえた。そして、そこには類い稀なる感性を持つ中川紀雄さんの顔を見ながら、ただただ笑っている私の姿が有ったのである。




「寿司 中川」

香川県高松市御坊町10番地7

TEL 087-821-4222





写真右: 門上武司さん

写真左: 中川紀雄さん

あまから手帖 2009年8月号より

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