Chateau Grand Vin日記

◯◯◯プロデューサーJの日常のつれづれ

花垣(奈良市 学園前)

2010-03-25 12:29:36 | Weblog
 「人は何故、何のために物作りをするのだろう」  

「何が本当にいい物作りなのだろう」

その答えを求めて旅をつづける。
 
 今回の旅先は奈良市、学園前。関西でも屈指の高級住宅地であり「奈良の芦屋」と呼ばれている町である。
 学園前南口から南に向かって徒歩10分、タクシーでワンメーターのところに、「花垣」は存在する。

 160坪あるという美食の屋敷はエントランスが美しく、とても築50年とは思えない。案内されたのは日本庭園の池の畔に、ひっそりとたたずむ離れの小部屋であった。 畳敷きの部屋は6畳程の大きさで床暖房が入れられている。ここではBGMは無く、鳥の声や風の音がその役割を果たす。すり硝子の小窓を開けると池の向こう側に本棟の「8人掛けテーブルを配した美しい和室」が見える。

 店主、古田俊彦さんは40代半ば。奈良で高名な料理人であったお父様について子供の頃から全国のホテルや料亭を渡り歩き「研ぎ澄まされた舌」を手に入れられたと聞く。料理人としての手ほどきを父親から受け、骨董についても深く学ばれたそうである。25歳の時に独立しJR奈良駅近く、7坪程のスナックの居ぬき物件で花垣をスタートさせた。その後、古都情緒あふれる「奈良町」に店舗を移転され、今から7年程前に現在の場所に移られたそうである。昼二組、夜二組の、一日限定四組の完全予約制で営まれ、食材の調達は予約後に「あらゆる意味で一級品のもののみ」が集められるそうである。


「これは江戸時代中期のものです」

店主、古田俊彦さんがそう説明された美しい黒塗り椀の中には長崎産天然特大アワビが小さくきざまれた汁物が入っている。利尻か礼文の極上昆布で取られたと思われる出汁はうす味ながら、アワビから出るエキスも加わって、しっかりとした旨味があり身体に優しくしみ込んでくる。


「こちらは魯山人です。亡くなる五年前(1954年頃)に作られたものです。この二枚で70万です」

古田さんは焼き物(魚)が入れられた器について語られた。魯山人は器単体で見たときよりも料理を盛り付けた際に急激な輝きを放つそうである。食べた後で恐る恐る皿を裏返すと「呂」というサインがなされていた。


 店主、古田俊彦さん自らが「大正時代後期の赤膚焼」の器に趣きあるワゴンから目の前で盛り付けて下さったのは、宮崎市内で有機飼料のみで育てられた稀少牛「尾崎牛」のリブロースである。あっさりして食べやすいが口の中で旨味が弾けた。


 予約した際の古田さんとの電話のやり取りを思い出す。
予算をお伝えしたところ、

「チリの大地震で津波が起きた後、本当にいい魚が獲れないのです。その翌週ですと少しは状況が良くなると思いますので日程の都合がつきましたら日にちを変更されてはいかがでしょうか?」

どうしても、その日しか行くことが出来ない旨を伝えたところ、予定していた金額よりも5千円下のコースを勧められ更に、

「もし、その日いい魚が手に入らなければ、そこからまた値段を引かせていただきます。私も商売(…金儲け)だけでこの仕事をしているわけではありませんので…」

とても穏やかで丁寧で気持ちのいい電話応対であった。今から考えると、あの時から懐石料理のコースは始まっていたのかもしれない。

 コースの一品一品が運ばれるごとに古田さん自らがスタッフの後から部屋に入って来られ、料理や食材、器の説明をしてくださる。自然と店主との一体感が生まれてくる。これも一日限定四組が成せる業なのであろう。


「皆さんはスーパーとかで買い物をされていると気付かれないと思いますが、この一年程前から驚く程、いい魚が獲れないのです。………本日、刺身でお出しした魚もやっと上がった一匹を数軒の魚屋がジャンケンをして、たまたまうちの取引している魚屋が手に入れたものです。………一見、美味しいと思える魚も汚れた海域で化学飼料をふんだんに使って脂身たっぷりに養殖されたものだったりします。私は、そんなお客様を騙すようなことだけはしたくないんです」


 もしかすると、予約の電話の際に『商売の為だけにこの仕事をしているわけではない』と話されていたのは、料理というキーワードを使って今の「地球環境が置かれている状況」や「食料事情」「自然の大切さ」等を伝えていくということなのかもしれないと思い問いかけてみたところ、


「 ただ、来て下さったお客様に喜んでいただきたいだけなんです」と穏やかに、そして、しっかりとした表情で話された。


「何故、何の為に物作りをするのか」
「何が本当にいい物作りなのか」が見え始めた頃、私は花垣を後にした。

 いい映画がそうであるように、見た直後よりも一日後、三日後、一週間後に感動が大きくなる。そして、あの日から二週間経とうという今もその余韻はつづいている。

「あの料理をまた食べたい」という気持ちはもちろんあるが、私は、それ以上に青竹のごとく真っすぐで清(さや)かな心を持つ、あの「古田俊彦という料理人」にまた会いたいと強く思ったのである。






「御料理 花垣」

奈良市学園南2-13-2

TEL 0742-45-1288

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