ハッピーライフ!

2度と戻らない日々の記録と記憶。

"Tide Table" @SFMOMA

2006年01月25日 | 異国の旅

MOMA(The Museum of Modern Art~近代美術館)というとNYを連想される方も多いと思う。しかし、実際にはサンフランシスコにも、MOMAがある。通称SFMOMA

僕の滞在先からは、ほんの目と鼻の先。部屋からも良く見える

よく晴れたある日、一人でそこを訪れてみた。
そこで近年稀に見る感動との出会いがあった!

確かに、久々に観る、大好きなダリやマグリットの肉筆、或いは、ウォーホルのリズ(・テイラー)や、余りにも有名なジャスパージョーンズのFLAGという作品を観れた感激はあった。

『うぁー本物だぁ!へーこぉなってんだ?』

って感じの、オドロキ。

しかし、この日僕の心を鷲掴みにしたのは、最上階にある巨大なマイコー・ジャクスン&愛猿バブルスの陶器、、、

ではなかった。(いや、正直これにはずっこけた。意味わからん。実物大より二回りでかいのだ)


最上階の一番奥のスペースで、ひっそりと上映されていた、南アフリカ出身のアーティストWilliam Kentridgeの2003年に製作されたTide Tableという作品。

どういう技法で製作されているのかは判らないが、一見した印象は、木炭とパステルで作られたアニメーション。重ねないでどんどん別々の紙に描き変えてるのかな?一つ一つの描線は正確で、少ないタッチで確実な物の形や、人物の表情を細かに描写している。僕が観た環境だと色はネイビーと白のモノトーンに近い。

物憂げなアフリカの民族音楽の不思議な旋律に合わせてストーリーが展開される7~8分程度の作品。台詞は一切無い。

身なりの良い白人男性が、穏やかに寄せる波打ち際にデッキチェアを置きゆっくりと経済紙を読んでいる。そこで彼がまどろむ様に見える。あるいは寝てしまって、この先は夢なのかもしれない・・・



白人の少年が、砂浜で砂の城を作っている。或いは、海に向かって小石を投げて水切りをしている。それを黒人の女性が見つめている。

黒人の群集が洗礼の儀式?を行っている。黒い牡牛が波打ち際の中からすぅっと現れてくる。何かのメタファーか?

傍の建物、ホテルか、のバルコニーから様子をうかがうデッキチェアいた男。



黒い牡牛が、小屋の中に入っている。天井からシャワーのようなものを浴び、みるみる満たされていく水で、牡牛は頭を残して水没してしまう。

水が引くのと同時に牛は、溶けて白骨化してしまう。

労働者がぎゅうぎゅう詰めに横たわる宿泊所、あるいは死期を待つ末期患者の病棟にも見える部屋。皆黒人に見える。ベッドの上から息も絶え絶えの男の顔が映り、次の瞬間には、彼が消えたベッドの窪みが映される。

波打ち際に遺骸を抱えて立つ男。やがて波が洗うと、手にしていた遺骸は水中に屠られてもう手元からは消えている。



波打ち際のデッキチェアで眠る男。女性が、彼の手を優しく撫でる。
彼が抱えている新聞紙が風に煽られはためき、やがて一枚、また一枚とゆっくりと飛んでいく。とても印象的な情景。
彼女が裸足で波打ち際を歩く、その歩に合わせて、その新聞の一枚一枚が、ゆっくりと足下に落ちていく。まるで赤絨毯を転がすように。

少年が、海に向かって水切りをしている。起き上がったデッキチェアの男も同じように水切りをする。フォームが酷似している。

或いは、少年は夢の中で彼が回想していた少年時代の彼自身の姿だったのかもしれない。。。

僕は今回までこの、William Kentridgeという作家を知らなかった。しかし、彼のバイオを見てみると、南アフリカで生まれ育った白人の感じるアパルトヘイトへの思い、経済的略奪と、人権的略奪、死と隣り合わせで歴史を重ねてきた黒人達へのオマージュとも取れる作品が多いようである。

株式チャートが掲載された新聞紙を歩く黒人女性の足取りは彼女の人生の歩みの象徴なのかもしれない。それが、水切りをする少年時代と、スーツに身を包む原題のこの男性をも繋ぐ時間の軸なのか?

独特のタッチと、音楽に、思わず続けて観てしまった。

調べてみると、DVDも無いようであるし、時々世界中のどこかの美術館を廻っているようである。この文を読んでみてご興味を持った方は、機会があれば、是非観て頂きたい。

福田和也は、「作家の値打ち」で、純文学とエンターテインメントの違いについて、純文学とは、読んだものを何か不安で不快な思いにさせるもの、と書いていた(表現は忘れたが)。先日訪れた岡本太郎美術館で見かけた太郎の言葉にも、芸術が美しいはずは無く、不気味なものである、と言う主旨の言葉があった。


このショートフィルムを見て、久々に、何と表現して良いのかわからないけど、ハートが揺さぶられるような、切ない、懐かしい、苦しい、でも安らぐ、そんな矛盾した感覚に支配された。

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