美佳が「今日、赤ちゃんに会った」という時は、本当に嬉しそうな顔をする。母から「触らなかったでしょうね」と念を押されると、「かわいい男の子の赤ちゃん」etc更に母を挑発して会話が弾むようになった。
”赤ちゃん”という対象物に対する感情を共有できるようになったことが、会話を成長させる基盤になっている。
赤ちゃんを巡る会話のパターンは多くはないが、言葉と感情、ジェスチャーが一体となって、本当の意味での会話に成長しているように思う。”赤ちゃん”というテーマは、美佳にとっては数少ない”会話を楽しむ機会”になっているのだろう。
最初のころは”単なる言葉遊び”の域を出なかったのが、会話を積み重ねシチュエーションを拡げていくうちに、言葉と感情がシンクロナイズするようになり、表情やジェスチャーが付随するようになった。
こうした”言葉が意味するもの”のイメージを、他人と重ね合わせることができる対象を増やしていくことが、美佳の世界を拡げる契機になるのだが。