Prog-ING日記

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グリュフォンの卵

2007-01-04 08:59:37 | SF本

ニューヨーク生まれのベテラン作家、マイクル・スワンウイックの短編集。短編集といってもヒューゴー賞受賞作×5編、ネピュラ賞候補作×2、スタージョン賞受賞作×1入りの10編という濃厚な内容だ。今まで邦訳の少ない作家だったのが不思議なくらい。非常に考えさせられる深いいテーマを扱った作品が多かった。

タイトル作の「グリュフォンの卵」のテーマは「人間は人類の愚かさから世界を守れるか」という物で、月面基地で密かに研究されていた、人間の脳の配線を再編して愚かさから解放された次世代人類を作る実験が暴走し、基地内にいた人間が意識の焦点が結べない「病苦者」になってしまう。その状況の中で基地を救おうと賢明に努力する人々と、集団になることでどうしても愚かな暴力に走ってしまう人間像を描いている。果たして人間という種は救いがたい愚かな種族なのか。月面基地から眺める地球では殲滅核戦争が始まる中、人類に希望はあるのか。という重厚な作品。人間性に付いての鋭い洞察がとてもユニークだ。

一方「ウオールデンスリー」では、強制的な笑いの回路を植え付けられ、暴力性を封じられた軌道植民地の人々を描き、「これは正しい世界なのか」を問う作品。

そのほか、とてもユニークな設定でタイムトラベルを扱った「時の軍勢」「テラノザウルスのスケルツオ」「クロウ」の3作品も魅力。1との設定を考えるだけでも大変なのに、3作ともタイムトラベルにまつわる制約や背景の設定が違っている。

そして、別の意識形態とのファーストコンタクトを描いた「スローライフ」と「死者の声」は読み応えのあるハードSFに仕上がっていて、短編なのに長編を読み終えた様な読後感を与える情報の濃密さがすごい。

もっと邦訳をだしてほしい作家だ。



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