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あふれた愛
天童 荒太 著 集英社文庫 / 2005.5
生きていくことの辛さを包み込む珠玉の短編集。
理解しあえないこと。
ひとと同じように生きられないこと。
大切な人を失うこと。
空回りする愛情・・・。
様々な生きにくさを抱えた普通の人々を描く短編集。
この4編すべてがあなたのための物語です。
『とりあえず、愛』
『うつろな恋人』
『やすらぎの香り』
『喪われゆく君に』
先日、天童荒太さんの『悼む人』を読み、確か、積読コーナーに『あふれた愛』があったことを思い出し、失礼ながら、今ごろ読むことに・・・。
今年も終わろうとし、来年はどんな年になるんだろう?と不安の方が大きいところでもって(私は極度の心配性、らしい)この本を読み、人にはそれぞれ事情があり、良い意味でも悪い意味でも、いろんな人がいるんだと改めて感じました。
また、人生は決して焦らないこと、を心のどこかに忘れずに留めておこう、ということを意識しました。
『とりあえず、愛』
夫婦であっても他人であるということへの危機感みたいなものを感じました。
自分のことで精一杯なのは解るけれど、結婚し一緒に暮らすことを決めた以上、相手を気にかけ、時には思いやりの気持ちを表現することを忘れてはならないんですよね。
まさに、『オレがオレがの“が”を捨てて、おかげおかげの“げ”で生きる」なんですね。
『うつろな恋人』
これはちょっと辛かったですね~。
彰二もまだ完治していない状態だったということで決して責められないというのが歯がゆかったです。
これは、センターの職員の過ちなんですが、テーマはそこではありませんので、気持ちを切り替えて読み進めなくてはなりませんでした。
彰二の反省は伝わってくるので、智子もきっと乗り越えられるだろうと思えますが、それでもやはり辛いです。。
私には智子の心の闇が理解できないだけに、やはり歯がゆさみたいなものが残りました。
『やすらぎの香り』
それぞれに生まれた時点で背負っているものが大き過ぎ、親は大人はどうしちゃったんだろう?と思わされました。
取り返しがつかないとは思わないけれど、せっかく生まれてきた命に対して、どのように責任感を持って育てているのかと疑問に思ってしまいました。
ただ、このお話は、その親や育った環境がテーマではなく、精神的にダメージを受けてしまったけれど、いかに彼、彼女たちらしく前進していくかというのがテーマなんだと思います。
生まれた時からノビノビと育つ環境があれば、辛い思いをせずに済むのに・・と、なんとか環境がよくなってくれたらと願わずにはいられませんでした。
『喪われゆく君に』
『悼む人』の原点かもしれないですね?
浩之が静人に見えたワケではありませんが、でも、浩之も幸乃もそれぞれに“死”というものを尊び理解しようとしていたんだと思いました。
そう言う意味で、浩之や幸乃を通じて、“死”と向き合うことを意識させられるお話だったと思います。
そして、浩之の成長が見られる展開も素晴らしかったと思いました。
人はやはり何かのきっかけがあれば成長できるんだし、そのきっかけをきっかけと捉える精神を持っているんだと思わせてくれました。
短編ながら、やはり手が抜かれていない、力と気持ちのこもった天童作品でした。