ただの映画好き日記

観た映画と読んだ本の自分用メモ。

悼む人 / 天童荒太

2008-12-13 | 本 天童荒太


  悼む人

  天童 荒太 著     文芸春秋 / 2008.11



  週刊誌記者・蒔野が北海道で出会った坂築静人(さかつき・しずと)は、
  新聞の死亡記事を見て、亡くなった人を亡くなった場所で「悼む」ために、全国を放浪している男だった。
  人を信じることが出来ない蒔野は、静人の化けの皮を剥(は)ごうと、彼の身辺を調べ始める。
  やがて静人は、夫殺しの罪を償い出所したばかりの奈義倖世と出会い、2人は行動を共にする。
  その頃、静人の母・巡子は末期癌を患い、静人の妹・美汐は別れた恋人の子供を身籠っていた――。
  静人を中心に、善と悪、愛と憎しみ、生と死が渦巻く人間たちのドラマが繰り広げられる。
  著者畢生(ひっせい)の傑作長篇がいよいよ登場です。






読み終えるのに10日もかかってしまいました(毎日映画も観ていましたが・笑)。
読みながら、どうしても一つ一つの事を自分に照らし合わせてしまい、なかなか先に進めなかったです。
読み終えた今、これから読む人に伝えたいのは、時間に追われたり、暇つぶしに読むのではなく、可能な限り時間をかけて、出来るだけ多くのことを素直に噛み締めながら読んで欲しいと思いました。

静人の悼む行為は、彼なりの想いが蓄積された結果だと思うので、それもアリだと思います。
なので、それを誰にも止めることも、咎めることもできないということを先に理解しないと、クリアな気持ちで読むことは難しいと思いました。


自分の死について考えさせられたことは、私は、私の死後、誰かに覚えていて欲しいとは今は思いません。
ただ、私の亡骸を見送って頂ける際、ほんの一瞬でもいいので、私自身や、私の死に対して、真っすぐに向き合って欲しいなと思います。
静人のように、私は誰を愛し、誰に愛され、何に感謝されたかということではなく、私という人間が死んだんだなと、真っすぐな気持ちで受け止めて欲しいと思うのです。それだけで充分です。
私のことを覚えていてもらったり感謝してもらったりということではなく、私から感謝の気持ちでもって愛した人やお世話になった人を見守っていきたいのです。

自分に近しい人の死について考えさせられたことは、やはり、お見送り(お別れ)のことでした。
きちんと受け止め、感謝し、労いの気持ちを込めて、真っすぐな気持ちでしっかりとお見送りしたい、すべきだと思いました。
その後、忘れる日もくると思うけど、忘れることに罪悪感を感じる必要はなく、だからこそ、その人の死をきちんと受け止め、お別れができればいいのではないかと思いました。

自分に遠い方々の死について考えさせられたことは、静人のようなことは出来ないのは当然なので、ニュースや何かで見聞きした時には、せめて、気持ちの中でご冥福をお祈りできたらいいのかな、と思いました。
静人は、常に、亡くなった状況ではなく、例え犯罪者であろうとも、その人が誰に愛され、誰を愛し、何に感謝されたのかを1番に考え悼みます。
死の原因に対する憤りを心に残すのではなく、亡くなられた方の良い思い出を覚えていたいという姿勢に、いつしか、残されたご家族も気持ちの整理が出来る日がくるのではないかと感じました。

このお話で、私が1番印象に残ったのが静人の父・鷹彦でした。
彼の肝心な時に発する一言の重さが真っすぐに静人に伝わり、静人の旅の支えでもあったのではないかと思いました。
そして、静人の母・巡子の死の準備には言葉では言い表せない程の感銘を受け、生きる努力と精一杯の死の迎え方を学んだような気持ちになりました。
この両親に育まれた静人が悼む人となったことに、運命とか神に選ばれたとかではなく、リアルな人間として築き上げてきたものを感じます。
なので、倖世を愛したこともアリなのかなと思いました。

エピローグは号泣でしたが、エピローグと同じくらい、天童さんの『謝辞』にも涙が出てきました。
天童さんでありながら、違和感なく静人に見えてきて、このお話を完成させるまでの7年もの長い月日は、静人の旅の長さ(これから先も続くであろう)に思えてきます。
そう感じた時、時間をかけて一つ一つを理解し、また、自分と照らし合わせながら読んできたことに、少なからずですが、天童さんや静人に失礼をせずに済んだのかな思いました。

大絶賛とか面白かったとか感動したとか、そういう感想は私の場合は当てはまらなかったのですが、こういう本があるんだなということに驚き、これは天童さんだから書き上げられたのかなと、いつもの読書とは違う感覚になりました。
自分の死、近しい人の死、遠い人の死など、死について考えさせられましたが、それは生きることを考えさせられたとも言えると思いました。
自分が納得出来る死を迎えるにはどうやって生きて行くのか、近しい人の死を見送った後、何を感じ、何を受け取りその後を生きるのかなど、、、。
だから、誰を愛し、誰かに愛され、何に感謝されたのかが必要なのかもしれないですね。。



文芸春秋/『悼む人』特設サイト

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