マーケットが注目していた23日の衆参両院の閉会中審査における植田和男・日銀総裁の発言は、過度の市場変動が繰り返されないように配慮する慎重な姿勢が目立った。不安定な金融・資本市場が経済・物価に与える影響について緊張感を持って注視するとしつつ、日銀の経済・物価見通しが実現する確度が高まれば、金融緩和の調整を行う姿勢は変わらないと述べた。市場心理が落ち着けば、次の利上げの準備に入る可能性があることを示し、市場の一部にあるかなり長い期間にわたる利上げ検討なし、という思惑も打ち消した格好だ。
<内田副総裁と違いない、植田総裁の発言に反応した市場>
午前の衆院財務金融委員会での植田総裁の発言では、一部のメディアが「見通しの確度が高まっていくことが確認できたら、金融緩和の度合いを調整していくという基本的な姿勢に変わりはない」との部分に比重を置いて報道し、市場参加者の一部から「植田総裁の発言は予想以上にタカ派的」という声が出ていた。
だが、午後の参院財政金融委員会で、内田眞一副総裁が8月7日の講演で「金融資本市場が不安定な状況で、利上げをすることはない」と述べた発言との関連を質問され、植田総裁が「私と内田副総裁に違いはない」と述べたことで市場に安心感が広がり、日経平均株価は前日比153円26銭高の3万8364円27銭で取引を終えた。
午後の質疑では「現在も市場はやや不安定な動きをしている」と述べるなど、植田総裁の発言はバランスを取りつつ、短期間のうちに利上げの検討や準備に入るのではないかとの思惑を打ち消すような配慮が見られた。
<維持した利上げへの構え、背景に円安再燃の警戒も>
その一方、午前の質疑で植田総裁は、日銀の経済・物価見通しに沿って現実の日本経済が進展していけば、展望リポートの見通し期間の後半を念頭に「そういう時期に金融政策は中立的な状態になっている」と言明。7月31日の会見で示した徐々に利上げしていくとの見解をあらためて示していた。
市場の一部には、年内だけでなく年明けもしばらくは、現行の金融政策が維持されて利上げ着手はかなり先との見通しも浮上していた。もし、この見方が市場で一定のパワーを持つようになれば、161円台から145円前後まで修正されたドル/円が、再び円安方向に動き出すリスクを日銀は警戒したのではないか、と筆者には映った。
<パウエル講演後の市場動向、日銀の政策に影響>
23日に行われるジャクソンホール会議でのパウエル米連邦準備理事会(FRB)議長の講演で、今後の利下げのパスがどこまで明らかになり、それをマーケットがどのように消化するのか。
米国発の市場変動の行方によって、日銀の利上げパスのイメージも大きく動くだろう。植田総裁の発言を消化したマーケットは、パウエル議長の講演内容を織り込んで新たな均衡点を模索することになる。