一歩先の経済展望

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節約意識した一部企業の値下げ、拡大なら物価に下方圧力も 注視必要に

2024-08-28 11:39:19 | 経済

 これまで輸入物価の上昇を起点にした食品値上げのニュースが目立ってきたが、夏場に入って値下げを発表する企業のニュースがポツポツと出てきている。食料品など日常生活に必須の商品購入で消費者の「節約」が目立ち始め、一部の企業でその対応策としての値下げが実行されているようだ。

 日銀の氷見野良三副総裁は28日の甲府市での講演で、消費は腰折れしないとの見方を表明したが、節約の動きが一段と強まってさらに値下げの動きが広がっていくようなら、日銀の物価見通しに下方圧力がかかりかねない。企業の値下げの動きが同業他社へと広がりを持つのかどうか注視する必要があると考える。

 

 <値上げの波間に値下げの動き>

 食品を中心にした企業の値上げは、消費者の生活に直接的な影響を与えるインパクトがあり、与党の有力政治家から値上げの原因として円安の進行が指摘され、日銀の利上げを促すような声まで出てくる事態となっていた。

 実際、日常生活に直結する食品の値上げは顕著で、帝国データバンクの調査では2023年に3万2396品目で平均15%の値上げが実行された。今年に入っても11月までの値上げ予定分も含め、1万1617品目で平均17%の値上げが発表されている。

 だが、足元では消費者の節約志向に対応した企業の値下げ戦略も目立ち始めている。イオンは8月21日ー31日の期間限定で、全国約2000店舗を対象に飲料、冷凍食品、日用品など67品目の値下げを実施中。同社はすでに7月3日から32品目の値下げを先行して実施している。イトーヨーカ堂も7月1日から100品目の食品と日用品を値下げした。

 日本生活協同組合連合会と全国の生協は9月1日から、カップスープやトマトケチャップ、冷凍食品など約180品目を値下げする。

 コンビニでもセブンーイレブン・ジャパンが7月16日から従来よりも手ごろな価格の「手巻おにぎり」を128円(税)で投入。ユニーが7月1日から、アピタ、ピアゴ、ユーストアの130店舗で、最大300品目の値下げを展開している。

 さらにニトリが8月5日から165アイテムの家具の値下げに踏み切った。同社はすでに6月17日から日用品などの300アイテムで最大20%の値下げを実施している。

 

 <氷見野副総裁も消費者の節約志向に言及>

 こうした一部企業の値下げは、長期化する消費者の節約志向に対応した戦略と見て取れる。6月の家計調査によると、2人以上の世帯の実質消費支出は前年同月比マイナス1.4%と落ち込んでおり、今年の春闘での大幅な賃上げにもかかわらず、消費者の防衛的な行動が統計上のデータでは続いていることを示している。

 この点に関連し、日銀の氷見野副総裁は28日の甲府での講演の中で「ハレの日消費や、こだわり分野では対価を惜しまないといった動きもみられるが、全体としては、消費者の節約志向が広まっている、というのは事実だろうと思う」と足元の節約志向に言及した。

 だが、先行きは「春闘の結果が実際の手取りに反映され、高めの夏のボーナス、所得税減税の効果、さらには昨年に比べれば物価上昇のペースも落ち着く、といったことが組み合わさってくるはずなので、メインシナリオは、消費は腰折れしない、という見方でいいのではないかと思う」との見解を示した。

 氷見野副総裁の言及したとおりに先行きの消費が拡大すれば、賃上げとともに消費に活気が戻り、モノとサービスの価格の両方で押し上げのパワーが働き、2024年度の消費者物価指数(除く生鮮食品、コアCPI)の前年比プラス2.5%、25年度の同2.1%という見通しに沿った動きになる可能性が高まる。

 そのような展望を描ける確度が高まるなら「金融緩和の度合いを調整していく、というのが基本的な姿勢」と氷見野副総裁も講演で述べている。

 

 <値下げの動き、同業他社に広く波及なら物価に影響も>

 そこで注目するべきは、足元で散見される企業の値下げの動きが広がるのかどうかだ。一部の企業が値下げで販売数量を増やし、売り上げ増と営業利益増に結びつけていると同業他社が見れば、追随して値下げを実施する動きが急速に広がるかもしれない。

 他方、日銀の予見しているように賃上げによって消費者の購買力が上がり、値下げせずに目標の売上高と営業利益を達成できると予想する企業が多ければ、値下げの動きがCPI全体に影響を及ぼすというデフレ期に逆戻りするような現象にはならないだろう。

 その意味で9月から年末にかけての企業の価格設定動向や消費の状況を示す経済データの変動は、大きなメッセージを包含している可能性があると指摘したい。

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