一歩先の経済展望

国内と世界の経済動向の一歩先を展望します

日本株大幅下落につながった米景気失速懸念、注目される政府・日銀の判断

2024-08-02 14:06:29 | 経済

 2日の日経平均株価は、前日比2216円63銭安の3万5909円70銭と3万6000円の大台を割り込んで取引を終えた。今年2月以来の水準に逆戻りした背景には、米国の景気失速懸念が急速に台頭し、ハイテク株を中心に米株の下落懸念が膨らんでいることや、日銀の利上げ継続姿勢に対する海外勢の懸念がある。

 日本時間の2日夜に発表される7月米雇用統計の結果次第では、米株が続落するリスクがあり、その場合は週明け5日の東京市場で日経平均が一段安になることも十分にある。米景気のソフトランディング期待から失速懸念への市場心理の転換が一段と進むのかどうか。米雇用統計を受けた2日のNY市場の動向は、東京市場と日本経済にとっても大きな節目になりそうだ。

 

 <利上げ期待の銀行株も下落、若い個人投資家に心理的圧力も>

 2日の日経平均株価の下げは、日銀利上げとその先の利上げ期待に支えられてきた銀行株にも下落圧力がかかったことが大きな特徴の1つとなった。日銀が利上げを決めた7月31日の日経平均株価の大引けは3万9140円だったが、そこから3200円を超す下落となり、利益の出ている銀行株を売って損失を埋める取引が目立っていたことを印象付けた。

 また、新NISA(少額投資非課税制度)の利用をきっかけに株式投資を始めた個人投資家の売りも目立っていたとの声も市場では多く聞かれ、その中には若い世代が多く含まれていたとの見方もあった。

 日経平均の3万6000円台は今年2月に上昇相場が本格化する直前でもみ合っていた水準であり、2日の大引けで3万6000円が維持できるのか注視されていたが、投信などの売りに押されてあっさりと割り込んだ印象だ。

 

 <急浮上した米経済失速懸念の背景>

 日本株の大幅下落につながった最大の要因は、米国で浮上した景気失速懸念の台頭だ。米供給管理協会(ISM)が1日に発表した7月の製造業総合景況指数が前月の48.5から46.8へと急低下し、マーケットの警戒感が一気に高まった。中でも生産の指数が前月から2.6ポイント低下の45.9と、約4年ぶりの低水準に落ち込んだことが注目を集めた。

 また、決算発表でもアマゾン・ドット・コムが1日に発表した第2・四半期決算の中で、第3・四半期の売上高見通しを1540億─1585億ドルとし、市場予想平均の1582億4000万ドルを明確に上回ることにならず、株価が引け後の時間外取引で下落した。インテルも1日、15%の人員削減と第4・四半期から配当停止を発表。株価は時間外取引で一時約20%下落した。

 マクロとミクロの両面で個人消費の落ち込みを起点にした景気失速の気配を感じた1日のNY市場は、10年米国債利回り(長期金利)が12ベーシスポイント(bp)低下の3.985%まで下がったにもかかわらず、米株の主要3指数がそろって急反落。特にハイテク中心のナスダック総合が2%超の下落となったのは、2日の日本株下落に大きな影響を及ぼした。

 つまり、これまでの米金利低下→米ハイテク株上昇から米金利低下→ハイテク株下落への変化は、市場心理の「ソフトランディング期待」が「景気失速懸念」に転換しつつある証拠ではないか、との見方が広がったということだ。

 

 <浮足立つ米市場、不安心理が東京市場に波及>

 市場の中には、9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)での利下げ開始は遅きに失しているとの声も出始め、9月に25bpの利下げでなく50bpの利下げがあるのではないかとの見方も浮上。市場の利下げ幅の織り込みは0.34%と25bpをすでに上回っている。

 筆者の目から見ると、米市場は浮足立っていると映ったが、その「焦り」のような心理が東京市場に増幅して伝播し、日経平均株価がポイントの3万6000円を割り込んだと思う。 

 一方、株価の総崩れに対し、ドル/円は2日の市場で148円台を維持し、一段の円高にはなっていない。1日の当欄で指摘したように、今後は145円を割り込むかどうかが分かれ道になる。もし、140円に接近するようなら日経平均株価は3万5000円割れが視野に入るだろう。

 

 <株価の大幅下落、注目される政府・日銀の評価>

 2日の大幅な市場変動を政府・日銀がどのようにみているのか、内外の市場関係者は注目しているだろう。岸田文雄首相は、7月31日の日銀利上げ決定後に「金融政策の正常化が経済ステージの移行を後押し、経済ステージの移行が金融政策のさらなる中立化を促すとの考え方に基づいて、経済ステージの移行を何よりも重視しつつ、経済・物価動向に応じた機動的な政策運営をこれからも行っていきたい」と述べていた。この発言の時点では、よもや日経平均株価が3万6000円を割り込むとは思っていなかっただろう。

 「市場を注視する」と述べても、米景気失速懸念は日本政府にとって影響力を行使できる問題ではなく、海外勢が短期的に日本株売りに傾いている一因は、日銀の利上げ継続姿勢にあるとされている。こうした中での政府による有効打は、当面、見つからないというのが実態ではないか。

 一方、株価の大幅下落の影響について、日銀がどのように分析しているのかも注目点だ。大幅な下落後に自律反発する動きが鮮明になれば、時間の経過とともに市場心理が沈静化し、企業や個人の心理へのマイナスは限定的とみることも可能だ。

 だが、長期化するようなら日銀が思い描いている利上げパスにも何らかの影響が出るかもしれない。8月7日に予定されている内田眞一副総裁の講演と会見は、内外から注目されるだろう。

 

 <注目の米雇用統計、米株一段安なら日本株は一段安に>

 政府・日銀の情勢判断にも大きな影響を与えかねないのが、2日夜の米雇用統計の結果とNY市場での米株の反応だろう。仮に失業率が予想の4.1%を上回って上昇したり、非農業部門雇用者数の増加幅が市場予想の17万5000人を大幅に下回った場合は、米景気失速県が1日の市場に引き続いて意識され、ナスダックなどが下落すると、週明け5日の日本株は強い逆風を受ける。

 2日の米株動向は、日本経済とマーケットにとっても重大な「分かれ道」になる。

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