一歩先の経済展望

国内と世界の経済動向の一歩先を展望します

令和のコメ不足から米価上昇へ、農政失敗に総裁選立候補者はどう対応するのか

2024-09-02 13:43:36 | 政治

 スーパーマーケットで「一人一袋」の販売制限が続く「令和のコメ不足」は、新米が入荷するにつれ「令和の米価上昇」へと事態が変化しようとしている。背景には、昨年の猛暑による供給不足や訪日外国人の増加による需要増だけでなく、事実上の減反政策による構造的な供給抑制策がある。

 足元の需給引き締まりで確かに生産者の受け取る新米の手取り額は大幅に増えそうだが、その結果としてコメの販売価格は2024年産(今年の新米)がかなり上昇しそうで、消費者の行動にも影響が出ることは確実だ。ここで露呈しているのは、生産コストが販売額を上回る零細な生産者が多い中で、減反政策に依存した需給調整を継続してきた結果、生産者の経営体質が強化されないまま、需給の変化に迅速対応できないわが国の「コメ政策」の硬直さだ。さらにこの間、自民党はじめ与党の政治家は現状を黙認してきたと言える。

 コメの小売価格は上昇継続が予想されるが、自民党総裁選に立候補する有力者から「コメ政策」に関して何らの情報発信もない。食料自給率が低下する一方の現実とコメの生産体制、消費者に渡る際の小売価格がどうあるべきなのか、今月12日告示の自民党総裁選を前に立候補者は、コメ政策をどうするのか語る義務がある。

 

 <コメ販売、一袋限定の異常事態>

 当欄の多くの読者も、スーパーマーケットのコメ売り場に行けば、スカスカの商品棚を見ることになる。また、多くの店でコメの販売を「一人一袋」や「一家族一袋」と制限していることに気付くだろう。

 このような「令和のコメ不足」の原因として、多くのメディアは1)2023年の猛暑と大雨で消費者に回る品質のコメ生産が減少した、2)足元での訪日外国人の増加による需要増、3)南海トラフ地震臨時情報の発令による一部の消費者の買いだめ──などを挙げている。

 

 <コメの作付抑制、事実上の減反政策が背景か>

 しかし、コメ不足に大きな影響を及ぼしているのは、供給サイドにおける生産調整であると指摘したい。確かに1970年からスタートした「減反政策」は2018年に廃止された。だが、政府はコメからその他の農産物への作付け転換に補助金を支給する仕組みと全国生産量の目安を残し、コメの供給を絞って価格を維持する政策を採ってきた。

 農水省によると、2023年の主食用コメの作付面積は前年比9000ヘクタール減少の124万2000ヘクタールとなり、主食用のコメの収穫量は前年比9万1000トン減少の661万トンだった。これはピーク時の1400万トン規模の半分以下の水準だ。 

 このような供給サイドにおける生産減に対し、上記で指摘したような需要増が発生した結果、今年7月末の民間在庫は前年比40万トン減の82万トンまで急減した。農水省はスーパーマーケットや中食・外食業者向けに32万トンが流れたと分析。合わせて2011年7月などの在庫率10%と比べ、今年は12%と高くなっていると説明している。

 

 <JAあきたの決断、生産者の手取り大幅増へ>

 農水省は新米の流通が本格化する9月以降は品薄が解消すると予想しているが、今度は価格上昇が長期化する「令和の米価上昇」という現象が出現する可能性が高まっている。

 JA全農あきたは8月29日、2024年産米の「JA概算金」を発表し、「あきたこまち」(1等米60キロあたり)は前年比4700円増(38%増)の1万6800円になるとした。また、その他の銘柄の概算金も38-41%上昇した。

 

 <コスト高の零細農家、全国で38万軒超>

 こうした生産農家にわたる金額の増加は、生産者数の減少に歯止めをかけるきっかけになる可能性がある。農水省によると、個人でコメを生産している戸数(経営体)は2005年の140万2318から2020年に69万8543に半減している。

 その要因として、経営規模の小さい農家の生産コストが割高になっていることがある。2022年のデータによると、60キロ当たりの生産コストは平均で1万5261円となっているが、作付け面積が0.5ヘクタールより狭い農家の場合、2万5811円と割高になる。0.5-1ヘクタールの農家は2万0567円で2つのカテゴリーに含まれる農家数は、38万2000軒にのぼる。小規模農家は採算ぎりぎりか赤字経営という実態が浮かび上がる。

 

 <思い切った構造改革は可能か>

 24年産米で受け取る金額が大幅に増額されることで、ひとまずコメ生産を継続する農家が増えそうだが、根本的な構造変革を実施しなくては、供給サイドにおける安定的なコメ生産という姿には到達できないだろう。

 1つのシナリオとして、大規模経営を増やすために転作奨励のための補助金を止め、大規模化を促す補助金に変更するとともに、コメ生産の目安を撤廃して積極的に輸出を奨励するシステムに変更することが考えられる。

 その際は、現行法で厳しく規制されている企業のコメ生産への参入を検討していくことも大きな課題になると考える。

 

 <コメの小売価格上昇、CPIにも影響> 

 一方、コメの小売価格がどの水準で推移するのが妥当か、という点も政治的には大きな議論になるだろう。2024年産米は大幅な上昇が予想されるが、輸入価格の上昇を原因とした食品価格の上昇が家計を圧迫する中で、コメの小売価格が継続的に上昇することが許容されるのか、という問題がいずれ浮上するだろう。

 すでに今年7月の全国消費者物価指数(CPI)において、うるち米(コシヒカリを除く)が約20年ぶりとなる前年比18.0%の上昇を記録。このままの需給構造が続けば、8月以降も大幅な上昇となるのは確実だ。

 

 <38%の食料自給率とコメ生産、総裁選立候補者に改革の責任>

 ところが、自民党総裁選に立候補を表明、もしくは予定している有力な政治家からは今のところ、令和のコメ不足や米価高騰に全く関心がないのか、情報発信がない。

 食料自給率がカロリーベースで38%と世界の主要国では韓国の32%に次ぐ低水準である現状を考えると、食料安全保障の観点からも高水準の自給率を維持しているコメの政策が「現状追認」的な政策であっていいわけがない。

 国内の主要メディアもコメ政策を含めた農業政策に関し、すべての候補に質問をぶつけるべきだろう。スーパーマーケットのコメ売り場の棚が、スカスカになっているのは農業政策が空洞化していることへの警鐘と筆者の目には映る。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする