天愛元年

写真付きで日記や趣味を書くならgooブログ
新元号『天愛』元年にスタート

弓取

2019-08-07 15:29:11 | 日記
 夏なので小泉八雲の『怪談・奇談』を拾い読みした。
 武家の妻が今わの際に、私が逝っても新しい妻を迎えないと言ってくださるのでしたら、私を庭の隅の梅の木の傍に葬ってくださいと願った。さらに棺の中には小さな鈴を入れてほしいと頼んだ。武士は約束通りその梅の横に埋葬した。それから1年と経たないうちに、親戚や友人から「お前は一人息子で跡継ぎが居ないのだから再婚しろ」と勧められた。しつこく勧められるまま、17歳になったばかりの花嫁を後妻に迎えた。新婚生活7日目に、夫は城中の夜勤を命じられた。留守居の夜中を過ぎた頃、新妻の耳に鈴がチリチリと響く音が聞こえてきた。繰り返し繰り返し鳴り出し、犬まで怯えて吠えだすようになった。すると、眼が空洞で髪がほどけて顔に覆い被さった巡礼姿の女が鈴を持って現れ、「ここは私の家だ。お前は出て行け。このことを夫に告げるな。でなくば、八つ裂きにしてやる」と言って、姿を消した。次の夜もそんなことが起き、若い妻は怯えて、夫に「私を実家に帰してください」と願い出た。怪しく思った武士はしつこく訳を問い質し、亡霊のことを聞き出した。次の城夜勤のとき、武士は2人の家来に若妻の警護を命じた。しかし、それも空しく、護衛の侍たちが魔術で眠らされた隙に、花嫁の首は亡霊にもぎ取られた。翌朝、部屋に戻った武士は、首無しの遺骸が血の海に残るのを見て驚愕した。家来を叱咤し、血の跡を追って亡霊にたどり着いた武士は一刀両断に成敗したが、魔物の右の手は新妻の首を放そうとはしなかった。
 こう暑いと、気分的にも冷んやりとする読み物が似合う。
 『宇治拾遺物語』には、門部府生(かどべのふしやう)という、平安朝の武士が海賊を討つ話が出てくる。
 貧乏武士だったが、弓の使い手であった。昼夜となく武芸鍛錬した。夜は明かり取りのため、妻の止めるのも聞かず、家の屋根を葺いた木の皮を燃やした。それが無くなると、今度は垂木や棟、桁、柱まで燃やし切って、寝るところがなく、隣の家に泊めてもらうほどの一途者であった。隣家の親爺は、我が家のも燃やされると嫌だなあと心配していたが、射撃上手の噂が宮中まで聞こえ、天皇から、天覧相撲の力士を諸国から選抜する役目を仰せつかった。力士輸送中に、瀬戸大橋が架かる岡山県倉敷市児島沖に海賊の出没する危険な場所があって、同船の人たちが「あそこに見えるのは海賊船じゃないの」と怯えるのに、府生だけは「狼狽えるな。例え千万人が襲ってきても平気、平気」なんて澄ましていた。海賊どもは「漕ぎ寄せて乗り移り、荷物をかっぱらうぞ」と喚き散らしている。従者たちが怖さと船酔いでゲロを飛ばし合っている中、府生だけは耳飾りを付けたり悠然と戦闘の装束を整えていた。そして、船の屋根に乗って、46歩分まで近づいたら射放とうと距離を測り、すわやっと弓を引くと、あっという間に頭領の左目に命中した。海賊は一気に戦意を喪失し、逆走して逃げた。「ワシの前に立ちはだかろうなんて愚か者よ」と、府生はほくそ笑んだ。
 近隣諸国との戦闘の可能性が高まってくると、こういう話に力付けられる。

事有らば いざ起ち往かむ 不肖われ
海賊どもに げろ吐くまじく



最新の画像もっと見る

コメントを投稿