ひゃっかんのひとりごと

日常生活の中で感じた事を、防備録の代わりに徒然に。

イタリア珍道中

2006-11-22 | 日々雑感
11月12日から20日まで、急遽イタリアに行って来た。今回はその顛末記。

12日にイタリアに向け出発するのだが、今回荷物を極力減らそうと最低限の物にする事にした。
M-Audio社のMicroTrackと言う製品と、ローランド社のR-09と言うの2種のコンパクトな収録器と、SCHOEPSのマクロフォンを2本&GraceDesign社のLunatec V-3と言うマイクロフォンプリアンプ。これで結構な音は収録出来るので、今回はあくまでも記録録音と言う事でこれにバックアップ用のMacを持って行くだけだ。小さな鞄一つに収まってしまうのだが、問題はマイクロフォンケーブルとスタンドだ。これだけで結構な重量になってしまう。むー、収録機自体は小さくなっても結局ケーブルとスタンドだけはどうにもならない。誰かドラえもんのスモールライトを貸してくれないだろうか。
いよいよ出発。今年はパスポートの更新で真新しいパスポート、そして関空発の海外便、極め付けは羽田→関空間のわずか千円で乗れたJクラス。何もかもが目新しい。でも成田の近くに住む私にとっては、関空はやはり遠い。朝の6時に家を出て、結局国際線に乗るのは昼の2時。南回りの飛行時間と余り変わりない。
イタリアに着いて初日は皆で食事をした。相変わらず北部イタリア地方の食事は日本人の口に合う。

実質初日となる13日は、朝早くから(と言っても日本時間の夕方に)弁護士からの電話で叩き起こされる。あれ程時差を考えて下さいと頼んでおいたのに、すっかり忘れているし。
さて初日は妻の借りる楽器のテストから始まったのだが、これが素晴らしい楽器。流石にクレモナのコンクールで一等賞に輝いただけの事はある。残念ながらクレモナの博物館に入る事が決まっていて、余り人の手に触れる事は無いらしい。
さてリハーサルが始まり、録音技師の仕事としての第一歩はピアニストの譜めくりから始まる。ここでピアニストの音色や癖を飲み込み、音のイメージを固める。大体のイメージは固まったが、肝心の会場のイメージかわかない。
どう言った仕上がりにするのか(響きを中心に作るか、楽器の音色を中心に作るか)、これは明日のリハーサルに全てを掛ける事にする。
イタリア2日目(14日)はガリエラ(Galliera)と言う1996年に亡くなった指揮者の若い頃の作品のリハーサルを中心に行う。ピアニストのC氏がブレッシャ(Brescia)の音楽院の楽譜係から見つけて来た作品らしいのだが、ピアニスト自身があたふたしている。このピアニスト、ベートーヴェン頃までの作品は素晴らしく美しく弾くのに、こう言った変拍子やハーモーニーが複雑になると途端に自滅する。昼食時に話しの雲行きが怪しくなる。この曲は殆ど演奏される事はないが、意外と日本人好みのメロディーで、もしかしたら売れるかもしれないと言う話しになり、翌日以降セッションで録音を始める事になる。夜はリハーサル終了後、ブレッシャの街まで繰り出し、美人ハープ奏者の手作り料理に舌鼓を打つ。ホテルに戻る途中に、C先生いきなり旧ブレッシャ市内を案内してくれる。やはり紀元前からある街、歴史的な建物や教会が山の様にあり、教会だけで400を超えると言う。

前日セッション録音が急に決まったのだが、今回は記録だけを目的としていたので、マイクロフォンの数も2本のみ、ミキサーも無し、きちんとした録音機材も無しと言う全て無い無いづくしの状態から始める事になった。場所も当然用意されているはずも無く、C氏の自宅で収録を開始するが、ワンポイントのマイクロフォンだけで一体どこまで録れるのか、前日からマイクロフォンの位置決めに追われる。
三日目(15日)と言う事で時差ボケもすっかり無くなり朝10時からビッチリと収録を開始する。しかしC先生相変わらず手元が覚束ない。仕方が無いので録音屋の範囲を超えて、先生にレッスンをする事に。先生素直と言うか何と言うか、私の突っ込みにいちいち「Si」とお答えになるのだが、私は東京芸術大学中退の身、片や先生はブレッシャ(Brescia)の音楽院の先生。C先生にはそう言ったプライドは無いらしい。どうやら楽譜を読解する能力が不足しているようなので、いちいち「ここは何のハーモニーだから、この音をもっと大きく!」とか「(弾けていないのがバレバレなので)そこはもっとゆっくりと歌って」etc。こう言った時の会話(単語の羅列)は全てイタリア語なのだが、楽隊をやっていて音楽用語だけは覚えているので都合が良い。やっと時々弾ける時が出て来たので、取りあえずOKテイクにして、もう一度弾かせるとやはり弾けていない。おい、明後日この曲本番だぞ!!
さて四日目(16日)、午前中は比較的ゆっくりとしていようと思ったが、ヴァイオリンソナタのセッション収録を行う事に。何もかもがテンポの速い国だ。夜にはいよいよ本番が始まるのだが、初日のプログラムはガリエラのヴァイオリンソナタとブラームスのトリオ。会場はブレッシャ市内の神道学校のホール。彼の地には演奏会場が教会を含め沢山あり、冬でも日本のような空調システムではなく、温水を循環させる(オイルヒーターのような物)なので空調ノイズが全く無い。ただマイクロフォンのセッティングには異常に気を使う。と言うのも今回はワンポイント収録なので、残響の具合と直接音の比率を決めるのに1cmの僅かな距離で大幅に変わってしまう。何度も会場とヘッドフォンの音色の違いを確かめつつ、ようやく最良ポジションを決める。ガリエラ夫人や妻の使用した楽器の製作者もご臨席され本番開始。A氏の使用している楽器の音色が日本とヨーロッパでは全く異なる。やはり製作された環境で使用するのが良いのだろうか…と言う事はほとんどの人が使っている楽器も、ヨーロッパに持って行けばもっと良い音がする事になるはずだ。やはり収録はヨーロッパに限る。
無事に本番が終了し、ガリエラ夫人も楽器製作者氏も大変お喜びのご様子。夫人に至ってはご主人の書かれた曲を聴いた事が無いらしい。CD製作にも喜んで了解を頂き何とか製作の目処がつく。ホテルに戻る途中に遅くまで開いているレストランに寄り、おいしいタコのスープや海鮮料理に感嘆しながら皆で談笑。やはり本番後の緊張感の解けたこのひと時はたまらない。

五日目(17日)は午前中はゆっくりとして、午後から活動を開始する事にする。と言うのもC先生、ブレッシャの音楽院でレッスンがあるらしいのだ。これ幸いと妻とA氏と私の三人で昼食をゆっくり摂る。C先生は悪い人ではないのだが、ひたすら喋り続けてうるさいのだ。しかも英語が全くダメと来ているから、会話は全てイタリア語のみになる。イタリア語のわかる単語は判るが、わからない単語は全く判らない(当然だ)。しかしやっと日本語だけでの会話が出来る。さて、午後からリハーサルを開始するのだが今日・明日は最も重いベートーヴェンのトリオとガリエラのトリオの二本立て。ベートーヴェンはC先生の最も得意とする分野だから良いとして、問題はガリエラだ。一昨日あれだけ特訓したにも関わらずすっかりお忘れになられている… やはり北部地方とは言えイタリア人だ。
再び降り出しに戻ってリハーサルをし、今日の会場はSALOで大変近いので、ギリギリまでリハーサルをし会場に向かい6時からゲネプロを開始。今日の会場はサロ市庁舎の講堂だ。音響は大変素晴らしいのだが、いかんせん置いてあるピアノがY社(Made in JAPAN)で悲しい位金属的な響きがする。仕方が無いので、少しでも金属的な響きを消そうと、ピアノの向きを変えて誤摩化す。やはり誤摩化しは誤摩化しであって本質的な改善ではないのが残念。本番はC先生何とか最後まで止まらずに無事?演奏。しかし嘘(の音)はいけないなぁ。

六日目は朝から雨。やはり午前中はどうしてもC先生はレッスンが外せないらしく、お出掛けなのでA氏と12時に待ち合わせて、いつもとは別のレストランで食事。少々高い(と言うか大分高い)が味はいつものお店より数倍美味しい。量も日本人にちょうど良い量で、地元の人には支持されていないようだ。昼飯終わりの時間まで居たのだが、結局他に誰も来なかった。季節外れとは言えやって行けるのか?
さてC先生ご帰還のご様子ではあったが、雨が降っていたのでブレッシャに行くのを遅らせて(実は観光するつもりでいた)、5時にホテルに迎えに来てもらう事にする。待ち合わせの10分程前にロビーに降りたら、ホテルのお兄ちゃんが「日本で津波があったらしいよ」と教えてくれる。心配になったがまぁここで何があってもどうする事も出来ないので、取りあえずホテルのマスコットのワンコを撫でて遊ぶことにする。
さて予定の5時になってもC先生が一向に現れないので、思わず「ジェリー!!」と喚いたら、ホテルのお兄ちゃんに「ここはイタリアだから(笑)。でも南部の人はもっと凄いから諦めた方が良いよ」と諭される。諭された途端にC先生からホテルに電話があり、後5分で着くとの事。ホテルのお兄ちゃんが「後5分と言っていたから10分後かな」と笑いながら伝えてくれた。本当に10分後にC先生が現れブレッシャの街へ。会場は一昨日と同じ会場なので、マイクロフォンのセッティングもデータが残っているのでそのまま同じにセッティングする。会場練習が始まると、相変わらずC先生ボロボロ(-_-) でもベートーヴェンは絶品だ。この落差は一体どこから来るのか?
本番終了後我々は再び一昨日の美味しい店に行こうと画策していたのだが、件の美人ハーピスト(実は今回の主催者)がコンサートの大成功を祝って再び自宅に招待してくれるらしい。有り難迷惑だ。
仕方なくハーピストの家に行くと、何故か我々の全く知らない若い男性が一緒にいる。今回の事を記事にしてくれると言う新聞記者らしいのだが…。
そんなこんながあってホテルに戻る途中にC先生から妻に、来年の春にブレッシャの音楽院でマスタークラスの持たないかと持ちかけられる。
一体留学した事の無い日本人が何を教えろと言うのか?更に来年は「…の曲をやろう」と鬼が笑うような話しをし出す。大丈夫か?ギャラは出せるのか?
今回は期待に反して?不思議にキチンとギャラが支払われた。しかも間の飲み食いの分まで全て支払ってくれたので、両替して持って行ったユーロはほとんど手付かずの状態で残る。本当にイタリアに来たのか狐につままれたような気になったが、現金を手にすると葉っぱではなく本物のユーロだった。

とんだ珍道中ではあったが、キチンと貰うべき物は貰い、会社の事業展開でも大きな動きが有った。
ほとんどは書いたつもりだが、まだ今後の会社の社運を左右するような内容だけは書けない。何せ相手はイタリアだから、契約書を正式に交わさない限り書けない事だらけなのだ。日本のつもりで口約束だけで事を進めると、後でとんだしっぺ返しを食らう事になる。やはりたかだか契約書一枚、されど契約書一枚の世界に顔を突っ込み始めたのだから、事は慎重に運ぼうと思う。
いずれお読みになっていらっしゃる方だけには、契約書が締結された暁にはお知らせしたいと思う。
今録ったセッション録音のテープ(と言うかデータ)を聞きながら書いているのだが、なんて俺って偉そうなんだと反省しきり… 酷い、C先生に向かって怒鳴っている… 随分と感情を抑えたつもりで喋ったのだが… そう言えばC先生目が時々ウルウルしていた事を思い出した。
帰国してまず真っ先に体重計に乗った。あっ!4キロ近く太っている(-_-) やばい。今日からすっかり和食に戻す事にする。

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