高級クラブ 華 の分捕り】
水田が支店長室に入ってきた。
焦燥感が表情に出ていた
「前島さん、私に何か不手際でも? 仕事が半減したのは どういうワケでしょうか」
開口一番これだった
立夫は とっくに気が付いていたが 仕事も忙しかったし放置していたのだ
「知らないですよ 俺の赴任挨拶にも来ないしさ・・俺にしたら 逆におかしいなと思ってたんだ」
「そうなんですか・・元支店長の 嫌がらせですかね・・」
支店長を 華に 招待した時 ホステスに嫌われ それが原因かもというのだ
「前島さん なんとか支店長の力で 元に戻していただけませんか うちは死活問題ですよ このままでは所員の給料も払えないです」
いつものニヤケタ顔はどこにもなく 必死の面持ちだ 50過ぎの白髪頭が急に老けて見えた
「水田さん 言いたくはないが 千賀子からいろいろ聞いたよ 千賀子を口説いているとき 俺のことを成り上がりの平行員と結婚なんかしたら後悔するとか
吹聴したよね・・」
「そ、それは 誤解です‥そんなこと言いませんよ・・」
「シラを切ってもダメだ 千賀子からはっきり聞いてるんだ・・俺を女たらしとかさ 悪口雑言の限りだぜ」
「前島さん、すまない、千賀子さんから どんな人かと 聞かれて つい ホントのことを・・」
「ほんとのことだと?」何を言いやがる!(笑)
笑っても 立夫の目は笑ってないことに 水田はハッとしてすくみあがった 冗談で流そうとしたが逆効果だった
「水田よ 元に戻すどころか 全部切ってやろうか!・・俺にはその権限があるんだぜ・・」
厳しい呼び捨て口調に 水田は 慌てて床にはいつくばって 両手をついた
「前島さん このとおりだ・・謝るよ お願いだ このままでは 事務所は閉鎖し 私は破産者だ・・」
立夫は腕を組んで ソファにふんぞり返って たばこの煙を悠然とくゆらせた
聡子は そんな立夫の顔をちらっと見て ニコっとするのだ
しばらく無視したのちに 立夫はおもむろに口を開いた
「助けてやってもいいが 水田よ 条件があるんだ」
と持ち出した
「な、なんですか?・・条件とは?」
「華の営業権を譲ってくれ・・それが 条件だ」
「えーっ華を?ですか?」
思わぬ条件提示に 立夫の意図を知り 水田は苦渋の表情を浮かべた
この話は簡単ではない。
畳みこむには その華に場所を変えて決着をつけることにした。 聡子を残し水田と立夫は銀行を出た
まだ陽は高いが 外は師走の木枯らし一号が吹き荒れていた
車を拾い クラブに行くと 隆司が店を開けてくれた。 隆司はここに泊まり込んでいる身だ゛
「おお、立夫 水田さんも一緒なんだ・・」
「お二人は知り合いでしたか?」 水田は意外なことに驚いた
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つづく