【権限と裁量】
年の瀬が迫る中、立夫は年内にどうしてもやっておきたいことがあった
それには 大きな権限というか裁量権が必要だと痛感したのだ
支店長になってから その権限で クラブ華を手に入れることができたからだ。
(もっと 大きな権限がほしい、そして大金を手に入れたい・・) 日増しにこの思いは募った
立夫は 大阪本部の福山部長に 会うことにした 福山は立夫のバックボーンとして陰に日向に力になってくれており そのへんの 相談に乗ってもらおうと思った
もっとも福山にしても立夫の利用価値はあるのだ。
立夫の稼いだ金の大半が福山から海堂に流れ 反主流派を封じ込める工作資金というがそれは表向きで、
福山は自邸の隣の土地を買い取り 娘のために豪邸建設に着手したと聞く。 それらは立夫からの資金流用であることは明らかだった
(クソッ!福山め 俺が稼いだ大半を持っていきやがる・・)
不満を持った立夫は海堂にそれとなく言うと
「余計なことを詮索するな・・誰のおかげだと思ってるんだ! 福山君に足を向けて寝られないほど 君は恩恵を受けてるんだぜ・・
わしだってそうだ・・住友エステートは 打ち出の小槌よ・・」
と 高飛車に言われムカついた
「わかりました 親父さん けど、俺は 足を向けてこれからも 寝るつもりだよ 」
と云うと 海堂は電話の向こうで大笑いしやがった
そして こう言った
「立夫君、いい根性してるんだから 君なりに工夫して部長にいろんなアイデアを持ち込んでさ 君も潤うようにしろよ・・」
それは謎かけであり なんのことかわからなかったが 考えているうちに読めた・・
立夫は早速、大阪に飛び 部長に面会を申し出たら、他の来客をほったらかして応じた
「おお 立夫君 今日は何だい? 相談事らしいが 何でも話したまえ・・」
ふんぞり返って上機嫌だ でっぷり肥えて ニッコリしたえびす顔の鼻の頭は酒焼けで赤い・・業者からの接待攻めでそうなったのだろう・・
「部長、私案ですが 中間の買取り業者を省いて 直接最終買取の業者と取引したら如何かなと思ってます!」
「ほう、とうとう それに気づいたのかい?」
「えっ?」 立夫は訊きなおした
「それは・・利益は確かに大きいが 引き渡す側として いろんなリスクを 踏まねばならないんだよ それをいとわないというのなら話は別だが・・」
部長は そのリスクとして 競売物件に 誰か居座っていて占有権を主張するとか 想わぬ埋設物がみつかったりで それが少なからずあるというのだ・・
「部長、その点私に任せていただけますか、 それらをクリアし 付加価値をつけることで マンション業者等に売却し一億や二億を儲けてごらんに入れますよ・・」
「おお、なかなか云うじゃないか!前例のないことだが 君に任せるよ ただし 付加価値をつける高額物件は 僕に事前に報せてほしい」
提案を部長が認めたことで 立夫の権限が一段と大きくなったのだ
よおし、やってやるぜ・・・
勇躍した立夫は 最終売却先の大手のマンション業者に 秘書を通じ 物件の詳細資料を添付して 軒並み連絡したので゛ある・・
するとどうか・・翌日の朝には社長自らの来訪だ しかも門前列をなすほど並んだのである。
「海堂さん あの○○駅前の土地を是非とも当社にお譲りを・・」
どうやら垂涎の的らしく・・全員に頭を下げられ 懇願された。
つづく