社員は容姿端麗が必須条件
住友エステートは 御堂筋線本町駅より徒歩一分という至便の場所にあった 住○銀行が持つ12階建ての総タイル張りのビルで一階には銀行の本町支店があり その7階フロアーの半分の約300㎡を占めていた。これを5年間も休眠させていたというから ぜいたくな話だ
応接室や役員室はパーテンションで仕切られており 事務机やテーブルなどは勿論 内装もそのままの状態で維持され 管理会社の手でピカピカに磨かれ丁寧にメンテナンスしていたことが窺われた。
会社再開に向けて器は整った あとはその器に入れる 人事採用は最優先だった
立夫は 銀行指定の人材派遣会社の社長を呼びつけたら飛んできた
その会社は銀行はもとより 傘下の数百社に派遣しているというから 住○銀行は まさに上得意なんてもんじゃない それだけで飯食っているようなもので 何かミスして切られたらそれこそ一発に倒産だ・・
青山という社長は部下2人を連れてきて それこそ米つきバッタになって何度も深々とあいさつした
立夫と立会いの村木が 名刺交換後 立夫が口を開いた
「社長、ちゃんと決めてくれたかい?事務所は この通りいつでもスタンバイOKで 急いでるんだよ。」
「はい 承知しています!」
社長は 額に汗をかいていたそれをハンカチで拭いながら・・
「前島さん、それが想像を超える数で そこから10人絞るのに困ったほどです」
「住○というブランドと待遇の良さで 募集と同時に殺到して来まして・・」
「社長、それは聞いたよ・・で、持ってきてくれたのかい? 写真をさ」
はい!お持ちしました・・と 部下に顎でしゃくると 慌ててカバンから取り出した
「御覧ください」 とテーブルの上に大判写真の10枚を並べた
村木と立夫は姿勢を乗り出した
「うん なかなかいい」・・どれも粒よりの美人だった
400人のうちから選びましたと部下が告げ 一人づつ経歴とか説明始めたが
説明は要らないよ、と
立夫は 遮った
「社長、よくやってくれたね・・最終面接なんだが 直ぐ手配してもらいたいんだ」
「判りました!明日にでも通知して・・」
「なに言ってるんだよ 明日と言わず今だよ 今から本人に電話してくれよ・・」
「先ずはこの子がいい 見た目ダントツの美人だからな (笑)・・今すぐだ・・」
(笑) 「わかりました! 前島さまはお目が高い・・この子はちなみに前年度のミス大阪です」
「ほう、そいつはいい」 (^^)
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10人すべて連絡がつき 明日の昼から随時と決まった
「前島さん あの・・決定した際の契約なんですが 派遣ではなく本採用ということで斡旋料をいただきたいのです」
「ほう、いくらだ?」
「今回は美人特定ということで250万を・・」
「わかった!二人採用で計250万で了解だ」
「えーっそんなあ・・一人当たりなんですが・・」
「青山さんよ 俺をなめるなよ そんな法外な金を払うワケねーだろ 文句があるなら大阪本部に出てこいや 事と次第で派遣業者を変えてやるぜ・・」
「ヒッーーーご冗談を・・・それだけは お許しになってくださいませーーーっ」
這いつくばるようにして悲鳴を上げ 出て行った。
つづく
大きな権限
聡子が来訪者の数を5人と告げた
就任祝いの挨拶に ひきも切らずやってきているのだ
むろん手ぶらで来るわけなく 紙袋に入れた駄菓子などの現物から商品券やらクーポンと言った金券、はたまた旅行券まで持ってきた。
たちまち 支店長室のデスクの横にうず高く積まれた
(スゲーな)・・平の時には想像はしていたが 実際に見たわけでなし これほどとは思わなかった
応対する聡子も訪問数の多さに感心しきりだ・・
いちいち 相手するのにウンザリしていたら 思わぬ 顔が見えた
「オッ!隆司じゃねーか!? 」
「おお 立夫! なんだおまえ ここの支店長なのか??
本条 隆司と言い おない年で高校の時 柔道でライバルだった男だ。 俺より体格があり国体出場で活躍したことで 学校でもヒーローだった
ただ、顔が強面で 女にモテず年中ボヤいていたのでずいぶん慰めてやったもんだ・・(^^)
「立夫、すげーなあ・・驚いたぜ・・」
そう言いつつ 隆司が出した名刺には
くらぶ 華 のマネージャーとあった
姫路の繁華街のど真ん中に位置している高級クラブで 立夫は何度か行ったことがある。それを言い、
華のママは司法書士の水田の女であると話してやると ブサ面の目ん玉を剥きまくって驚いた
「へーそんなことまで知ってたのか!俺はその水田に 今こき使われてるんだぜ」
隆司が昔話から今の境遇を語ってくれたが 立夫が注目したのは背中に入れ墨を彫った現役のやくざになっていたことだ。
(こいつは使い物になる!)と直感し
聡子にあとを頼んで 隆司と銀行を出た。 向かった先は隆司の組長のいる会社だ・・
昨今はしのぎが難しくなり 金に困っているから 相談に乗ってくれということだ・・
支店長としての立場としては会いにくいが
なにしろ気心の通じたダチの言うことだ 何とか力になってやろうと思った。
ただ、相談次第では断るからなと前置きはしておいた。
行く前に電話していたので 組長は待っていてくれた
会うとなんのことない ニコニコした 50がらみの腰の低いフツウの田舎風の親父だ。貫禄は俺のほうがはるかに立派なものだ
とは言え 其のおやじ、目の鋭さはタダ者ではない。
「支店長さんですか・・お初です お目にかかれて光栄ですよ」
就任お祝いは 竹中商事という会社名で隆司が寄こされており 社長がこの組長なのだ
今 銀行から借りている5000万が 滞納していることで 土地や建物がもうすぐ競売されるという判りやすいもので・・
それを延期なりして助けてくれという話だった
「お願いしますよ 支店長さん 前の支店長は 話にならない石頭で それが左遷されると聞いて 喜んでいたところでしてね・・」
組長は 頭を搔きながら
「隆司のお友だちなら もしお困りのことがあれば なんでも一言かけてくださいよ 一肌脱ぎまっせ」
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組長の会社を出た後、隆司に言ってやった
「銀行に戻って資料見てみるが 俺の権限でなんとかしてやるよ・・
そのかわりに これから いろいろと力を貸してほしいことがあるんだ。いずれこちらから連絡するよ」
つづく
10月になった 駅前のイチョウ並木も色づいてきてようやく残暑から解放された感じだった
立夫は聡子と姫路支店の前に来た
常務とやり合った日から一か月が経っていた
大阪での住友エステートの体表取締役営業部長として就任はしたものの
社員の採用から始めるという、まさに一からのスタートで 目まぐるしくもあったが やりがいもあったので寸暇を惜しんで働いてきた。
それがやっと一段落したところだ・・ 二足のわらじをはいた立夫は 今日はもう一足の支店長としての文字通りの凱旋将軍だった
一か月前には平行員が今日は支店長として出勤だ
もちろん 社内広報で 行員全員に知らせてあり 突然の人事異動に驚きまくっているだろう・・
「あんな勤怠男の 最低野郎が 支店長に!?」
「こんなばかなことがあるか!めちゃくちゃの異動だぜ!」
「常務の娘を押し倒してうまいことやりやがったな・・・ちくショー!」
そんな怨嗟で渦巻いていたが 異動発表から10日も経つと
そんなことは一切消えたのだ なぜなら 支店長は上司であり 行員の人事昇降の権限を持つのだ そんなことをいつまでも口にしていたら
火の粉を被ることになると思いなおしたわけだ・・
それどころか 前島を崇拝する者まで出てきたのだ・・それは人事課の村木だった 立夫に千賀子を口説くことは危険だと忠告した男だが
前島と大学の同期でもあるし共に女好きであるところから気が合ったダチでもある。
「前島、お前は大した奴だぜ・・本当にモノにしてしまうとはな・・そんなことよりさ 俺も仲間にしてくれ! 住友エステートの
メンバーにさ 頼むよ」と懇願された
「わかった! 俺とお前の仲だ 支店長代理に推挙してやるよ・・それだけじゃない エステートの開発営業課長に抜擢してやるよ 両方から入る収入は今の倍にはなるだろうよ」
「おおお! そうか! 感謝するよ! 恩に着るよ!お前の為なら なんでもしてやるぜ!\(^_^ )( ^_^)/」
村木は狂喜してその場で万歳したほどだ 実際に立夫は本部の部長に依頼し 村木を昇格させてもらい 聡子も秘書に特別採用になった
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シャッターを開ける9時前に聡子と立夫は銀行に入った
通用口からホールに入ると 全員立ち上がり 整列し こちらに向かって おはようございます!と挨拶したのだ
「おはよう、みんな揃ってるようだな・・」
と 立夫は見回した すぐ前に、ハゲの支店長が俺を睨みつけるような目だ・・こいつは地方の支店に飛ばされたからだ(^^)
「みんなが知ってのように 俺は今日からこの姫路支店の支店長だ いいか、当支店の業績は悪くもないがよくもない
関西の他店と比べて行員数で割るとワースト3だ・・こんな成績では話にならんのだ これからは 実力主義一本でやる!
力あるものは年齢性別関係なしに登用するが 無能は容赦なく降格だ・・ともかく人数が多すぎだ、現在の70人体制を50人に減量化するつもりだ・・
飛ばされる対象になりたくなければ しっかりやってほしい。 以上だ」
みんな呆気にとられ 拍手も起こらず一瞬静まり返ったが 村木が手を叩くと お義理でも 全員がそれに続いて拍手をしたのだ
「村木、君も前に出て挨拶しろよ 支店長代理としての抱負なり決意をな・・」
村木は心得たとばかり 前に出ると胸を張っての挨拶だったが 俺より生意気なものだった(^^)
ついで 聡子を挨拶させてやったが CAに似た凛々しい私服にピッタリの実に素晴らしい挨拶で 村木や俺よりはるかに拍手が多かった。
つづく