母親に出世を誓った
東京から戻った立夫は 一日休んで 姫路北部の加西にいる母親を訪ねた
母親は免疫に関連した難病になり 入退院を繰り返していた
共稼ぎの兄夫婦は母親の面倒を見ているが 留守であることを知って 家に上がり込んだ
母親の医療費は立夫と折半だった その負担割合を巡っていい争いとなり 挙句はケンカだ・・
仲が決定的に悪くなっており 顔を合わせたくなかったからだ
母親は 寝たきりのはずが座り椅子にかけてテレビを見ていた やつれてはいるが顔色も悪くない
「おや立夫じゃないか 来てくれたんだね」 と
満面の笑顔を向けた
「母さん 俺 姫路支店長になったんだぜ 」
「へーそれは本当かい?」と言いつつ 顔はすぐ笑い顔になった またどうせ大ボラだろと言いたげだ
立夫は名刺を取り出し見せた
「本当なんや! けど海堂 立夫ってなってるよ・・」
「俺 結婚したんだよ 海堂家に養子になってさ・・母さんには黙ってたんだけど結婚式には呼ぶよ 車椅子でもいいから 式に出てほしいんだ」
母親には洗いざらい話したら そうかそうかと 涙を流さんばかりに喜んだ。
他愛もない話や 昔の思い出話で尽きなかったが
ところでと 母親が切り出したのが 隣村の聡子のことだった
立夫のことが好きなので結婚したいから仲をとりもってくれと 何度も来たというのだ・・
「母さん 実はな その聡子に今日会うことになってるんだ・・俺もさ 結婚するって一言も言ってなかったし 詫びようと思ってさ・・」
「そうかい それがいいよ ちゃんと話したら あの子も踏ん切りがつくだろうしね・・」
聡子と俺とは5年越しの付き合いだった 高3の時不純異性交遊の相手が中2の聡子で
退学一歩手前になり あの時は 聡子の親が怒鳴りこんだりで 母親にはずいぶんと心配をかけたもんだ。
「あはは お前は本当に罪作りな女たらしだよ 父さんとそっくりだ。女作ってさ あたしたち親子を捨てていなくなった 酷い男だよ」
母親は寂しそうな笑顔を見せた。
立夫は 用意していた封筒をポケットから出した
「母さん 50万入ってるんだ クソ兄貴には内緒にな・・美味しいものでも食べろよな・・」
「こんな田舎では医者もいないしな そのうち姫路に呼んでやるよ」
「そうかい ありがとう 立夫・・」
「母さん 俺は 出世して 姫路のお城みたいな御殿を建ててやるぜ それまで元気で居ろよ」
と言い残し家を出たが 胸に秘めた決意と野望は お城より壮大なものだった
つづく