猫の額の如く狭い庭で、ひとり我が物顔に四方に枝葉を広げている山茶花があります。
土地を買ってこの家を建てた時、旧制中学で後輩になる同僚が、お祝にと苗木を一本持ってきて自分で植えていった物ですから、樹齢40年近くに達することになります。
ろくに手入れもしない無精者の主人を見かえすかのように、勝手にどんどん大きくなって、毎年秋の半ば頃から春先まで、真っ赤で大輪の見事な花をたくさん咲かせるのです。
この赤い花をお目当てに野鳥がやってきます。ヒヨ(鵯)ジョウビタキ(尉鶲)メジロ(目白)
などがお食事(多分甘い蜜)にか、それともお遊びにか飛んでくるのです。ま、常連のスズメどもは別格として。
ヒヨはつがいでやって来ます。黒ずんだやや大ぶりの地味な姿からはちょっと想像しにくい「ピーイッ(キーイッとも聞こえる)」と澄んだ甲高い鳴き声を上げて二羽で飛んできて、山茶花の枝をその体重でゆらゆらさせながら、花から花へと移って回ります。
このヒヨが実は大した律義者で、お返しの品を置いて帰りました。
彼等の落としていったものから芽が出て枝葉が伸びて赤い粒の実がなるまでに成長しました。
それが所かまわずあちこちに数本も立っているのです。
その木の形や実のなり方から千両か万両かに似ていて「こりゃ大金を払って行ったぜ」と思っていたら、或る人が曰く「これは百両ですよ」。
まあ不景気な世の中ですからそんなもんなんでしょうね。
ジョウビタキは、そのひちむつかしい名にそぐわぬスマートでシックな装いをしています。
赤茶色のチョッキに真っ黒で先端近くに白いアクセントのついた上衣、灰色のモヘアの帽子までかぶっています。この頭が白髪に見たてられて尉や翁が漢字に使われているのだそうで、ちょっとお気の毒な気もするんですが。
この鳥にもエピソードが一つ。
或る晩、家内が庭へ出るドアを開けた途端にパッと部屋へ飛び込んで来たのです。
落し物されて絨毯など汚されては困るし、お帰り願おうと箒などで追い払うのですが、天井近くを飛び回って額縁や蛍光灯のコードにとまったりして中々出口へは向かわない。とうとうおしまいには、くたびれたか、隠れたつもりか、部屋の角隅の天井間際に羽を広げてへばりついてしまいました。その背中がいかにも「もうまいったよ」と言ってるみたいに。
「いじめてるんじゃないのよ。早く出て行ってちょうだいよ」と家内が話しかけていました。
こちらはご老体、追っかけっこにはふうふうの態たらく、やっと開けたままの出口から闇空に飛び出してくれて一件落着。十数分(いやもっとかな)の活劇でした。
メジロも綺麗な鳥です。鶯色の細身の体にまん丸おめめ、じつはあの白い丸は目の回りの模様なんだそうだけど(そういえば鳥の目にシロマナコは無いみたい)とにかくかわいい顔つきしてますね。
籠に飼われて鳴き声を競ったりもするのですが、我が庭に来る時は颯爽と飛んできて敏捷に花巡りして短時間でまたさっと飛び去ってしまいます。そのあいだ一切無言、「おじゃましました」とも言わずに。
今は捕獲禁止で、鳥モチ竿と囮籠さげて山野を駆けていた少年時代は遠い思い出話になったというわけです。残念ながら僕にその経験は無いのですが。
土地を買ってこの家を建てた時、旧制中学で後輩になる同僚が、お祝にと苗木を一本持ってきて自分で植えていった物ですから、樹齢40年近くに達することになります。
ろくに手入れもしない無精者の主人を見かえすかのように、勝手にどんどん大きくなって、毎年秋の半ば頃から春先まで、真っ赤で大輪の見事な花をたくさん咲かせるのです。
この赤い花をお目当てに野鳥がやってきます。ヒヨ(鵯)ジョウビタキ(尉鶲)メジロ(目白)
などがお食事(多分甘い蜜)にか、それともお遊びにか飛んでくるのです。ま、常連のスズメどもは別格として。
ヒヨはつがいでやって来ます。黒ずんだやや大ぶりの地味な姿からはちょっと想像しにくい「ピーイッ(キーイッとも聞こえる)」と澄んだ甲高い鳴き声を上げて二羽で飛んできて、山茶花の枝をその体重でゆらゆらさせながら、花から花へと移って回ります。
このヒヨが実は大した律義者で、お返しの品を置いて帰りました。
彼等の落としていったものから芽が出て枝葉が伸びて赤い粒の実がなるまでに成長しました。
それが所かまわずあちこちに数本も立っているのです。
その木の形や実のなり方から千両か万両かに似ていて「こりゃ大金を払って行ったぜ」と思っていたら、或る人が曰く「これは百両ですよ」。
まあ不景気な世の中ですからそんなもんなんでしょうね。
ジョウビタキは、そのひちむつかしい名にそぐわぬスマートでシックな装いをしています。
赤茶色のチョッキに真っ黒で先端近くに白いアクセントのついた上衣、灰色のモヘアの帽子までかぶっています。この頭が白髪に見たてられて尉や翁が漢字に使われているのだそうで、ちょっとお気の毒な気もするんですが。
この鳥にもエピソードが一つ。
或る晩、家内が庭へ出るドアを開けた途端にパッと部屋へ飛び込んで来たのです。
落し物されて絨毯など汚されては困るし、お帰り願おうと箒などで追い払うのですが、天井近くを飛び回って額縁や蛍光灯のコードにとまったりして中々出口へは向かわない。とうとうおしまいには、くたびれたか、隠れたつもりか、部屋の角隅の天井間際に羽を広げてへばりついてしまいました。その背中がいかにも「もうまいったよ」と言ってるみたいに。
「いじめてるんじゃないのよ。早く出て行ってちょうだいよ」と家内が話しかけていました。
こちらはご老体、追っかけっこにはふうふうの態たらく、やっと開けたままの出口から闇空に飛び出してくれて一件落着。十数分(いやもっとかな)の活劇でした。
メジロも綺麗な鳥です。鶯色の細身の体にまん丸おめめ、じつはあの白い丸は目の回りの模様なんだそうだけど(そういえば鳥の目にシロマナコは無いみたい)とにかくかわいい顔つきしてますね。
籠に飼われて鳴き声を競ったりもするのですが、我が庭に来る時は颯爽と飛んできて敏捷に花巡りして短時間でまたさっと飛び去ってしまいます。そのあいだ一切無言、「おじゃましました」とも言わずに。
今は捕獲禁止で、鳥モチ竿と囮籠さげて山野を駆けていた少年時代は遠い思い出話になったというわけです。残念ながら僕にその経験は無いのですが。