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英国金融サービス庁が銀行のオンラインバンキングに対する消費者の信頼維持のための留意事項を奨励

2010-10-27 09:37:00 | 金融犯罪と阻止策

Last Updated: March 31,2021

 英国の金融機関の監督機関である「金融サービス庁(FSA)」は、2006年1月23日に「2006年金融サービスリスクに関する見通し(FSA’s Financial Risk Outlook 2006)」を公表した。本OutLookは今後18か月の金融サービスを関係法令の目標に合致させまた戦略的な目的から監督機関としていかなる対応を進めるべきかについて、各種の調査をもとにリスク面の先行的な取組み課題を提示するものである。
 今回は、FSAがオンライン・バンキングのリスク問題を取り上げた章の概要を紹介する。

 一方、今まさにわが国で話題になっている「ライブドア違法株式取引問題」について金融監督機関である金融庁(証券取引等監視委員会の機能の見直し等も含め)、証券取引所、監査法人、弁護士等が本来果たすべきである違法な株式取引の阻止や株式市場の安全性確保についてそれぞれの立場から的確に対応すべきといった論議が期待される中、事後的な行政処分・司法処分依存型でない消費者の実態を踏まえた金融監督機関における先行的な課題の提起の必要性が増すことは間違いなかろう。 

 さらに、この問題は先延ばしになったオンライン詐欺の損失補てん問題とも関連する金融界にとって重要な問題といえよう。


1.オンライン・バンキングにおける消費者の信頼の脆弱性
 積極的なオンライン・バンキングのユーザーの半分は、オンライン取引における潜在的なリスクは「極めて」あるいは「大変な」懸念材料であるとしている。実際、彼らは取引に伴い生じるリスクから自らを守るために、PCにセキュリティソフトをインストールしているが、一方で、4分の1の人はいつ更新(アップデート)したか記憶していないし、また頻繁に更新していない。

 英国のAPACs(英国におけるカード決済の共同機関。Association for Payment Clearing Servicesの略。2009年7月6日に新設された”UK Payments Administration Ltd (UKPA)”に引き継がれた)によると、2005年6月までの半年間のカード詐欺被害額は1,450万ポンド(約29億2,900万円)であった(注1)。この額は比較的低いがそれでも2004年の同時期に比べ約3倍である。FSAの調査によると、仮にこの損害額をすべて消費者に向けたとするとオンラインバンキングのユーザーの77%はオンライン取引を解約することになる。回答があったユーザー(95%)のうち45%の人は銀行が唯一責任を負うべきであると信じているのである。

 FSAの金融犯罪部門の責任者であるフィリップ・ロビンソンは次のように述べている。
「ユーザーは、オンライン詐欺について自らの責任を問われるようなことになればサービスの利用をやめるであろう。彼らはセキュリティ問題についてのある程度の自己責任については理解しているもののその結果としての経済的な責任まで負うことは考えていない。詐欺に伴う損失について銀行はセキュリティ対策を徹底的に追求すべきである。つまり消費者に対しわが身の守り方の教育を徹底すべきである。この点について、FSAは銀行がすでに手を打っていることは承知しており、また官民が協力した「Get Safe Online’ campaign」(注2)のような先行的取組みが始まっていることも知っている。しかし、銀行はこれらの取組みが消費者の信頼を維持する上での有効性については注意深く見守る必要がある。インターネットバンキングの更なるセキュリティ対策としては2要素認証(筆者注:トークン型ワンタイムパスワード等のこと)がある。」

 消費者調査の結果で明らかとなったその他の点は以下の通りである。
①オンライン取引ユーザーの5%はまったくセキュリティ・ソフトをインストールしていない。その最大の理由は高価であること(注3)またその必要性についてまったく理解していない。
②ユーザーの59%は、第三者が誰でもオンライン口座にアクセスでき、またログインに関する機密データが無くても詐欺が行えると信じている。21%の人のみがそれはありえないと考えている。
③世代により問題意識に差がある。15歳~17歳の場合、ほとんどセキュリティ詐欺について問題意識はないが、45歳~54歳では最も不安に感じている。
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(注1)わが国の場合、警察庁の統計では平成16年中(91頁以下)のカードを使用した窃盗事件は4,477件(クレジットカード:568件(被害総額2億540万円、キャッシュカード:3,448件(被害総額24億250万円)、消費者金融カード:461件(被害総額1億7,700万円))である。

(注2)同キャンペーンは、2005年10月に英国政府、関係会社の支援により立ち上げたコンピュータ・セキュリティやインターネット・プライバシー問題の国民向け啓蒙キャンペーンである。2013.9.5 同キャンペーンは、Get SafeOnlineの「SwitchedOn」キャンペーンが開始した旨報じた。これは、親や子供を担当するその他の大人がインターネット上で料金を安全に保つのを支援することを目的としている。 子供の保護に関する情報とアドバイスについては、ここをクリックしてください。 親が子供よりもインターネットに自信がない場合、オンラインリスクを管理することが難しくなり、オンラインで安全を保つ方法について親が自信を持って話すことができるというものである。

(注3)例えば、英国の大手銀行である「ロイズTSB銀行」のサイトではセキュリティ対策として銀行のお勧めセキュリティソフトについて1か月の試用期間を置き、購入時10ポンドの割引が受けられるといったサービスが行われている。FSAも当然知っているであろうが。また、欧米の啓発サイトでは無料のセキュリティソフトを具体名を挙げてユーザーが自らインストールできるような配慮が一般的であり、FSAの見解の背景については別途確認してみたい。これも年代によってかなり差があるのであろうか。

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(今回のブログは2006年1月26日登録分の改訂版である)

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