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いろいろレビュー(旧サイト)

本と映画とときどき日記

ひつまぶし

2011年07月06日 | エッセイ

アエラに連載されていた野田秀樹さんのエッセイを書籍化した本。
それこそひまつぶしにヴィレッジヴァンガードにふらりと行ったときに買ってしまいました。

ご本人いわく、中身は「スッカラカンに近い連載」だったそうですが、
とにかくおもしろいエンタメエッセイでした。

特に笑わせてもらったタイトルをあげると、

・エンターテナーが語る「股間に関わる問題」
・地獄のBGM
・日本の便器に隙を見せるな
・スイーツ紹介に突っ込む
・役者もそれを我慢できない
・幸運の分厚いセーター

などでしょうか。

劇作家・演出家という職業柄のせいか、特にことばに関する題材が多かったんですが、
とにかくツッコミが的確でうますぎる。
そのへんをよくよく考えながら読むと、ユーモアのセンスに脱帽します。

ちなみに、野田秀樹さん自身がどんな人なのかは、これを読むまでほとんど知りませんでした・・。
HP見たら、ちょうど7/10にフジの「僕らの時代」に出演されるそうです。
ぜひ見てみよう。

書を捨てよ、町へ出よう

2011年05月15日 | エッセイ
初めて読んだ寺山修司。
エッセイ・評論ものということで、サクッと読めるかと思ったんですが、
読み通すのにわりと時間がかかってしまいました。
文字量が多いわけではないのですが、あれこれ考えながら読ませるような文章だったのかな。

内容はほんとに様々でした。
正義、家出、サラリーマン、ギャンブル、自殺、そしてハイティーン詩集、などなど。
とりとめのない感じもしますが、どれもけっこうおもしろかったです。
特に競馬に造詣が深いらしく、ウマやレースのエピソードなどは非常に情熱をもって書かれていました。
(残念ながら、そこはまったくついていけなかったんですが・・)

ことばとしておもしろいなぁと思ったのは、「一点破壊主義」というもの。
例えば、四畳半のアパートで貧乏暮らしをしながらアルファ・ロメオに乗るという、
要するに一点豪華主義のようなものなんですが、
それによって「可能性を試す」、「『身分相応』という観念への挑戦」だと説いていました。
ははぁ、なるほど。

ただし、この本の初出は67年ということで、
そのへんのとらえかたに、けっこうな世代差があるような印象は受けました。

昔は、入社した時点でサラリーマンの定年までの給料がだいたいわかってしまう。
安定の一方で、蔓延する平均化、画一化、無気力、停滞という雰囲気。
「そこから脱出するために、何かおもしろいことをドカンとやらなあかん」というような主張です。

一方、今のサラリーマンは将来が見通せず、明日会社がどうなるかもわからない。
リスク要因にかこまれながら、就職や結婚がうまくいかず、「安定がほしい」と嘆くわけです。

まぁもちろん全部が全部、そういうわけではないですが、
どっちの状態にしても悩みがついてまわるものなんだなぁという気がしました。

とりあえず、今の時代に高級車を買っちゃうような低所得サラリーマンはあんまりいないと思う・・。

悪人正機

2011年04月11日 | エッセイ
「戦後最大の思想家」とも呼ばれる吉本隆明氏。

糸井重里さんがかなり絶賛していて、「ほぼ日」でコンテンツをつくったり、
雑誌の『ブルータス』で特集号を組んだりしています。

気になって本屋で著作を手にとってみたりもしたものの、
あまりに敷居が高そうだったのでこれまでは敬遠していました・・。
今回のは文庫版だし、糸井さんとの対談集っぽいもので読みやすそうだったので、
たまたま目についたのを「これならまぁ」ってことで買ってみました。

で、予想通りと言うか、実際読むと、文章的にはほんとに世間話のような軽さのもの。
しかも数ページ単位のテーマ別になっているので、どこからでも手軽に読めます。
(きっと奥は深いんでしょうが)

また、各テーマの冒頭には糸井さんの予告兼感想みたいなまえがきがあって、
これも話に入る前にイメージを補助してくれます。
単純なようですが、初心者にはとっつきやすい構成だなぁと感心。

糸井さんはこの本について、
「あらゆる『うその考え』をまる裸にする社会とか人間とかのいうものの『解体新書』みたいなもの」
と形容しています。

吉本隆明という人の思想が、具体的にどんなものかは皆目知りませんが、
自分もなんとなく読んでいて気持ちいいというか、「うそっぽさ」のないすがすがしさを感じました。

いくつかあるなかで気に入った箇所をひとつあげると、「理想の上司」というテーマのところで、
「上司以上に重要なのは、実は『建物』なんだ」ということを言っています。

「明るくって、気持ちのいい建物が、少し歩けばコーヒーを飲めるとか盛り場に出られるような場所にあるっていう……そっちのほうが重要なんだってことなんです。僕は、そういう会社だったら、勤めがうまく続くと思いますね」

どうでしょう。
至極もっともというか、「まぁそんなもんだよなぁ」って思っちゃったりしませんかね?

ザ・万歩計

2010年10月25日 | エッセイ
『鴨川ホルモー』などでおなじみの、万城目学さんのエッセイ集。

改めてですが、この人のユーモアセンス、大好きです。
今回はエッセイ集ということで、「ちょっとええ話」的なものも含め、いろんな話があるんですが、
卓越された文章から生み出される「笑い」が、やはり一番の魅力でしょう。

中でも群を抜いていたのが、章タイトルにもなっている「御器齧り戦記」。
万城目氏いわく、「絶大な負のカリスマ性」を醸し出す「黒い稲妻」、
すなわちゴキブリの話です。
「黒い雨」事件、「Gの悲劇」事件、「疑惑の黒い羽根」事件、そしてとどめの「G16」事件、
軽妙かつリアルな筆致で語られる数々の修羅場はまさに抱腹絶倒もの。
新幹線の中で、溢れ出す笑いをかみ殺しながら何とか読み通しました・・。

その他にも、作家として本を出すまでの苦労話や(もともと繊維会社に勤めていたらしい)、
学生時代の過酷な旅行体験談などなど、おもしろい話が目白押し。

京大卒ということで、なんとなくインテリっぽいイメージを持っていた万城目さんでしたが、
本書を読んで、「いやー、おもろい人やなぁ」と一方的に親近感が高まってしまいました。
未読の本や最新刊も、ぼちぼち手を出していきたいです。


疲れすぎて眠れぬ夜のために

2010年09月02日 | エッセイ
疲れすぎているわけでも、眠れないわけでもないのですが、
とりあえず読んでみました、内田樹さんのエッセイです。

テーマやトピックはいろいろあるのですが、ご本人が最後に書かれているように、
「無理はいけないよ」「我慢しちゃダメだよ」というのが本書の基本的な姿勢です。
そういう意味では、「『引き』姿勢の自己啓発本」っていうとらえ方でもいいのかもしれません。

おもしろかったところで例をひとつ挙げると、「女性のサクセスモデルの幻想」みたいな話がありました。
引き合いに出されていたのは、ハリウッド映画の女性主人公の典型ということで、
『エリン・ブロコビッチ』のジュリア・ロバーツだったんですが、これを内田氏に言わせると、
「はい、このような女が今のアメリカではサクセスする女なんです。最低の女だと思いませんか?
きっと、この女にはろくな未来は待ってないでしょうね。ザマミロですね。」
となるわけです。

こういう、いつも怒鳴りっぱなしで自己主張し、自己実現する「嫌な女」が
女性のサクセスモデルとして世界標準みたいになってるらしいんですが、
もともとアメリカと性文化が違う日本でそれを一般化するのは無理なんだから、
「もう、そういうの、やめない?」という構え方をしたほうがいいのでは、という主張です。

あとがきで「20~40代の女性がけっこう本書に好感をもった」、ということが書かれていましたが、
こういう話を読むと、その感覚もなんとなくわかるような気がします。
もともと本書が単行本化されたのが2003年らしいのですが、
特にこの数年でそういう自由競争主義的な「サクセスモデル」ってのが疑問視されてきてて、
2010年の今ではその傾向がさらにはっきりしてきているように思います。

他にもいろいろとおもしろい話があるのですが、方向性としてはどれもだいたいそんな感じです。
文章、というか語り口調が柔らかく、さらさら読めてしかもけっこうおもしろい。
電車とかで読むにはいい本だと思います。