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いろいろレビュー(旧サイト)

本と映画とときどき日記

税務署員だけのヒミツの節税術

2012年12月30日 | 一般書
昨年ヒットしたらしい『あらゆる領収書は経費で落とせる』の「確定申告編」となっている本書。

確定申告が必要な個人事業者やフリーランサーなどがメインの対象とされていますが、自分のようなサラリーマンにも当てはまることがある(第1章)とのことで読んでみました。

ポイントをざっくり言うと、「いかにして『控除』を得るか」ということ。
個人的にも最近年末調整をしたばかりで、このへんのことを改めて知っておいたほうがいいかなと思っていたところだったので(結局、今年度は特に申請するような控除はなかったのですが)、わりと関心を持って読みました。

「サラリーマン編」の例を挙げると、扶養家族、盗難、自然災害、医療費、温泉、生命保険料、スポーツジム、さらにはキャバクラ代まで、実はあらゆるものが控除の対象になるとのことで、「へぇー」という感じ。

それと、仕事上でよくわからなかった減価償却の計算方法(定額法と定率法とか)がわかりやすく書かれていたので、そのへんがすっきりしました。

全体的には、「自分にはあんまり関係ないかな」という内容も多いのですが、税金についての意識を高めるという意味では読んでよかったような気がします。

その点では、あとがきに書いてあった、

 <最近、日本は格差社会になったと言われますが、税を少しでもかじったものならば、「格差社会は税金」が作ったもの」ということがわかるはずです>

という一文は、確かに税金の弊害の一側面を言い当てているのかなと思いました。

ただし、トヨタの社長(年収3億4000万円に対して、所得税と社会保険料の合計が5438万円、21%の負担率)と平均的なサラリーマン(年収430万円に対して、同じく149万円、35%の負担率)の比較は、税負担率だけを見ると不公平ですが、お金の絶対値としては、やっぱり「自分だったら5000万以上も払うのやだな」と感じてしまうような気がします。

著作権とは何か ―文化と創造のゆくえ

2012年11月10日 | 一般書

「著作権のことを学ぶためにはまずこの本から」という触れ込みで読んでみた本。

 著作権についての網羅的な知識を伝えることよりも、著作権というものの全体像や考え方を示すことが本書の第一の目的

と、あとがきで書かれているように、「あれもこれも」という知識型の本ではありません。
2005年刊行となっていますが、著作権の本質的な内容を中心にしているためか、「時代遅れ」感もなかった印象です。

出版の仕事などで著作権が実務にかかわるときというのは、だいたい「これは著作権を侵害するか」というボーダーをめぐる場合になるんですが、そのまえにそもそも「著作権はなぜ必要か?」という大前提については、これまであまり考えたことがありませんでした。

その答えは、ズバリ冒頭で述べられていて、

 著作権の最大の存在理由(少なくともそのひとつ)は、芸術文化活動が活発におこなわれるための土壌を作ること

正直なところ、「著作権は、著作者の利益を守るための権利」というぐらいでとらえていたのですが、それは本書で述べるところの「創作へのインセンティブ」というところにとどまるものであり、「著作権の全体像」の一部でしかないことを改めて知りました。

ただし、ここで難しいのは、そうした大きな目的に立ったときに、どこまでが著作権でカバーされ得るのかが、けっこう恣意的になってしまうのではないかということ。

本書では、『ジャングル大帝』と『ライオン・キング』や、『ウェスト・サイド物語』と『ロミオとジュリエット』などの類似点をはじめ、いくつもの著作権が絡んだ事件を取り上げていましたが、結局そこで重要なのは「(裁判で)どっちが勝ったか」ということではなくて、本来の目的に照らして、何が争点になり、どんな議論が行われたのかということです。

 著作権というシステムそのものが、全世界規模の壮大な実験

という思い切った表現もありましたが、「もしかしたら著作権なんかないほうがいいのかもしれない」というくらい根本的なところに触れていたのは軽い衝撃でした。
著作権の細部についてはまだまだわかりませんが、ひとまずそれより大きな階層での新たな視座を提供してもらえたように思います。

金持ち父さん 貧乏父さん

2012年10月07日 | 一般書

翻訳ものですが、日本でもベストセラーになったロバート・キヨサキ氏の著書。
今回買ったものの奥付を見ると、2012年5月30日発行で、なんと第90刷!(ちなみに初刷は2000年11月)。
そういえば、かつては倒産したこともあった筑摩書房が、この本のおかげで新しいビルを建てたなんて話も聞いたような……。

内容は、サブタイトル「アメリカの金持ちが教えてくれるお金の哲学」とあるように、「貧乏父さん」ではなく、「金持ち父さん」になるためのお金の哲学の解説です。
数々のエピソードも含め、いろんなことが書かれていたんですが、もっとも肝心だと思われるところを取り出すと、

中流以下の人間はお金のために働く
金持ちは自分のためにお金を働かせる(p.57)


金持ちは資産を手に入れる。中流以下の人たちは負債を手に入れ、資産だと思いこむ(p.92)

つまり、「負債ではなく、資産を手に入れろ。そうすれば、その資産(お金)が自分のために働いてくれる」。
逆に言うと、資産を手に入れない限り、どれだけ稼いでも負債を買って支出が減るだけで、これだと「貧乏父さん」になってしまうというわけです。
「資産」の具体的なものとしては、「株、債券、投資信託、収入を生む不動産、手形・借用証書、音楽・書籍などの著作権・特許権」などが挙げられていましたが、要するに「投資をして不労所得を得る」というやり方。
ただし、それを成功させるためには、様々な試行錯誤をして「どの資産を手に入れるか」を学ぶ必要があり、具体的に「考えること」や「行動すること」のヒント・方法についても記述されていました。

読み終わっての感想ですが、大筋では本書に書かれていることは正論で、知っておくべき知識も多く含まれていたと思います。
ですが、二つの点で疑問が残りました。

まず一つ目は、本書がもともとはアメリカで15年くらい前に書かれた本だということ。
詳しくはわかりませんが、1990年代後半のアメリカというと、まだ経済が好調に推移していて、個人の資産価値も上昇傾向にあったんじゃないでしょうか。
もちろん景気動向にかかわらず、資産運用は成功も失敗も自己責任になるのでしょうが、その後の2007~2008年にかけての住宅バブルの崩壊(サブプライム住宅ローン危機)、そしてリーマン・ショックへと続いていく経緯を見てしまうと、時代の違いも考慮したほうがよいのではないかと思います。
その点、「今の日本」ということで考えると、本書をベースにして書かれた『僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?』で言われていたことのほうが、個人的にはフィットした内容だという気がしました。

二つ目は、格差の問題です。
本書は結局、個々人がラット・レースを抜け出して「金持ち父さん」になるための本であって、「みんなが幸せになる」ことを目的にはしていません。
世の中すべての人が資産を運用して不労所得を得られるという状況は考えられないわけで、その裏ではやはりラット・レース状態で生産活動をしている人たちがいるということが前提になっていると思います。
つまり、本書の内容をなぞっていくと、「優良な資産を手に入れられる一部の人は、どんどん金持ちになれる」ということで、大局的な観点では格差を助長する方向に振れていくような気がするのですが……。

本書で言われている「ファイナンシャル・インテリジェンス」が大切だというのはもちろんそのとおりなんですが、極論すると「お金のことだけしっかり学べば、金持ちになれる(貧乏にならない)」ともとれるので、そのあたりを一歩引いて捉えるようにしたいところです。

都市と消費とディズニーの夢 ショッピングモーライゼーションの時代

2012年09月29日 | 一般書

何も知らずにメインタイトルだけ見るとよくわからない本ですが、要するにショッピングモールの話です。
著者の速水健朗さんが自身のブログで書いているように、帯にある『ショッピングモール化する世界』か、『ショッピングモーライゼーション』というのをタイトルにしたほうがわかりやすい気はするのですが。

「ショッピングモーライゼーション」というのは速水さんの造語らしいですが、本書では、

都市の公共機能が地価に最適化した形でショッピングモールとしてつくり替えられ、都市全体が競争原理によって収益性の高いショッピングモールのようになっていくという変化、現象(pp.47-48)

と説明されています。

ショッピングモールと言うと一般的には郊外の大型モールなどのイメージが強いようですが、最近では都市部でもどんどんショッピングモールが進出してきているというのは、たしかにふだんの生活でも実感するところです。
これは消費を主体として変化する都市では必然的なことだと思われますが、本書ではその変化について、アメリカでのショッピングモールの歴史や、その思想の起源にまで遡って紐解いています。

ちなみに、タイトルにある「ディズニーの夢」というのは、もちろんショッピングモールのテーマパーク性を語るうえで外せないディズニーランドと関係しているのですが、実はウォルト・ディズニーは、その先にさらに大きな未来都市を構想していたという話でした。
ここは興味深いパートだったんですが、あくまでショッピングモール思想の一つという位置付けで、本書全体のテーマが「ディズニー」というわけではありません。

また、映画の「シザーハンズ」や「ゾンビ」などで描かれるショッピングモールを題材に、アメリカ人の消費生活やコミュニティを解説するところなんかは、いかにも速水さんならではの視点でおもしろかったです。

個人的な感想としては、本書を読みながら先日行ったシンガポールのショッピングモールを思い出しました。
ショッピング街のオーチャードでは、地下鉄の駅に直結した形で高級ブランド店が多数入った巨大ショッピングモールがあり、さらにその上にはプール付きのコンドミニアム(日本で言う高級マンション)が建てられています。
そこは10年ほど前にはだだっ広い公園だった土地なんですが、「あれはまさに、消費による都市の変化がショッピングモールという形で完成した図だったんだな」と改めて思いました。

まだ行ったことがないのですが、本書で紹介されてた二子玉川とかのショッピングモールもそれに近いものがあるのかもしれませんね。
近々足を運んでみたいと思います。

たかが英語!

2012年09月17日 | 一般書

2010年に社内での「英語公用語化」を発表し、話題になっていた楽天(というか三木谷社長)。
その後2年間の成果報告と、楽天が英語化をめざした理由、そして三木谷さんの英語教育に対する考え方みたいなことが書かれています。

社内での公用語をすべて英語にするということに対しては、「べつに日本語でもいいじゃん」という声も当然あるわけですが、賛否両論飛び交う中でとりあえず徹底して英語化を進めてきたという2年間。
「中間報告」として提示された成果については、「社員の声」やチャートなどを見ていると、やや「お手盛り」感があるような気がしないでもない…。
ただ、本書で改めて強調されていたのは、何よりもとにかく「本気でやる」という三木谷さんの意欲で、それについては感心するところがありました。

そもそも「英語公用語化」というのは、いくらグローバル化が進んできたからと言って、必ずしもすべての企業が実施すべきものではありません。
どうも日本企業の「英語公用化」というとまだ反発があるようですが、楽天にしろユニクロにしろ、必要があるところはやればいいし、適材適所で済ませられるところはそうすればいいし、「そんなの要らん」というところもあっていいと思います。

で、ひとまずインターネットビジネスをグローバルに展開する楽天にしてみれば、これはやっぱり避けては通れない問題。
実用面で外国人スタッフや取引先とダイレクトにコミュニケーションを取れないことはもちろん、「日本語しかできない」というイメージがつきまとうだけでも、競争が不利になることは否定できないと思います。
それを考えると、実際の英語能力のレベルアップもさることながら、第3章の中の見出しで「英語化はグローバル化の本気度を示すメッセージ」という言葉があったように、「うちは本気だよ」という態度を示すことがやはり重要なんでしょうね。

また、三木谷さんは「あとがき」で「僕の得意技は、大胆な仮説を立て、実行に移すことだ」と述べていました。
これが明記されていたのが、第1章の「仮説」のところだったんですが、それによると「3ケ月英語漬けにすれば英語が習得できると考えると、必要な学習時間は1000時間。業務に支障がないようにこの1000時間を捻出しようとすると、1日に1~2時間×2年」ということで、約2年という英語移行期間が設定されたようです。

確かに「大胆」ではありますが、たとえおおざっぱでもコアになる数字を拠り所にして目標を設定する。
経営者ならずともそうした手法は見習いたいもんだなと思いました。