ナガイクリニック院長ブログ!

写真付きで日記や趣味を書くならgooブログ

病気の話24 ベル麻痺

2019-09-30 13:20:05 | インポート
久しぶりの患者さん「この間顔面神経麻痺になっていろいろたいへんでした。」
「でも今は全く異常はない様子ですね、、、診断はベル麻痺?」
「そうです。」

ベル麻痺 Bell’s palsy

イギリスのベルさんが200年以上前に報告したのは顔面神経麻痺症状で通常予後は良好なものを一般に称しています
その後当然その中身はいろいろと明らかになって、脳腫瘍や血管障害などを除外して原因不明(特発性)の片側性抹消顔面神経麻痺を今ではこう呼んでいますが、多くはウイルス、特に単純ヘルペス(HSV)という割とありふれたウイルスであったりします
分類上同じヘルペスでより強力な帯状疱疹や水疱瘡や水痘帯状ヘルペス(VZV)はラムゼイ・ハント症候群と呼ばれていて、強力な感染症の分、めまいや耳鳴りといった症状に加えて耳に水泡性病変を確認できることもあります。抗ウイルス剤とともにステロイドを使いますので難しい判断が必要なケースです

このようにベル麻痺はそうした明らかな原因を除外することで残った、尚且つ、たいていが急速に治癒する顔面神経麻痺という定義になります
そうすると、VZVのように症状が強く出ない単純ヘルペス(HSV)感染によるものが相当数これに該当し、6割以上という報告もあります
いずれにせよ、除外診断になるので頭のCTとか耳鼻科的検査とか内科領域では深追いしないのですが、ポイントは単純ヘルペスや帯状疱疹は日常とてもありふれた病態である点ちらちら視界に入ります
もう一つ、これまた小児のありふれた病気で突発性発疹というのがありますが、これもHHV6/7という同じヘルペスウイルスの仲間によって引き起こされ、その後成人になっても約9割でその後というか、潜伏感染しているということが知られています

つまり、このヘルペスウイルスは疲れた時に口の周りとかにブツブツできる単純疱疹、成人になって水痘様皮疹が再発する帯状疱疹、そして、HHV6/7しかり、いずれも体内にウイルスが長期間残っている、「潜伏感染」という特徴がある点特殊です

潜伏感染はなぜ興味深いかというと、二点
どうしたら再発による病気を予防できるのかという点と
もう一つはそれが長期間体内に共存するということはうまく制御できれば遺伝子を持ち込みで治療に使える可能性がある点です

さて、生き物は周囲の環境条件など状況が悪くなるとその活性を抑えて状況が好転するまでじっと長く我慢するものがいます。たとえば、最近では月に行ったクマムシとかどうなるのかという話題もありますが、乾期で水がなくなるとじっとして雨季を待つ肺魚とか、カエルや動物の冬眠などもその一種とも考えられ、ヘルペスウイルスの潜伏感染は宿主の免疫との関連性があるのでそれに似たような背景が想定されます

最近、潜伏感染のきっかけになるパーツとしてVLT(the spliced VZV latency associated transcript)の存在が明らかになっています
それによると、VLTと遺伝構造的非常に類似した物質(VLTly)は増殖時期に多く認められ、増殖を活性化する因子(アクティベーター)の一種あるいはその上流の制御因子とも考えられますが、VLT自体は潜伏期に限って多く認められている点、両者は同じ遺伝子からスプライシングという機構で作られている類似物質ということが分かります
つまり、二つの相反する作用を持った物質が、ウイルスの短い遺伝子の同じ部分からスプライシングという機構で作られて、アクセルとブレーキをコントロールしている可能性を示唆しています
スプライシングという機構はしんかく高等生物が不要に外部から組み込まれたりした有害な遺伝子産物を除外するために切り取りを行う作業なのですが、さらにその中間でできた産物を組み合わせたりすることで実に多彩な編集をしていて、たとえば、ヒトのジストロフィーなどの疾患ではその関与が知られているものもあります

どうしてヘルペスウイルスがこのような複雑な宿主のスプライシングの機構にうまく乗っかったかは謎ですが、そもそもこの手の「へえーっ」という現象、実はあまり大したことはない
「たまたま」「偶然」の結果によるものが多く
その積み重ねと振るい落としが進化の本体ではないか、
と考えるのが柔らか頭です

朝市








First flight home
Gregg karukas




最新の画像もっと見る

コメントを投稿