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サイエンスの話 40 nfP2X7を標的とする汎癌CAR-T細胞免疫療法の前臨床検証

2024-03-28 11:40:00 | 日記
前回は老化細胞の除去にキメラ抗原受容体(CAR)-T細胞が有用だという内容でしたが、それをがん細胞の除去に使えるのではないか。その際、何をターゲットに基本的なゲノム構造が一緒の癌細胞と正常細胞を区別するのか(何を特異抗原とするのか)。この点においてnfP2X7という固形癌で多く固有に発現しているタンパク質を用いたら結果が良かったよという話。

Pre-clinical validation of a pan-cancer CAR-T cell immunotherapy targeting nfP2X
nfP2X7を標的とする汎癌CAR-T細胞免疫療法の前臨床検証
Nature Communications
volume 14, Article number: 5546 (2023)

背景

・CAR-T細胞プラットフォームの優雅で単純な点は、MHC非依存的に抗体様結合ドメインを用いて未処理の抗原を標的にする能力と、T細胞の細胞傷害活性を開始するのに必要な細胞内シグナル伝達能力を兼ね備えている。

(持続感 染を示すウィルスの感染細胞や一部の腫瘍細胞では MHC クラス I の発現が低下していることが多い。しかしながら、例えば、NK 細胞は MHC クラス I 抗原を認識する抑制化レセプターを用いて, MHC クラス I 抗原を発現している細胞を自己と見なし, 発現していない細胞を非自己と認識するのでMHC クラス I の発現低下による免疫応答低下に対応することができる)

・最近の血液のがん細胞に対するCD19標的CAR-T細胞療法の臨床試験では、再発または難治性のB細胞性急性リンパ芽球性白血病(B-ALL)1,2患者における完全寛解率が最大80~93%、再発B-ALLの疾患負荷が低い成人患者における長期寛解期間が20カ月であるなど、素晴らしい結果が示されている。

(CD19は、B細胞特異的分子。B細胞受容体(BCR)と複合体を形成することによってB細胞活性化を制御しているのでB細胞性急性リンパ芽球性白血病における標的に設定した)

・しかしながら、固形がんに対するCAR-T細胞療法の臨床試験は、奏効率が9%であったように、期待外れの結果しか得られていない。これはCAR-T細胞の質、CAR-T細胞の非効率的なホーミング、腫瘍微小環境内の免疫抑制など、多くの要因による可能性がある。
 一方で、腫瘍の不均一性は固形がんで頻繁に観察され、CAR-T細胞治療を妨げるもう一つの問題であり、腫瘍の脱出や患者の再発を引き起こす可能性がある。 加えて、悪性細胞のみに存在する標的抗原の選択は困難である。この点、先述のB細胞性白血病に対する
CD19標的CAR-T細胞療法では健常B細胞と悪性B細胞の両方が除去され、B細胞低形成が生じるが、この標的にされた健常B細胞の低下は臨床的に管理できるレベルにある。

 今日までに研究された固形がんが発現する抗原の限られた選択肢の多くは様々な組織の健常細胞にも存在するので標的にされた健常細胞の細胞傷害性と臓器障害のリスクがあし、また正常細胞と異なる固形がん特有の抗原など少数のがんにしか存在しない。
 つまり、深刻な副作用を避けるためには、健常細胞には存在せず、できれば広範な固形がんに発現するCAR-Tターゲットを見つけ、検証することが重要である。

(そもそも正常細胞と異なる固形がん特有の抗原は未だ見出されていない。つまり、優れた特異抗原探しががこの手の標的研究のずーっと以前から今に至るまで変わらぬ課題)

・そこで目をつけたのがP2Xピュリノセプター7(P2X7)
 
 P2Xピュリノセプター7(P2X7)は、多くの組織や造血細胞に広く発現しているATPゲート陽イオンチャネルである。正常に機能している場合、P2X7はATPに応答してイオン輸送を制御し、短時間のATP結合によって陽イオン選択的チャネルが開口し、Na+とCa2+の流入とK+の流出を可能にする。

(普通に生理的に働く陽イオンチャンネル)

 これにより、サイトカイン放出、細胞の生存や増殖に関わる下流のシグナル伝達経路が駆動される。ATPリッチな条件下でATPとの結合が長く続くと、P2X7は非選択的な孔として機能し、大きな分子(<900 Da)にも透過するようになり、その結果、プログラムされた細胞死が起こる。
(ATPリッチな条件下では穴が空いていろんなものが通過する結果機能を失い、アポトーシスによって処理される運命のチャンネル)

 この結果、陽イオンチャネルの活性が細胞の生存と死のいずれかを促進するという「二律背反」(Antinomy 矛盾・パラドックスが同時に存在する)の反応が生じる。

これまでの研究では、nfP2X7(non functional P2X7)と名付けられたP2X7の非機能性バージョンの特徴が明らかにされている。重要なことは、nfP2X7のコンフォメーション変化により、通常はタンパク質の内部構造に埋もれている細胞外ドメインにユニークなエピトープが露出することである。最近このエピトープを認識する抗体が開発され、乳房、卵巣、脳、前立腺、皮膚、腸、卵巣、子宮頸部、肺、膵臓、胃を含む多くの固形腫瘍でnfP2X7が著しく過剰発現していることが明らかになった。対照的に、nfP2X7の発現は、nfP2X7陽性腫瘍検体の近位組織内の健常細胞を含め、健常細胞では検出されていない。

(P2X7が機能喪失して片付けられる運命かと思いきや、構造変化により生き延びるP2X7バリアント=nfP2X7はなんとがん細胞の多くで発現されており、がん細胞とともに生き延びているということが明らかに)

ここ一つのポイントなのでもう一つ別の論文から

Oncogene. 2019 Jan;38(2):194-208. 
doi: 10.1038/s41388-018-0426-6. Epub 2018 Aug 7.
ATP in the tumour microenvironment drives expression of nfP2X7, a key mediator of cancer cell survival

要旨

 ATPを介したP2X7の迅速な活性化は、細胞内に陽イオン電流を誘導する。しかし、ATPを介したP2X7の活性化が長く続くと、膜透過性を増大させる孔が形成され、最終的には細胞死を引き起こす。腫瘍微小環境には、P2X7孔を活性化し細胞死を引き起こすのに十分なレベルの細胞外ATPが存在するため、これは潜在的なパラドックス(二律背反)となる。
 しかしながら、P2X7の発現は、がん細胞の生存、増殖、転移能の増強と関連している。P2X7には、少なくとも1つの異なる立体構造があり、非細孔機能型P2X7(nfP2X7)と呼ばれているが、これは機能的な細孔を形成することができない。

つまり、
通常のP2X7の場合、
ATP→開口→大きな分子の流入→アポトーシス(細胞死)誘導→細胞死
と働く一方、
異なる立体構造を有する非細孔機能型P2X7(nfP2X7)では、
ATP→開口が妨げられるので細胞死に至らず、細胞が延命する。

したがって、多くの固形癌でnfP2X7が発現し、腫瘍細胞の生存に必須になっている。
そして、その変化の主体はE200という箇所のアミノ酸配列の変異であるので、E200に対する抗体は、癌において重要な役割を持つP2X7受容体の形態を区別することができる。
図解


さて、本文に戻り、

nfP2X7の広範な固形がん標的としての可能性を評価するために、我々はnfP2X7上の露出したエピトープに結合する親和性成熟ペプチド結合ドメインを用いて、nfP2X7に対する第二世代CARを構築しその効果を調べた。

結果

・nfP2X7-CAR-T による広範な癌細胞株への特異的殺傷 

複数のドナーから作製されたnfP2X7標的CAR-T細胞が、in vitroで12の異なるがん種(乳癌、前立腺癌、肺癌、大腸癌、脳腫瘍、皮膚癌)を代表する24のがん細胞株に対して幅広い抗腫瘍効果を示すことを実証した(図3)。

(様々な固形癌由来細胞株に有効)

・nfP2X7標的CAR-T細胞はin vitroおよびin vivoでがん細胞と結合し、がん細胞に対するエフェクター機能を発揮する

 nfP2X7標的CAR-T細胞がin vivoで固形腫瘍に浸潤するかどうかを調べるため、NSGマウスの乳腺脂肪パッドにMDA-MB-231-LM2乳がん細胞、またはNSGマウスの脇腹にPC3前立腺がん細胞を注射し、非導入型またはnfP2X7-M CAR-T細胞をi.v.注射する前に腫瘍を12日間形成させた。腫瘍はT細胞注入の約2週間後に採取され、ヒトCD3+(hCD3+)T細胞数を測定するための免疫蛍光分析用に処理された。nfP2X7-M CAR T細胞を投与したマウスのPC3およびMDA-MB-231-LM2腫瘍内には、非導入T細胞を投与したマウスと比較して、有意に多くのhCD3+ DAPI+ T細胞が認められた(図5a)。
 これらの結果は、nfP2X7-M CAR T細胞と非導入T細胞の両方が腫瘍実質に移動し、浸潤することができる一方で、nfP2X7-M CAR T細胞は腫瘍内に優先的に蓄積したことを示している。

(実際に腫瘍実質に潜入しがん細胞と結合して作用している)

・nfP2X7標的CAR-T細胞はin vivoでヒト腫瘍異種移植片の増殖を抑制する

nfP2X7-M CAR-T細胞療法のin vivo抗腫瘍効果を調べるため、CAR-T細胞を2つの異なるヒト腫瘍異種移植モデル、MDA-MB-231とPC3に導入した。MDA-MB-231乳癌とPC3前立腺癌は、nfP2X7標的CAR-T細胞のin vivo試験用に選択した。これらの細胞株は、最も一般的な2種類の癌を代表し、ヒト腫瘍異種移植片の前臨床モデルとして広く研究されているからである。
 腫瘍内CAR-T細胞集団において、注入前の表現型と比較して観察された劇的な表現型の変化(補足図6)は、CAR-T細胞が腫瘍細胞と抗原特異的相互作用を形成し、腫瘍微小環境において慢性的に活性化されている可能性が高いことを示している。

 結果として、nfP2X7標的CAR-T細胞が、トリプルネガティブヒト乳癌および前立腺癌異種移植マウスモデルにおいて、強固なin vivo抗腫瘍効果および長期生存を示すこと、そしてnfP2X7標的CAR-T細胞が腫瘍実質に移動、浸潤し、腫瘍内に優先的に集積することを実証した。

(CAR-T細胞が腫瘍実質に移動、浸潤し、腫瘍内に優先的に集積する)

・P2X7遺伝子を選択的に欠失させることで標的特異性を確認し、nfP2X7標的CAR-T細胞は欠失した細胞に対する細胞毒性の低下を示した

(CAR-T細胞の効果はがん細胞に特異的で正常細胞へのダメージは少ない)

考察

・CAR-T細胞免疫療法は、がん治療において大きな可能性を秘めている。しかし、現在までのところ、成功例は血液悪性腫瘍に限られている。現在、固形腫瘍の治療のために多くのCAR-T細胞療法が初期臨床試験中であるが、腫瘍特異的抗原ターゲットの選択、固形腫瘍の効果的な根絶のために必要なCAR-T細胞の最適な表現型の同定など、多くの課題が残っている。

・CAR-T細胞療法を臨床応用するための重要な要件は、ナイーブおよびメモリー・サブセットの表現型など、望ましい表現型の属性を保持し、自己複製能力を高め、再発を予防するための長期的な保護免疫監視に適したCAR-T細胞を強固に増殖させることである。
 様々な培養条件を試験し、T細胞増殖因子を併用することで、他のT細胞サブセットと比較して、自己複製能力を持ち、増殖性が高く、メモリー型とエフェクター型に分化し、多くのがん免疫療法モデルにおいて優れた持続性と抗腫瘍効果を持っているCAR-T細胞プールを作製することに成功した。

・nfP2X7-M CARの大きな利点は、広範囲のがんに対する幅広い特異性が期待できることである。合計で、nfP2X7-M CAR-T細胞は、12のがん種に由来する24の異なる細胞株に対するin vitro細胞傷害性を試験され、その結果、試験された異なるがん細胞株それぞれに対して様々な程度の細胞傷害性を示した。
 
 我々は、2つのトリプルネガティブ乳がん細胞株MDA-MB-231とBT549に対してnfP2X7-M CAR-T細胞を試験した。
 結果、CAR-T細胞は、試験したすべての E:T比※ において、MDA-MB-231細胞よりもBT549細胞に対して高い細胞傷害性を示した。

(MDA-MB-231細胞は浸潤性など攻撃性が高く、生存率が低いトリプルネガティブ乳がんのモデルであるが、BT549は攻撃性が低いと考えられている)。

 このことは、BT549細胞の細胞溶解が、非導入のコントロールと比較して増加したことを伴っており、この細胞株が非抗原特異的T細胞介在性殺傷に対してより感受性が高いことを示唆している。また、P2X7とnfP2X7の両方が卵巣がんで発現していることが報告されている。これと同様に、nfP2X7-M CAR-T細胞はin vitroで2つの異なる卵巣がん細胞株;OVCAR5とOVCAR3に対して有意な細胞毒性を示した。

(nfP2X7-M CAR-T細胞に対する感受性の差異が存在する。中にはBT549細胞のようにnfP2X7じゃないルートで、非抗原特異的T細胞介在性殺傷を受けるものもある)

E:T比:Natural Killer(NK)細胞の細胞障害活性を見ることによって、生体防御機構を知る検査の一つ。患者のリンパ球数(E)と使用する標的細胞数(T)の割合(E/T比)

・nfP2X7がヒト腫瘍に広く発現していることから、免疫療法のターゲットとして適していることを示しており、今後ヒトの固形がんに対する広範ながん免疫療法としての可能性がある。

私評

これはなかなか良いと思う。
なぜって、二律背反って何かロマンを感じて面白い。
もともと二律背反は哲学者カントの用語「アンチノミー antinomy」の訳語として知られる哲学用語で「互いに矛盾する二つのものが存在すること」を指す。オリジナルは
「世界は有限である」と「世界は無限である」
から格調高く始まって、
買取業者の宣伝文句「高く買って安く売ります」
昔話の始まり文句「今は昔、、、」(真意は文面通りじゃないが)
それから、
「賛成の反対なのだ」
「ギンギラギンにさりげなく」
「物事に絶対なんてことは絶対にない」
とか哲学・文学的。
ただ日本語の哲学というとあれだけども、語源のphilosophyには原理という意味合いもあり、それを追求するサイエンスにも通じている。
癌細胞が生き延びるために細胞死が起きない変異を持つ。
そして、それが仇となって選択的に叩かれる。
良いんじゃないでしょうか。


カクテル 39

オールドイングランド old england

ウォッカとドライシェリーをで作るお酒同士でととても濃いアルコールが出来上がります。

ウォッカ 45ml
ドライシェリー 45ml

ステアしてカクテルグラスに注ぐ。

飲んでみるとシェリーの味が全面に出ていてシェリー好きにはすんなりスッキリ飲みやすい。
意外なバランスの良さ。
でもって、飲みながらふと、どの辺がオールドイングランドなのかしら、、、という謎について考え始める。
その昔イギリス人がシェリーやポルトをぶんどったり、それ以前の相手は隣のワインの国だったけども、、そういう馴染深い歴史背景があるからか、、、うーん、それに映画でいつもウォッカ・マティーニを頼む主人公もいるから案外ウォッカ好きなのか、などなど、、、よくわからないまま良い気分になってしまいます。

Emilie Claire Barlow
Don't Think Twice, It's Alright🎵

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